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にっこりにっぽり

あ、ここだ。
そう思ったのは、きっと私だけじゃない。

改札をくぐり、初めて降りる町の空気を吸う。
どうしてだろう。何だかとても懐かしい。

お金の無い私と彼女は、下町カメラデートと
名付け、日暮里散策の計画を立てた。

写るんですを買って、ぶらぶら散歩しようと。

結局、お目当てのカメラは買えなかったけれど、
そんなことを忘れてしまうくらい、日暮里は
温かく、優しく、魅力が転がり落ちていた。

たまたま降りた日暮里駅。
商店街を歩くと、どこを見渡しても布とボタン。

どうやら「日本一の繊維街」なんだって。
これって運命なのかな?

壁一面に世界中から集めたボタン屋さん。
インド刺繍のリボンが敷き詰められたお店。
見たこともない程大きなタッセルや、
職人技の光る高級糸切りバサミ屋さんまで。

七福神の一味がにっこり。

なんでも、浅草の観光地化にウンザリした
布商人達が一斉に日暮里へ移住し、町を作った
のが、日暮里の始まりなんだって。

最初は業者向けの問屋さんだったのだけれど、
海外で安く早く大量に生産するにつれて、
日暮里の繊維街は段々と下火になって行く。

けれど、最近は手芸ブームに伴って、日暮里に
再び活気が戻っているらしい。

よし、いつか日暮里に住もう。
布商人達の強い意志を受け継ぎながら、
日本一の繊維が集まるこの町で。

服をチクチク作るんだ。
詩を編む君の横顔を見ながらね。

アフリカ布の服を着ても浮かないのは、
きっと日暮里くらい。

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