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デスゾーン背に胡坐談

「ちょっと待ったー!」

SNSにメッセージが入る。
時間は22時45分。
受付終了の15分前。

2人目。
これが最後の同乗者になる筈だった―――。

🔥 🔥 🔥

6時間前。
練炭自殺を一緒にする仲間を募集した。
集まったのは私を含む3人。

まず最初に連絡をくれたのはM子
少しだけ話を聞く。
幼い頃からのネグレクト。手首には幾つもの傷跡があり、痛々しかった。死ぬことを決意してくるのだから当然だが、彼女は口数少なく、メイクも殆どしていないような見た目だった。

ただひとつ。
なぜか口癖はこれだった。

「ちょっと待ってー!」

虐待のせいだろう。彼女なりの”やめて”という意味なのかなとも思った。

次、2人目。
冒頭のメッセージをくれたのがS男だった。
51歳独身で某TV局にてサラリーマンをしていたが、早期退職者募集の声がかかり、それに乗っかり退職したらしい。だが、特にやりたい事も再就職のアテもなくすっかり生きる気力を失くしてしまったようだ。退職者募集なんて言うなら会社から見れば”お払い箱”のようなもの。何とも寂しいものだ。

🔥 🔥 🔥

0時。
山奥にある人気のない駐車場。

そこで、七輪に練炭を入れ、私たちは静かに死への階段を堕ちようとしていた。ガムテープで目張りも完全だ。

『じゃあ、着けますよ』

「お願いします」
S男が静かに口を開いた。
心なしか少し声が震えているように感じた。

「・・・ヒ、ヒン」
涙がM子の頬をつたっていた。


カチッ、カチッ、ボボボゥ!🔥
しだいに車内に一酸化炭素が広がる。

🌪 🌪 🌪
🌪 🌪 🌪

『ゥグッ(苦しい!でもこれでやっと・・)』

その時。

ちょっと在ったー!!

『んが!?』

おかしなコエが聴こえたと思い、車外を見るとそこには、2人組のおっさんが立っていた。私はウィンドウを少しだけ開け、こう尋ねた。

『な、なんなんだ?あんたら?』

〈わしか。わしは、ケナシ・フリカケじゃ!ちなみに相方はビシバシ・タタカナイという。叩いて渡るのでなく、起こる事象も来る者も拒まず。ただ観て流れるままに🌀〉

『?・・ケナシ・フリカケ。どこかで聞いた覚えのある名前だな・・』

〈気のせいじゃろう。記憶というものはやってくる故、曖昧この上ない〉

『・・アタマおかしいのか?』

〈わしには、練炭自殺しようとしておるお主らのほうがアタマおかしく映るのじゃがのう〉

『な!・・う、煩いっ!!😡』

〈まぁまぁ、狭い車内じゃが胡坐あぐらでもかいて深呼吸なされ〉

『狭いって。それに私の車なんだが・・・。S男さん、M子さんすみません』

2人に申し訳ないと思いながらも私は練炭の入った七輪を車外に出し、車のウィンドウを全開にした。すると、おかしな2人組がM子の座る後部座席に乗り込んできた。

ガチャッ🚙

〈ちょいとお邪魔するぞよ〉

『なんなんだほんとにあんたらは・・💧』

《あー勿体ねぇ!マジ勿体ないお化け出るよ!!タタカ~ンチェック❗❗🤙》
ビシバシが突然叫ぶように喋った。

〈聴こう。なぜは自殺を?〉

『・・・。私は子供の頃から目立たないタイプで、いつもひとり。通信簿はオール2だし毎日が孤独感、劣等感の繰り返し。もちろんこの未来に希望の光なんてのもなくあるのは悲観だけ。何一つ取り柄もないし生きていても価値のない人間だ。ただ、一人で死ぬ勇気もなく、こうして一緒に死んでくれる人をSNSで募ったんだ』

〈社会的観念の犠牲者であるな〉

『え?』

〈人は誰しも”わたしにしかできないこと”を行っておる。それが意識的にせよ無意識にせよ、如何なる行為もヒトだからこそ可能な経験や体験じゃ。その尊い人生を・・その尊い命を、思考の中だけで悩み、苦しみ抜いた挙句に自らの手で終わらせるというのは、何とも惜しいとは思わないかね?〉

『あんたなんかに私の気持ちがわかる筈ない。どう足掻いて藻掻いて頑張ろうともこの人生の先には何も無い、と私は悟ったんだ。放っといてくれ!』

〈・・お主、まったく悟ってないではないか〉

『なに?』

〈悟る。面白き言葉よ。真の悟った者覚者わかった知るとか悟ったとかそのような言葉は使わぬ。真理を表現する際、理解を促すため使用する場合はあるが、真理には悟る者はいない。そもそも真理とは概念化できぬ上、【何も分からない】【ただ見守ることしかやっていない】【何もしていない】【人とはすべて】【在る】などとしか現わせないのじゃよ〉

『え、えぇっ!?』

〈個人がそこに存在しているなら、お主はまだ悟ってない〉

『ど、どういうことだ・・❓』

〈全イチ。すべてのすべて。愛そのもの。どこにもという概念はないからサトリとも云う。確かに言葉はお主を助けたり、絶望させたりするが、如何なる言葉も真理を孕んでいない。つまり、言葉は言葉に過ぎぬのじゃから、あまり思考に囚われて現実に没頭して考えすぎるでない、ということじゃよ〉

『通信簿オール2でも?同級生や同僚から”お前何もできねーな”と言われ続けても?』

〈それはお主のことを完全に理解しておる人間からの言葉ではないであろう?もっと言えばそれはお主の持つ観念を伝えておるだけじゃ。愛のコント劇場💃

『・・そ、そうだ。たしかに!』

〈エゴは存在せぬ。思考もお主ではない。身体もまた。本当のお主とは練炭で自死という考えに振り回されるような脆く弱い存在ではないのじゃ〉

『いや、それはわかんね💦』

〈わからなくて当然じゃ。思考を自分であると信じ込んで生きてきたのじゃから。無論、そのまま自死しても構わない。本当に望むなら何ら問題ない。じゃが、お主はまたカラダを探すであろう。この人生の続きを楽しむために。何もかも嫌になり、俗世間から逃げようとして、たとえ山に籠っても自殺しようとも世界からは逃げられない。なぜなら、外側の写しは真実リアルではなく、お主の内側にすべてひとつながりの世界があるからじゃ〉

『・・う、内側?😮』

〈死ねば理解る。じゃが、すぐに戻りたくなるじゃろう。この素晴らしき異空間での役割を全うせずに発ったのだから〉

『ちょちょ💦ちょっと待ったーっ!!

〈もう遅い。M子S男の母性本能をくすぐる雰囲気と仕草にメスゾーンまでやられてしまっておる。後ろをみてみなされ💜〉

『へ?』

M子は助手席のS男を恍惚の表情で見つめていた👀✨

ケナシ
との会話に気を取られ、S男M子を放置していた私は、いつの間にか二人がすごくイイ雰囲気になっていたことに気づけなかった。

《大ドンデン返し‼》


『ビクッ💦💦』
ビシバシの声に驚きながらも、私は何ともいえない安堵感に包まれていた。

〈お主のお蔭じゃ。お主がいたから、二人は結ばれた💞〉

『ハッ!?そうか!私がSNSで自殺者を募らなかったとしたら、二人は出逢っていない・・』

〈デスからメス、メスからアースへ。ここでは誰もが命を紡ぐ。お主はただそこにいるだけで、通信簿オール5S判定。絶対評価はなのじゃよ。最初から赦されておる〉

『ひょ・・ひょっとして私はデスゾーンに向かっていたのではなく、車内にあるハビタブルゾーンへ向かっていたのか・・🌎』

〈すべてはラブゾーンじゃ。お主だからこそ成せた👍✨〉

『・・。ちょっと待った。デスゾーンは越えたけど、私は死んだらどうなるんだ?』

〈死んでからのお楽しみじゃ。物語は先がわからないから面白い👶👌〉

『あ・・あ、あぁ😭』

相方写し鏡の世界を大事にしなきゃダメだと思うし。『パートナーなんだな』って思って。女房や子供もいるけど、それよりちょっと濃い感じがしちゃうときもあるんだよな。チェック!チェック!!🤙》

ビシバシが名言を放った。

『い・・一体あんたらは??』

〈お主の目には存在しておるように見えるであろうが、真実では、わしらは存在して生まれても死んでもおらぬ。奇跡の幻想世界にただ在るだけじゃ。すべて全イチ。ゆらゆらとトンデルズともいう。みなさんのおかげです(した)🙇‍♂️〉

『お・・教えてくれ!死んだらどうなるのかを!』

〈しつこいのぉ。M子がS男に向くわけじゃ。寿命を全うして死んだらカタチは変化するが、そのままあちらへ移動するだけじゃよ。来世をどう生きるか?またはそのまま差のない等しき世界に留まるか?しかと想いを馳せよ自らを直視して。ペニwそういえば、その悲観もまたココでしか味わえぬ感情。きっとお主はまた地球へ戻るじゃろう。特別感も敗北感もその写しの身体も・・あらゆる変化を愛してやまないことを知ったのじゃから💚〉

『アイ・・・』

〈何とも現し難い自信がこみあげてきておる。お主に起こるすべての事が、お主にしかできないことなのじゃよ。不要なものを掴んでいたことに気づいたのなら、棄て去ってかまわない。お主だけが観ておる世界じゃ🎥👀

『ハッ!😲』

〈もっと遊べや遊べ。仕事も遊びよ。ヒトとしての人生、楽しまなくて如何する。何も心配いらぬ。俄には信じられぬであろうが、お主は完全に救われておる

そう語ると、おかしな2人組は忽然と姿を消した。
2人が座っていたはずのシートには、なぜか”食わず嫌い王決定戦”と書かれた舞台でツナマヨネーズのおにぎりを食す、ビシバシの写真が落ちていた

🍀 🍀 🍀

常識やルールに倣い、その通りに生きてもいいが、命を現すことに怯えることなく、もっと安心してさらに自由な生き方をしてもいい・・。そんなことをケナシたちは伝えたかったのかもしれない。

幸せを感じる方法?

私が掴んでいたのは、”社会が作り出した幸せ”という単なるひとつのカタチだけだった。手に入れていないそれを求めてばかりで、ない、ない!と騒いでいたのは実は存在しないエゴだったのか。本当は別のところに大切なものがあるのだろう。

それはきっと私の内側

そんな事を考えながら七輪でスルメ🦑を焼いて食べていると、さっきまで自殺しようとしていたことが何だか馬鹿らしく感じ、不思議と心が軽くなった気がしていた🎈

🎉 🎉 🎉

フリータイム。

私は、自分で自分のことを価値のない人間だと決めつけ、そう思い込んでいただけなのかもしれない。内面が変われば外面は明るくなる。ケナシの助言でそんなこともあるんじゃないかと思えるようになっていた。

駐車場から見える夜景の中、ツーショットで楽しそうに会話するS男M子を眺めながら、私はワークマン女子FCでも始めようかと妄想していた。当然、下ゴコロからではないことをここに誓っておこう💜

🎶 🎶 🎶

ではまた。
あなたが自分を赦した頃👶👌✨


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