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ヘルスケアスタートアップは医療費削減に貢献できるのか?デジタルヘルススタートアップの挑戦

我々PREVENT社は、ご存知のように生活習慣病の重症化予防によって医療費の適正化にチャレンジし、日本の社会保障を守らんとするデジタルヘルススタートアップの一社です。

本コラムでは、何とも仰々しいタイトルを付けてしまったのですが、医療費にまつわる大きな誤解を三つ紹介し、どのようにPREVENTが医療費適正化にチャレンジしているのかを紹介させていただきます。

医療費にまつわる大きな誤解①:予防医療で医療費を削減できる

医療経済の専門家の中では、常識となりつつありますが、多くの予防医療は、医療費の適正化に繋がりません。

この主張の論拠となっているのは、 2008年にNew England Journal誌に発表された総説(Cohen JT, et al. N Engl J Med. 2008.)です。予防医療にかかわる費用対効果を報告した研究599編をまとめた結果、Cost-saving、つまり、予防医療にかけた金額よりも大きな医療費削減が期待できたものは全体の2割程度しかなかったことを報告しています。

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Cost-saving:予防医療にかかった費用を上回る医療費適正化効果ならびにOutcomeの改善あり
Cost-effective:予防医療の費用以上の医療費適正化効果はないが、費用に見合ったOutcomeの改善あり
Cost-ineffective:予防医療の費用以上の医療費適正化効果もなく、費用に見合ったOutcomeの改善もない

イメージしやすい具体例を挙げると、医療費適正化と予防医療では、しばしば禁煙が例にとって説明されます。

喫煙は、悪性腫瘍や脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患をはじめあらゆる疾患の発症リスクとなることは良く知られており、百外あって一利なしと言われるように健康被害への影響は大きいものです。その一方で、医療費削減には繋がらないという研究結果がでています。

どういうことかというと、禁煙達成ができた方では、その分生命寿命が延び、その結果、(喫煙者であったが故に)短命であった者より生涯医療費は増加してしまうとされています。(Barendregt JJ, et al. N Engl J Med. 1997.)(林田ら. 日衛誌.2012.)。

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間違えないで欲しいことは、「禁煙」は無駄かというと一切そうではありません。禁煙は、種々の疾病発症予防にとって、最重要である生活習慣改善項目であることに違いはありません。

「医療費削減」と「健康寿命の延伸」はアウトカムとして全く別であり、ここをはき違えた議論がなされることが大変多いと感じています。

必ずしも「健康寿命の延伸」に効果のある予防医療のすべてが「医療費削減」に繋がるわけではないということを理解しないといけません。

医療費にまつわる大きな誤解②:医療費の増加は高齢化によって引き起こされている

もう一つの医療費にまつわる誤解の一つに高齢化社会が医療費増加を招いているというものがあります。勘違いしやすいのですが、医療費増加の要因は高齢化が一因ではあるものの主たる原因ではないという論調が現在では主流です。

米国の1960年から2007年の約50年間にアメリカの総医療費上昇に影響した各要因をしらべた調査(Smith S Health Aff (Millwood). 2009.)によるとその寄与率は、

① 人口高齢化:7.2%
② 医療保険の普及:10.8%
③ 国民所得の増加:28.7〜43.1%
④ 医療技術の進歩:27.4%〜48.3%

であったと報告されており、特に医療技術の進歩や国民所得の増加の寄与度が大きいことが分かります。医療の世界は日進月歩を言われるように次から次へと新しい治療法や技術が導入され、先端技術による医療費高騰の影響が大きいようです。

同様に日本の国民健康保険のデータを用いて調査したものでも、確かに高齢者における一人当たり医療費は、若年層に比べ、大きくなっているものの、医療費の増加における寄与度では、「高齢化率の変化」よりも「医師数」や「県民一人当たりの所得」など、高齢化よりも寄与度が大きい項目が複数あり、高齢化は、1要因でしかないことが報告されています(印南一路編著:再考・医療費適正化. 有斐閣. 2016.)。

医療費にまつわる大きな誤解③:医療費は全国民が少しずつ使っている

これも意外と知られていない事実ですが、医療費を誰が使っているのかには、大きな偏りがあります。PREVENTでは健康保険組合のレセプトや健診データから様々なデータを分析していますが、どの保険者においても医療費を使っている上位5%の人で全体の約50%を、上位20-30%の人で全体の約80%の医療費を使っている構造になっております。

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これは、自治体国保であっても同様の傾向があると報告されており、国全体の医療費も医療費が高額な方の上位20%程度で約8割の国民医療費を使っている。ビジネスに詳しい方であれば、パレートの法則がここにも成り立っていると言えば理解しやすいかもしれません。

医療費を使っている人&使うであろう人は、集団の中でわずかであり、医療費を使っていない&医療費を今後使わないであろう集団へのアプローチは、全く医療費適正化には貢献しないことが分かります。

つまりは、医療費適正化には、適切な対象への適切なアプローチが肝となります。

何が医療費適正化を実現できるのか?

ここまで紹介したトピックのように医療費適正化については、適切なアプローチが重要であり、ふわっと「健康増進に繋がりそうなサービス」では、ほぼ実現できないものであることがご理解いただけたかと思います。

国の課題である社会保障維持において最も分かりやすく効果的である施策は、

(医療の単価を減らす)
効果の高い医療技術を、安く広く使えるようにしていくこと
(財源を増やす)
増え続ける医療介護費に対応できるレベルでの経済成長を達成すること

の2点になります。お気づきのようにこれらは、医療におけるステークホルダーごとの立場上、また国家の成長率を考えた時にそう簡単な話ではありません。

では、我々医療専門職や予防医療を手掛ける事業会社が目指すべきところはどこなのでしょうか。 それは、「病気を発症、重症化させないことを費用対効果高く実現すること」にあると考えています。

これは、国の掲げる医療費適正化の方向性でも「現在かかっている医療費を減らす」のではなく、早期に予防医療や予防サービスの活用を行うことで、これから増加するであろう医療費を抑制していくことに注力すべきだとされています。

糖尿病の疾病管理プログラムに代表されるDisease Management Programの費用対効果を検討した研究でもその医療費適正化効果は、 Cost-savingなものもあれば、Cost-effectiveの域を出ないものもあり、その費用対効果においては、一定の見解を得られておりません。

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PREVENTでは、自らの重症化予防事業を分析し、どのような手法が最も費用対効果の高いDisease Management Programとなり得るのかを検証しています。確かに自社で開発した予測医療費のシミュレーションを活用し検証した費用対効果も、Cost-savingであったケースもCost-effectiveであったケースも散見され、特により費用対効果を高い事業にするためには①適切な対象者抽出や②より高い指導品質が重要であると考えています。

先日我々の医療費適正化に向けた挑戦をForbes JAPAN様にも取り上げていただきました。

国民皆保険制度は、世界に誇れる、人の尊厳を守るセーフティーネットとして素晴らしい制度だと思います。その一方で、この制度が作られたのは、戦後数十年、まだ感染症や不慮の事故が死因の多くを占め、さらには、医療技術の進歩による先端医療の医療費増大にも耐えうる高度経済成長があった時代です。

悪性疾患や生活習慣病といった、慢性疾患が死因の上位を占め、今後さらなる高齢化社会を迎える我が国にとっては、制度のバージョンアップは、必須なのかもしれません。

その一方で、医療従事者や予防医療事業者として、「医療費適正化」に貢献できるサービスを提供していくことは、社会保障制度を守ることに繋がるだけでなく、「病気を発症、重症化させない」ことを正義とするものであり、PREVENTはその新しい時代の健康づくりのアップデートの一翼を担っていきたいと考えております。

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