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別府湯巡り紀行 拾参


この物語は

2022年11月5日、6日に

別府ビーコンプラザ

フィルハーモニアホールにて行われた

即興演劇集団「ロクディムにわか」公演

劇場観覧に乗じて

にわか湯巡りをしまくった

ある男の記録である。


目次


序章 なにも知らないのはいつものこと
第1章 別府の洗礼 
第2章 長い道のり
第3章 別府市民憲
第4章 猫の目
第5章 爽やかな海に
第6章 昼下がりのマーチ
第7章 夕暮れのビーコンプラザまで
第8章 夜、さまよう旅路
第9章 宿にて
第10章 午前中ってのは短いんですよ?
第11章 芝居尽くし
第12章 月夜の湯巡り
第13章 亀川にて




第13章

亀川にて
~似てるところが多すぎて~

3日目 06:00~11:40



朝 06:00 起床

ゆっくり、静かに身支度をする。

開いているところは6時から
温泉に入れるところもある。

もっとも、そんな時間から起きて
風呂に入るような人間は、下準備するなり
早く寝たりしているだろう。


荷物を持って、個人用ロッカーの鍵を
エントランスのキーボックスへ返却する。
良い宿だった。ありがとう。

 

海を見てから移動するとしよう。

 

寝ぼけ眼をこすって、朝日の昇る海岸へ。


 


想像以上に美しい朝が広がる
空気まで神々しい
昔の「金曜ロードショー」みたいだな
あれは夕日か

 

 

遠く、大分のコンビナートだろうか
煙突群や蒸気は四日市のそれにも似ている




「ありがたいなぁ」

 

 

悟りを開くかのような言葉が出る。

 

 

写真を何枚か撮って、向き直り、駅を目指す。
別府中心街とは、間もなくお別れだ。

 

今日は平日の月曜日。
もう少ししたら通勤通学で
駅前もラッシュになるのだろうが
人はまだ疎らである。
駅が近付く。

 

高等温泉前。
道の落ち葉を掃き
朝の掃除にいそしむ
1人の女性がいる。

 

「…あ!」

 

会えなければ、きっと

お礼も言えなかったあの人。

高等温泉のおかみさんである。

「おはようございます。あの、一昨日の…」

財布を落とした者です、と言うと

「あー!見つかったの?心配してたんだから!」

おかみさんは明るく対応してくれた。
すぐにお礼を伝えられなかった非礼を詫びる。
どこに落ちていたのか?との問いかけには
海門寺温泉までの道すがら…と答える。
おかみさんは安堵した様子。

「うちの温泉で無くしたとか盗られたとか
 そんなことじゃなくてよかった~!」

小さな嘘に、胸がチクリと痛む。
おかみさんには言えなかったが
警察からは正確な場所や状況を
聞かされていない。
どんな人がどんな場所で拾ったのか
財布を返してもらう時に
濁された感があった。

どうあれ、おかみさんは
良かった良かったと連呼する。
こちらも、これで良かったのだと思う。

「おかげで無事、たくさん温泉に入れました。
 とても楽しかったです。また別府へ来ます!」

おかみさんへ、ありがとうを伝える。

 

 07:25

別府駅へ着く。

温泉のおかみさんに会えて
お礼をきちんと言えた。
本当に良かった。
 
もう一度、財布を拾ってくれた人へ
電話しようとスマホを取り出す。

少し考えてやめる。

まだ朝じゃないか。
常識的には夕方がベターだろう。

一昨日、1度連絡してから
返信はまだない。
 
そんなことを考えていると
電車が滑り込んできた。
 
「べっぷぅ~、べっぷぅ~」
 
このアナウンスも聞き納めだ。
ありがとう。別府。
 
 
まだまだ帰らないけどね。
 
 
電車へ乗り込み北へ向かう。




亀川駅。


ものの数分で到着する。
 
亀川エリアも別府中心エリアほどではないが
共同浴場など、温泉が点在している。
 
 
午前中はこのエリアを攻めよう。
駅前から一本海沿いの街道へ向かい右折。


5分ほどで最初の温泉だ。


27湯目 浜田温泉

重厚な屋根、建築の美しさが映える

お客の貸切タクシーだろうか
駐車場にて車外で煙草を吸う運転手さん。
 
ぼくが外観の写真を撮っていると、
煙草を消して近寄ってきた。
温泉施設を背景にして
ぼくを撮影してくれると言う。

ありがたい。

ただ、ぼくのことを「お嬢さん」て…。

絶妙にズレているピント
まぁ、別にいいか。これはこれで


 
撮影後、早速温泉へ入る。
 
入口にはスロープがあり
バリアフリー化されている。

天井は建物全体が吹き抜けのようである。
コンクリートの梁が八方向へ広がる
なんとも特徴的でダイナミックな天井。
高さがあるためか内部は広く感じた。

下駄箱と脱衣所から洗い場に壁はない。
浴槽はとても広く、朝の時間帯だが
4人ほどが入浴している。
人気の温泉のようだ。
 
体を流し、湯船へ。硫黄臭さはあまりない。
海も近い。ここは塩化物泉らしい。
お湯が気持ちいい。
朝一番でこの温泉は幸先がいい。


長湯は避けて

続けていこう。

 
5分ほど街道を南下する。
小学生たちの通学時間。
元気な子たちの声の中を行く。
 
 

28湯目 亀陽泉

亀をモチーフにした暖簾の絵柄がかわいい
こちらもバリアフリー化されている


 近年改築したようで、内装がきれいだ。
昨晩訪れた、不老泉と似た雰囲気。
 
脱衣所と浴場は壁で分けられている。
湯船はあつ湯、ぬる湯があり
どちらも加減がいい。
こちらも人気がある様子。
3人ほどが入湯していた。
 


今日は午前中目一杯湯巡りの予定。
どんどん行こう。
 
 
次の場所もすぐ近く。
街道を南下した場所にある。
3分もかからない。
 
 


 
29湯目 亀川筋温泉

田舎の野菜無人販売所のような
素朴さと愛らしさがある

受付などはなく、賽銭箱がある小さな建物。
右が男湯。半地下で無骨な内装。
先ほどまでに入った2湯は、近年
改装や改築がされたのだろう。真新しかった。
しかしこちらは、とても古くからそのままで
地元の人から守られてきたような印象。
地元の爺様が1人、先に入浴していた。
挨拶をして、体を流す。
お湯はしっかり熱い。
ただ、気を付けないと先客に
お湯がはねてかかってしまう。
人との距離が近いのもまた
長年守られてきたものの1つかもしれない。
 
短い時間浸かり、そっとあがる。
 


ここまでは割と近い範囲に温泉があった。
次は街道をさらに南下しなくては。

行ってみよう。
 
道すがら途中、ローソンで買い物。
向かいには、四の湯1区公民館。
そのベンチで少し休憩を兼ねて食事する。
次の目的地の名前ではあるけれど
この公民館に温泉はない。


そこからま 5分ほど歩く。


 
30湯目 四の湯温泉

 
ちいさな広場があり奥に温泉施設があった。
入口に地元の爺様方が井戸端会議している。
「おはようございます」
声をかけるとぺこりと会釈を返される。

受付。おとうちゃんが対応してくれた。
料金を払い、スタンプを押す。
右手を案内されるが、そっちは女湯である。
「すみませんね、男なもので…」
驚くおとうちゃんに照れ笑い。
お辞儀をして男湯へ。
 
こちらの温泉、古さでいえば
かなり昔からあるようだ。

建物周りの植栽などの雰囲気からは
全体の大きさがハッキリと分からない。
 
入ると、驚いた。
とても広い。天井も高い。
半地下で、脱衣所と浴場は一体型。
小判型の浴槽は、あつ湯、ぬる湯が
真ん中で分かれている。 
洗い場も広く、床のタイルが気持ちいい。
レトロな色味、風合いをしている。
すでに5人ほど先客がいたが
狭さを全く感じない。
 
長居してしまいそうになる気持ちを
ぐっと抑えて、数分浸かってから出る。
この温泉も、また訪れたいな。
 


 
次の温泉までは、さらに歩く。

だんだん距離が長くなるなぁ。

それでも10分とかからない距離感。
 
 
しかし―。
 
 

平田温泉

住宅街の路地の先にある

温泉施設の前の庭には、奥様がおり
植込みの手入れをされていた。
 
「こんにちは」
挨拶をするぼくをお客と察し
「あら、今日はやってないわよ」
と、即答する奥様。
 
実に気持ちがいいフラれっぷり。
 
参考にしていたサイト「かけ流しクエスト」も
よく読むとちゃんと「月曜定休」と書いてある。

完全敗北である。
 
気を落としている間を置かず
すぐ次の温泉までのルートを探す。
失敗はくよくよしない。
柔軟に回避する。
 
良いように解釈してはいるものの
温泉ダメ人間になってきている。
じわりと実感する。
 
ここから北東へ7分ほどに温泉がある。
さあ行こう。
 

 
 
31湯目 競輪温泉
 

場外券売所に見えなくもない受付
しかし、ちゃんと温泉である

直球のネーミングの通り
競輪場そばに設営された温泉。
競輪をしなくても温泉に入れる。
 
おねぃさんが受付してくれた。
スタンプを押してから
スッと男湯へ入ろうとすると
「えっ、あっ、ぇ?」
と戸惑わせてしまった。
ごめんなさい。
 
綺麗に整備された脱衣所、珍しく
2つ洗面台と鏡がある。

別府の共同浴場ではあまり
洗面台は見かけない。

壁を挟んで浴場がある。3人ほど先客がいた。
皆、競輪をするのだろうか?
話がはずんでいるが、ぼくには
頓珍漢な言葉が飛び交っている。
 
ぼくは耳を向けながら、そっと体を流す。
ぬるめのお湯へ少し浸かり、出る。

 

気持ちのいい、午前の風が吹く。

風呂上がり、施設の前には
競輪場がデンとあり、愛好家であろう
おじさんたちが何人かいる。
 

海岸沿いの競輪場
四日市にも同じような景色がある

別府の街に来る前から、覚えていた既視感。
ぼくの暮らしている土地と似たところが、
その時、別府にはいくつもあることに気が付く。
 

前まで暮らしていた隣の町、四日市市には
競輪場がある。中心地には歓楽街もある。
港は大型船舶が停泊することだってある。

現在暮らしている三重県菰野町には
湯の山温泉という温泉があって、
山にはロープウェイもある。
 
そう、全部。みんな、別府にもあるのだ。
規模は別府のほうが大きいようにも思う。
特に温泉。湯量も、施設も比じゃない。
 
いい街と感じるわけだ。
親近感と羨望が、ぼくの心に去来する。



 
少し寂しくもあるが
もう1湯巡ったら、亀川を離れよう。

実は、亀川エリアには浜辺に砂湯もある。
ただ、竹瓦温泉でもそうだったが
砂湯体験は、今回見送ることに決めた。

楽しみを一度に何もかもしてしまっては
次回来るための原動力が失われかねない。
 
そんなわけで、亀川での
最後の温泉へ向かう。
 
旧街道なのだろう。路地へ。
大きな病院わきを通り
丘陵地の高台を進む。
趣のある古い住居が多い地区。
そのさきに、やはり趣ある佇まいで
その温泉はあった。
 

 
32湯目 前田温泉

受付の小さな窓と料金箱。
右が女湯、左が男湯。
脱衣所浴場一体型で半地下
空気はカラッとしている。

ここまで、今日はどこの浴場も先客がいた。
今回は誰もいない。無意識での
ガッツポーズだったのかもしれないが
服を脱ぐ前に大きく伸びをする。
 
1人で入湯できることの幸運と
贅沢さを噛み締める。
 
浴槽は小さ目。
その分洗い場が広く感じられる。
お湯は熱め。肌触りもさっぱり気持ちよい。
 
 
たくさん温泉に入ってきた。
半地下の浴場は、やはり天井高いのが
とっても具合が良い。居心地が良いのだ。
 
それぞれの温泉は愛されているのが分かる。
日本一の温泉県と謳いたくなるのもわかる。
これは誇りたくもなるし自慢したくもなる。
 

 
湯上り、また海が見たくなった。
競輪場も浜の近くにあった様子だし
海岸線まではそう遠くないだろう。
 
海近くの競輪場っていうのも、やっぱり
四日市と同じなんだよなぁ。ぼんやり思う。
 
国道を渡り、緑地公園に入る。


空がとても広い
海にて。軽く食事をとる


遠くの陸地が浮いて見える
蜃気楼だろうか。ひょうたん島?


 
昨日までの舞踏や音楽や演劇のことを
霞雲のスクリーンに浮かべてみている。
 
もちろん温泉のことも、忘れたくない。
メモに箇条書きで少し記録する。
記録は取り始めると止まらん。
ほどほどにして移動しよう。
 
国道沿いのバス停で取り合えず
亀川駅までを目指す。
今まで歩いてきた午前の道のりを
ものの数分で戻る。
 
すごい。サイコロの旅みたいだな。







亀川駅からは、更にバスへ乗る。





次なる目的地は鉄輪エリア







国道の最寄りのバス停には鉄輪直通便がない
そのためひとまず、亀川駅を目指した







そう。






地獄である。









つづく











次回 第14章
極彩色の世界
~地獄と、温泉~


御期待ください





別府八湯温泉道公式HP
https://onsendo.beppu-navi.jp/ 


かけ流しクエスト
https://kakenagashi.com/category/beppuhattou 


即興芝居×即興コメディ
即興パフォーマンス集団 ロクディムHP
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