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別府湯巡り紀行 陸


この物語は

2022年11月5日、6日に

別府ビーコンプラザ

フィルハーモニアホールにて行われた

即興演劇集団「ロクディムにわか」公演

劇場観覧に乗じて

にわか湯巡りをしまくった

ある男の記録である。


目次


序章 なにも知らないのはいつものこと
第1章 別府の洗礼 
第2章 長い道のり
第3章 別府市民憲
第4章 猫の目
第5章 爽やかな海に
第6章 昼下がりのマーチ




第6章

昼下がりのマーチ
~ピアノマンを聴きながら~

1日目 13:35~15:15



13:38
かっぱの湯

玄関で、ぼくはまた探し物をしていた。

またやっちゃいました?

お前はいつもそうだ

誰もお前を愛さない



しかし



失くした場所は、分かっている。

失くしたモノも、分かっている。




それが財布でないのは救いだ。



~3分前~



意気揚々と靴を脱ぎ
かっぱの湯の下駄箱にしまう。

玄関口に券売機がある。
入湯料を…おや、サウナもあるのか。
まあ、今回は湯巡りに注力したい。
サウナはパスしよう。
財布を手に取るのが
なんとも嬉しい。
おかしな話だ。


チケットを買い、ロビーを見回す。
こぢんまりとしたゲームコーナーがある。
クレーンゲームとかレーシングカーの
筐体がいくつか設置してある。

旅館とかにもこんなスペースあるよな
そんなことを思いながら
受付カウンターへ。



気の良さそうなお兄さんが
ほがらかに出迎える
「いらっしゃいませ」
そういえば「ないな」と思い聞いてみる
「ここってスタンプ置いてあります?」
先ほどの券売機にはなかったし
パッと見、カウンターにも見当たらない。
「えぇ。こちらに置いてございます」
カウンターごしにスタンプと朱肉があった。
どうやら受付側で管理しているようだ。

24時間の営業だし、きっと
たくさん来客もあることだろう。
何かしらイタズラされてもかなわない
その方が安心だ。

じゃあ、スパポートを







あれれ。


「ないな」


スパポート。



もう動じない。


スパポートはない。






ひとしきり探して
カバンにはない。


はいはい。


ということは
置き忘れですね。


場所は弓ヶ浜だな。
押したもの。
スタンプ。
緑の朱肉で。


お湯がないから動揺したのか
トイレ行きたくて急いでいたのか
原因が何にせよ


ないものはない。



んん~!


13:40

カウンターのお兄さんに
スパポートを置き忘れしたかもと伝え、
聞いてみる
「すみません、この入湯チケットって
 一旦戻ってからでも使えますか?」
「大丈夫ですよ!日付が変わらないうちに
 ご利用いただければ、使えますから」

優しい。

それじゃあ、また、ね。と
バツの悪い顔のまま玄関を出る。


この時考えていたのは、2つのルート


ひとつは
弓ヶ浜でスパポートを回収して
そのまま入湯できれば入る。
入湯できなければ
再び北上してかっぱの湯へ入り
南下しつつ湯巡りをつづけるルート。

もうひとつは
スパポートが弓ヶ浜になく
完全紛失だった場合。
再び別府駅の観光案内所まで戻り
スパポートを再購入するルートだ。

いわゆる「ふりだしにもどる」である。


弓ヶ浜~かっぱの湯まで
往復で1時間の距離であるが
夕方まで時間はたっぷりある。



時間は問題ないけども、
ふりだしには、もどりたくねぇなぁ
たぶんあそこにあるはずだよなぁ
またかっぱの湯に戻るのか…
え、これ、結局2往復する?

かなりの距離を歩くのは
少し考えればわかりそうなものの
誰かに迷惑かけるわけじゃなし。
別に良いか。深く考えず歩く。
ツイッターとかチラチラ見ながら歩く。




ロクディムライブのリハーサルが
短い動画で上がっていた。

https://twitter.com/erich_o84/status/1588751520732164097?t=_iwy9VfAliCgK7AfkVqFCg&s=19 


名曲「ピアノマン」が聴こえる。
即興演奏のコニタンが弾いている。
発声などでホールの反響を確かめる面々。
客入り後は、また響きが変わることだろう。
それも楽しめたらいいな。

Spotifyでビリー・ジョエルを探し、聴く
https://open.spotify.com/track/70C4NyhjD5OZUMzvWZ3njJ?si=orCW3CmbQSi43XT5xCo5cQ&utm_source=copy-link 



夕方から舞台が見られる。

なんだか嬉しくてニコニコなりながら

先ほどぶりに、弓ヶ浜温泉の戸を開ける。



5湯目 弓ヶ浜温泉

置いてけぼりにしてごめんね。
スパポートは、そのままの位置にありました


あったあった。
スパポートを無事回収。
ふりだしにもどるは回避。
ひとまずほっとする。


ダバダバダバ…


振り返るとホースからお湯が
浴槽に注がれている。
湯量は湯船の半分位だ。

さっき料金も払ったしなぁ。
まあ、入れないこともなかろう。

受付はいないし。

服を脱ぎ。
体の汗をながし入湯。

今日は冷や汗をかきすぎたな。
どうにもならないなぁ。

これが誰かを巻き込むような
失敗の連続だったなら、旅の行程は
悲壮感に包まれてもおかしくないが
そこは一人旅。別に何ともない。

案外、心の中はヘラヘラしている。

反省しないなぁ。
きっとまた大変なことをするぞ。。
心の監査が嗜める。



お湯で顔をバシャバシャッと洗う。


外から物音がして
ガラッと戸が開く。

年配のステイサムみたいな
面長のオジさんが顔を出した。

「あれっ!?湯、足りないでしょ!」

営業までは30分ほど早かったらしい。
出た方がいいか訊ねてみる、すると
「まぁ、あんたがそれでいいなら…」
入湯を許してくれた。優しい。

湯巡りしていることと
長居はしない旨を伝え
少しだけ足をほぐしたあとで
風呂から上がることにした。


腰までの半身浴、おしまい。
次を目指そう。



次は…

ポッケの入湯チケットを取り出す

かっぱの湯…か?

こっからまた、30分かぁ。。

そうだ。
道中の京町温泉は
もう開いてるだろうか。
寄ってみよう。


6湯目 京町温泉

身から心までぽかぽか、なんて素敵な響きだろう。


ガラガラっと入口の戸を開ける。
女湯側から井戸端会議が聴こえてくる。
受付さんと常連さんだろうか。
お薬がどうとか、お医者さんがどうの…。

少し声を張って、声掛けをしてみる
「お邪魔しまぁす、料金入れまぁす」
「はーい、ごゆっくりー」
声だけ返ってきた。

のんびりしていて良いなぁ。
スタンプも受付に置いてある。

スタンプを押す
「京町」って名前が
やんごとなく雅である。

浴場には1人
年配のおじさんがいたが
入れ違いで出ていった。


お湯はあつ目だった。
女湯との壁を背に
縁の丸い四角の浴槽。
こじんまりとしている。

女湯も似た構造なのかしら。
朝のことを思い出して
自嘲気味にふふっと笑う。
さっきは半身浴だったから
肩まで温める。

さっと湯から上がり
次は最寄りの餅ケ浜温泉にするか
暫く歩いて、かっぱの湯にするか
少しだけ考える。

温泉には、水分をとりつつ
塩分も適度にとりつつ
熱中症にならないよう気をつけて
入湯しなければならない。
ペットボトルの水を飲む。

歩く距離が遠い場所へ行こう。
結局は行かねばならんのだし
行けば戻ってくることになるのだ。

餅ケ浜温泉は後にして
かっぱの湯を目指す。



朝に買ったまま忘れていて
鞄の中でペチャンコになった
赤飯のおにぎりを
むしゃむしゃ食べながら
また北へ。



7湯目 かっぱの湯

共同浴場ばかり入っていると
逆にスーパー銭湯が新鮮になってしまう
わくわく温泉、別府マジック


再び。
受付カウンターには
さっき対応してくれたお兄さん
「あってよかったですねぇ」
スタンプ台を出しながら対応してくれる。
スタンプは温泉に入るかっぱの絵。
かわいい。

脱衣所は広めの銭湯のよう。
浴場にはジャグジーなど種類豊富で
長居時間ゆっくりできる施設な印象。
サウナは露天の扉へ続く階段の途中にある。
水風呂もサウナ入口正面にあった。
これまでシンプルな浴場の
レイアウトばかりだったので
やたら立体的に見える。

7、8人が入浴しており
人気のお風呂といった感じだ。

内湯をひととおり楽しみ
サウナをスルーして露天風呂へ。

開放的で良い。空が青い。
湯に浸かり息を吐く
「あぁ、ゆっくりしてぇ…」
切実な言葉が漏れる。

適度に疲労を積み重ねては
温泉で癒し、汗を流していると
自分がちゃんと回復しているのか
わからなくなる。

湯巡り、明日はのんびりしたいなぁ。
このペースだと1日10湯くらいかな?
流石に入りすぎかなぁ。

自重という言葉が
右から左に通りすぎる。

午前中も、午後からも
たくさん時間を無駄にしたな…
もっとうまく湯巡りできたのでは。
露天で足をほぐし、早くも
次の日の算段を立てようとする。

いかんいかん。
温泉の中で考えてたらのぼせる。

時刻はもう15:15を回っていた。

あれぇ…

あんなに時間あったのに…。




取り戻せないものへ

悲しいだとか

悔しいだとか

そんな感情が

普段なら沸くかもしれない。







だが、今は旅路。


そしてここは、温泉地。


楽しまなくてどうするか。


嫌な感情も忘れるくらい


楽しくしたらいいだけだ。


余裕がなくなるまで



楽しめば良いのだ。


やるぞ。湯巡り。





奇妙な強い意志が顔を出す。





ひとり旅という状況と

風呂の入りすぎで

感情のメーターが

壊れたのか。

止める者はどこにもいなかった。










つづく












次回 第7章
夕暮れのビーコンプラザまで
~坂の街、別府~

お楽しみに





  • 6-dim 

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