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いい夢みろよ Fight Club篇

12月10日(日)
16:50
近鉄名古屋線 上り 特急車内

今日も今日とて「みどりの日」
充実した1日を終えた。
ひと安心して銭湯とライブへ向かっている。
いつもの楽しい心持ちである。

日中は紅葉美しく


津駅の構内、コンビニで適当に見繕う。
夕方の一杯をやろう。ひとり前哨戦。

その連絡は突然来る

特急の席で缶ビールを開け
一口のんだ時に、LINE電話が鳴る。

妻だ。なんだろう?

電話をとるため、デッキへ移動する。

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話をする数分

諸事情で内容を詳しく言えないが
妻より、すぐに帰るか、どこかで私を
ピックアップできないかを打診される。

私は開口一番に
「今、特急で夜は名古屋…」
と答えてしまう。

バカだねぇ、何も言わず黙って
まっすぐに帰ればよいものを…
守護妖精が私へ言う。

しまったな、私もそう理解する。

鈴鹿の白子だった。
今から帰ります。
予定はキャンセルすればいいから。
そう伝えるも
「特急券が無駄になるでしょ。
 いいよ行ってくれば。
 予定あるんでしょ」

対話の雲行きは怪しくなる。

業者を呼んでみてくれないか提案する。
私が帰ってできることはないだろうから…
「わかったそうする(切電)」
論調は厳しく、会話はピシャリと閉められる。

判断、誤った…。後悔する。
ここは黙して直帰コースが
おそらくは正解だったろう。

すごすごと指定席に戻る。
酒と肴の味がしない。
無心で流し込む。

四日市が近づく。
気持ちが落ち着かなくて
デッキ、降り口側に移動する。

やっぱり帰ります、とLINE。

既読からの返信
「また業者へキャンセルしろと言うの?
 業者を呼べと言ったのはそっちです」
そうですね。おっしゃる通り。
火に油を注ぐような話を蒸し返した。
原因作ってからの回収(自損事故)が早すぎる。
「名古屋へ行ってきます」
返事を書いてから
また気持ちが落ち込んでくる。

こういうやりとり、本当下手ね
守護妖精が呆れ返る。

そうね。誰も助けてはくれない感じ。

近鉄四日市の駅、ホームへのドアが閉まる。
特急列車へ残された男は、茫然自失。

ケンカは弱い。論争でもそう。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

名古屋駅より
桜通線から車道駅で降り
放心のまま北北東へ歩いて10分。
本日の銭湯に到着。

桔梗湯

充実したラインナップが響かない

入湯、サウナも試す。

あ、ダメだ。
ヤバいぞ、これは。
心に安心できない要素があると
こんなに何も刺さらないものか…。

普通に銭湯に罪はない。

悪いのは、私。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

お湯に浸かりながら
長居するのも銭湯に良くないな、などと
訳が分からない思考になる。

頭を冷やすために早々に退散しよう。

冷え込んできた夜を30分かけて歩く。
こんな筈じゃなかったのに
言ってしまったことや
今 ここにいる理由を
あれやこれや。
絡まる思考。

ライブ終わったら、すぐに退散して
夜は夜で働かないといけない。
家の最寄り駅より1つ手前で降りて
20分歩いてバイトに行く予定。
だから、あんま飲めないし
時間の制約もある。
最後まで観覧できるのか。
落ち着かない要素ばかりが目立つ。

ライブ帰りにバイト入れてる時点で
だいぶ気が狂っているとは思う。

イカンなぁ…


千種公園辺り
しょぼしょぼ歩いているとDMが飛んでくる。
LINEじゃなくて、DM? 誰かな…。
見れば名古屋のライブ顔馴染みの
Masahayaさんからだった。

「今日行くけれど来るか?私は遅れそう」
のようなことが書かれてある。

SNSで私が「ライブ行く」と
大々的に宣言しないから
連絡をくれたようだ。

私も今日行くこと、ライブの開始時間や
歩いて会場に向かっていることなど伝える。


ああ、そうか。

たぶん今年、会えるのは
Masahayaさんも、今日の主役も
今夜が最後になるんだろうなぁ。


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19:08
池下GURU✕GURU 

いつものグルグル

開演20分前に到着。
写真を撮っていると主役が道端から現れる。
今日は谷澤ウッドストック、ワンマンである。

「はくぱぱさん、こんばんは」
「谷澤さん、お久しぶりです」
「そんな(会う)頻度離れてない気ぃする…」

今日は、ゆっくりできないことは
DMであらかじめ伝えていた。
改めて時間になったらドロンすると伝える。

「忙しい中ありがとうございます」
「いやいや、ゆっくりできず御免なさいね」

店内へ。
消毒して会計とドリンク注文。
マリブコークを頼む。

今日はこの一杯

ステージ袖の最前席に座る。
マリブコークは甘さと香辛料がいい味。
椅子はフカフカで気持ちいい。

五感は丁寧に情報を脳に伝える。
でも、心は宙に浮いて足をつかない。
業者来ただろうか。妻は大丈夫だろうか。

いま、気付いたんだけど
ライブって最低限の精神的余裕ないと
だいぶアカンのとちゃう?

帰ったら謝ろう。言葉が過ぎたとこあったし。
何より帰るべきだった。好き勝手がすぎる。

ライブ始まる前から、もう消沈しつつある。

お酒の力もあり、脳内は明晰になる。
野暮ったい言葉で自分を責める。

聴く姿勢がないのか?失礼な奴だ。
ごめんて。ちゃんと聴くから。

どちらも自分だが
そんなやりとりをしていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

開演
谷澤ウッドストック
「いい夢みろよ」
名古屋池下GURU✕GURU

谷澤ウッドストック
ワンマンは大阪以来 今回はソロ

はじめの曲が終わる頃、妻からLINEが届く
「(問題)解決しました。」
ひとまず安堵。
諸々の詳細は顔を会わした時に聞こう。
短い文章のやりとりをして
最後に平謝りの言葉を送る。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

だいぶ心が落ち着いてきた。
2曲目、「鳥籠」の演奏に集中していく。

お店の入口のベルがカラコロと鳴る。
あ、Masahayaさんだな。
チラリと顔を向ける。

「集中」って言葉の意味知ってる?
守護妖精が机の下で
仰向けに寝転がりながら言う。
知ってる知ってる。悪かったよ。

3曲目
「ファイトクラブ」という曲。

同名タイトルの洋画。
知ってる人もいるだろう。
エドワード・ノートンと
ブラッド・ピットの映画。

ネタバレなしで極力簡単に伝えれば。
相対する男の精神の
二面性について描かれている。
葛藤と渇望は表裏ではあるものの
いずれも内在する男の感情である。

感情の面で言うと私の場合
二面というより多面体すぎる。
原因は分かっている。
大昔に、完全に壊れてしまったから。
自己を再構成しては壊れてを繰り返し
今に至る過程で、感情は多面体化した。

感情は、葛藤と渇望だけではなく
ひどく雑然としている。
それぞれが要望と反証をするし
他人の魂までいる始末。
足元で転がっているのがそれだ。

それも含めて私には違いないのだが、
私自身、全容を理解しきれていない。

まだ見たことない自分もいよう。

なんの話だっけ。

あぁ、ファイトクラブ。
映画では感情の発露が暴力や痛みだ。
戦いの中で男が自身を取り戻していく。
争いは弱いが、抗うこと、諦めないこと
夜は明けることを教えてくれる。

ライブで音楽に漬かり
感情が回復してきた。
一時はどうなるかと思ったが
どうやら、大丈夫そうだ。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ソロライブも、大阪公演に同じく
前、後半の2部構成。

1部が終わり、Masahayaさんに挨拶。

「んー?どうした?」
今日の不安要素が抜けきっていなかったか
私は感情が顔に出ていたようだ。
心配されてしまった。

かいつまんで今日のことを話す。
帰ったら謝ろうと思う、と言うと。
「うん、そうしなー」
と返してくれた。

1人で思い悩むより
胸の内を話してしまうと
少しだけ救われた気持ちになる。
ありがたい。1人ではできないこと。

私は、席を交換しようか質問する。
ひょっとしたら今回は
途中で帰ることになるかもしれない。
彼女も齧り付きの席に座れる。
Win-Winの提案だったが、彼女は
快諾してくださる。

視点を移して、また新しい景色。

後半戦が始まる。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

1部でもそうだったが
ワンマンツアー「いい夢みろよ」
大阪公演との違いを感じている。

セットリストは、ほぼ同じ
ソロの分だけ数曲、追加されている。
新曲が聴けるのは嬉しい。

そう。違いだが…
バンドセットになら出せる音楽と、
ソロでこそ出せる音楽について考えていく。
あくまでも感じとれる範囲で
尚且、楽しみを外れない柔らかさで。

音の具合は勿論、ライブハウスそれぞれの「箱」の特性とか、観客の着衣の違いとか
反響と吸音の変化は大きいものである。

それとは別に、ソロであるがこそ
より強く体感できるのは、空間の静動。
特に『静』の余韻のように思う。
それが聴いていて楽しい。

谷澤さんの音楽に垣間見るのは
煤けたスモークの香ばしさ。
炎を囲み、暖をとるような
胸を熱くさせる、音の風景。
それは楽曲に内包されていて
見せる場所はバンド、ソロで
大きく変わらない。

ただ、やっぱり違いはあって。

バンドだと、明るさが際立つ。
森のざわめきとか、星空の瞬きとか。
音のベクトルが、『動』で、とても賑やか。
いや、華やかと言えばいいか。
見せる角度が違うのかな。

ソロのよさは、音がシンプルに聴こえるから
音と音の間の、『静』がより深く感じられる。
その空間の暗がりがよく見えてくる。
景色や場所は同じでも、そこにあるのは
動きの微かな『静物たち』で。
明度が上がることで、暗さの奥にある
潜んでいる感情も浮き彫りにしてくれる。

とてもいい。違いはある。
それらを整理して受け止める。
変化は、認識してこそ楽しめる。

シンプルな音の深み


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ワンマンツアーのテーマでもある
「いい夢みろよ」のあとに
2回のアンコール。
「700の風と沿岸列車」「運河」
噛み締めるように聴き入る。
「700の風…」はいつも泣く。

20曲、アンコールの2曲。
演目は全て終了する。

荷物を担ぐ。時計を見る。
21:28。おぉスゲェ。
時間いっぱい、計画通り…!

谷澤さんも腕時計を見て、驚いている。
「ありがとうございます!」
「いい1年でした。また来年!」

感情が紆余曲折したけれど
今日来て本当によかった。

Masahayaさんへ手を振る
また来年。ありがとうございます。

店をあとにする。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

帰り道。

1駅手前で途中下車。
20分歩いて酒を抜き現着。
1時間、体を動かす。終了。
いつもの荷物でないことに気付いた人が
「今日どうしたの?」と声かけしてくれた。

実は…かくかくしかじか
   これこれうまうま…と説明。

何だかんだで、自宅まで車で
送ってもらえることに。やぁありがたい。

親切な人が多くて、生きるに困らない。



寝静まる家に着く。

夜が明けたら
妻に言葉を渡そう。
闘いたくはないからね。

「ごめんなさい、ありがとう」
 





おわり




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