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ボブ・ディラン

プーシキンというバンドをやめた。厳密にいえばクビになったというか。2年くらいやっていたのかな。まあ、どちらでもいいのだけれども。よくあることです。
別に書かなくてもいいことだけれども、というか、書くべきことなんてひとつもないから書かなくていいこともないようなものなので、こんな前置きは必要がなかったことが50文字くらいかかってわかったけど、やっぱりちょっとここに残しておこうと思った。
部屋に置いていたギターとエフェクターケースを寝室の奥の方に引っ込めた。
プーシキンじたいは続くみたいです。どういう形態・編成で再登場するのかは勿論ぼくは知る由もありません。例えば、コーラスが3人くらいいて、ホーン隊がいる10人くらいの大所帯バンドに変わっていたりするのかもしれないし、フルートやサックスが入った小編成バンドかもしれない。どうなるのでしょうか。

久しぶりになんにもない土曜日。好きなだけ昼寝をして、好きなレコードを聴く。

先週の土曜日は、有明ガーデンシアターにて7年振りの来日単独公演となるBOB DYLANを観に行ってきた(2018年にフジロックへの出演で来日している)。2020年に来日公演が決まっていてチケットも販売されていて、ぼくも購入して待っていたけど、世界的パンデミックで来日が中止になった。もうBOB DYLANを観ることができないのかと諦めていたけど、今年に入ってから4月に来日決定の一報。先行予約で当選するも支払いを忘れるなどのことがありながらも、BOB DYLANはぼくのことを見落とすはずもなく笑、なんとかBOB DYLANのライブを観る権利を得た。

会場内で携帯電話の使用ができないようにする為に、開場前に開封できないような仕組み?のケースに入れたり、金属探知機で全身をくまなくチェックされたり、オペラグラス・双眼鏡等も持ち込み不可、勿論手荷物検査もあったりで、少し異様な雰囲気はあった。

やっとこさで会場のなかへ。開演時間きっかりに始まることは知っていたので、余裕を持って行きたかったのだが、なんやかやありギリギリになってしまう。ぼくはA席という今回の公演においていちばん安い席を購入していたのだが、会場するなり「A席のチケットの方は引き換えをお願いします」みたいな看板があり、その方へ向かうと、集客が少なかった為、A席をS席に替える内容だった。S席といってもステージからいちばん遠い席だ。ぼくは元々5F席のいちばん後方だったのだが、4F席の後方に替わった程度の変更。まあでもなんとなく得した気分もしたが。
1Fにグッズ売り場があったが、係の人に終演後も購入できるか確認を取って急いで自席へ。

照明が落ちてなにやら荘厳な曲が流れBOB DYLANを含めたメンバーが登場する。長いことBOB DYLANといっしょにバンドをしているベースのTONY GARNIERと、マルチプレイヤーのDONNIE HERRON以外の3人(ギター2人とドラム1人)は2021年あたりからこのバンドに参加しているようだ。今回の編成での来日ははじめてとなる。
今回のBOB DYLANはステージセンターにどしんと客席の方を向いた形で、ミニグラウンドピアノというキーボードみたいなピアノを全編に渡って演奏しながら歌っていた。前回までのここ何年かの来日はステージ中央やや右側にBOB DYLANがいる形で、横を向きながら歌い、たまにこちら(客席)を観て、たまにステージのセンターにあるスタンドマイクまで移動して歌い、そこでハーモニカを吹いたり、2010年の来日のときは1曲だけギターを弾いたりした。
センターのBOB DYLANを囲むようにして、ステージ左からリードギターのDOUG LANCIO、ドラムのJERRY PENTECOST、ベースのTONY GARNIER、ペダルスティールギターやマンドリンを弾くDONNIE HERRON、リズムギターのBOB BRITTといった陣形。

ライブはもう素晴らしすぎた。

メンバーみんながBOB DYLANの一挙手一投足を見逃すまいと終始見つめながら演奏していた。メンバーはお客の方に目線をやるサービスをする暇はまるでなかった笑。
そう、前述にBOB DYLANが全編に渡ってピアノを弾いていたと書いたが、今回の来日公演の肝のひとつがそれで、演奏の中心にBOB DYLANのピアノと歌があり、他のメンバーを牽引する(他のメンバーが合わせる)形の演奏と、その陣形の見た目にグッときた。勿論、演奏の内容もとてもよかった。別日では、結構グダグダっとした場面が露骨にわかることもあったみたいだけど、ぼくが行った日はそのような場面はなかったか、またはぼくが気がつかなかった。

あと、歌声。バンド全体のあらゆる音のなかのひとつの歌声ではなく、歌声が明瞭に聴こえてきた。ギターやキーボードやベースが織りなす音楽的なグルーヴみたいなもののなかに歌声があるのでなく、今回の来日公演はBOB DYLANがステージのセンターにいるという陣形だけの意味合いではなかったんだ、と終演後のりんかい線のなかで思った。あくまでBOB DYLANの歌声とピアノが中心ですよ、という意図。それがうまい具合にバシッとハマって、バンドメンバーは大変だと思うけど笑、それがとてもよかった。
歌声に関しては、前回の単独来日公演の際にフランク・シナトラを中心としたアメリカンポップスをカバーしたアルバムを何枚かリリースしていたときの来日だったので、その公演の半分くらいはカバー曲だったのだが、そのときの歌声が普段の嗄れ声ではなく、とてもすばらしい美声を聴かせてくれた。正直、この公演を観て思ったのは、それはそれで素晴らしかったのだが、やっぱりボブ・ディランの歌が聴きたいよねーというのが正直なところで、曲のアレンジもなんかグッとこなくて少しがっかりみたいなところもあったけど、今回の来日公演を観て、あのシナトラ期(とぼくが勝手に名付けているんだけれども)がなければ今回のあの歌声はなかったのでは?シナトラ期はボブ・ディランの長い活動のなかで必然だったのでは?と思わざるを得なかった。

演奏、歌声ときて最後に演目。「風に吹かれて」「ライク・ア・ローリング・ストーン」などのボブ・ディランを知らずともなんとなくCMとかで聴いたことがあるような、所謂名曲は一切演目には含まれておらず、2021年にリリースされた『rough and rowdy ways』という新しいアルバムの収録曲を中心としたセットリストだった。これも素晴らしい。60年以上活動していて、BOB DYLANがやりたいのは最新曲なのだ。しかも、このアルバムのリリースから2年程経っているので、当然のことながらアルバム収録のアレンジとも異なっている。常にアップデートを繰り返している。81歳で、それこそ現役のミュージシャンであり続けている。ミュージシャンとして当たり前のことかもしれないが、世界的にレジェンドとか呼ばれるくらいの人なのでそうでなくとも成立すると思うんだけど、そうではなく、最新曲を最新のアレンジでいちばんやりたいし聴かせたいのだ。しかも、上記のこともあってすべてがうまくはまっていてほんとに素晴らしかった。

終演後に興奮が収まらず、買う予定だったTシャツが完売していて買わなくてもよかったんだけど、興奮して買う予定になかったTシャツを買い、帰りの電車のなかでさっきまで観ていたライブの感動の余韻に浸りながらまだ興奮が収まらず、結局高円寺のはらいそへ行って店主さんに長い時間をかけて今日あったBOB DYLANのことを話した。聞いてくれてありがとうございました。
「いま話してくれたことを、この前ラジオでみうらじゅんが10秒で言っていた」と店主さん。そのときみうらじゅんが言っていたことというのは、ボブ・ディランは横で見るのではなく縦で見る、という話。最新のボブ・ディランを見れば、その奥にデビュー当時のボブ・ディランも垣間見れるし、70年代のときの歌声も聞こえてくるし、みたいな話だと思う。アコースティックギターを片手に「風に吹かれて」を歌っていたボブ・ディランを聴きたくて会いに行こうとしても、いまのボブ・ディランはそこにはいない。ピアノを弾いているボブ・ディランがいるだけだ。

純粋に、素直に、もう一度ボブ・ディランを観たいと思った。また観たい。待ってるよ、ボブ・ディラン。

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