芸能人に一本釣りされた会食〜後編〜

会場に芸能人が入ってきた。所謂イケメン俳優にあたる人だった。

浮かれた参加女性の視線が一斉に彼に集まる。

社長に通されて、彼は社長と共に真ん中のテーブルに座った。


ーー読んでない人は前編からーー

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会の目玉の俳優がきたからといって、彼は皆に挨拶するわけでもなく、僕らも拍手で歓迎する訳でもなかった。

彼はぬるっと通された席で、徐々に馴染んでいった。

参加している女性は彼を目的として来ているので、目の前の僕を含めた男性のことは瞳の中で捉えていない。

そもそも女性の参加者はなんと聞かされて会に参加しているのだろう。女性から話をきいてみると、以下のような情報で会にきているらしいということが分かった。

・ イケメン俳優が来る
・ 出入り自由
・ 無料

胡散臭さ…と思いつつ、確かに僕も女に産まれていたら、胡散臭さと天秤にかけつつも、一本釣りされてしまうのかもしれない。

一本釣りされる女性は次々に会場に現れた。

でも会場の席は限られているので、入れない人も多かった。けどその一方相手にされないことに気づいて帰っていく人もいたので、それと入れ替わりで席を確保する人もいた。

ちなみにこんな浮ついた会に先輩が何故呼ばれたのかというと、会社の看板がでかいからということになると思う。先輩の会社の看板はでかい。でかいし派手だ。それが主催者である社長の好みに刺さっていたのだと思う。加えて先輩はやんちゃな雰囲気なので、そう言う所ところも社長が好きなんだと思う。

ということで、会の開始から断片的に収集した情報を整理すると、この会は男女の欲に特化した会ということになると思う。

女→無料でイケメン俳優と飲めてしまう。

男→一本釣りされてしまうようなタイプの女性に出会ってしまう

男女の欲が渦巻き、穏やかな雰囲気ではなかった。

目立とうとする男女が次々に名乗りをあげ、ずいぶんとド派手に飲んでいた。


しかし、1時間経つと会は急展開を迎える。

突如、俳優は男2、女2くらいのグループで席を立ってしまったのだ。
容姿端麗な4人だった。


会の中心である客寄せパンダが席を立ってしまったので、これに伴い一般の女性は一斉に席を立っていった。

出口に人が押し寄せる。

楽しい雰囲気だった会の雰囲気は一変し、社長や社員が「まあまあもう少し飲もう」と声かけをするもむなしく、次々に人が帰っていく。

楽しい時間が終わったから帰ろう、というより、これ以上ここにいると危険なことに巻き込まれそうだという危機感のようなものを皆が感じ取っていた。

先輩は落ち着いていたが、それでも「帰るか・・」とつぶやいたので、僕たちも席を立った。

僕はそれを見て「先輩も社長とさして仲が良い訳ではないのだな」と思った。
仲良かったら、困った時こそ助けるものだ。

店をでる時社長に呼び止められた。こんな飲み方をして会計どうなるんだろう、と思ったが社長は「払えるだけの金額を頼む」と懇願してきた。

これはけして高圧的な雰囲気ではなく、穏やかなお願いだった。僕にとってこれは意外で、社長の気前の良さに驚いた。

社長は果たしてどれくらいの金額をイメージして僕たちにそのセリフを言ったのか分からないけれど、僕たちは常識の範囲内での金額を支払った。

帰り道、
派手な会だったけど、僕は非常に悲しい気持ちになった。

そしてそれは参加者の多くが感じた気持ちなのではないかと思っている。

僕の立場からすると、全く身の丈に合っていない会で女性の視線は一点に向けられている中、そこで何か出来ないかと空回りする自分をむなしく感じた。そしてそこそこの金額を支払って後悔した。

女性は女性でしんどかったと思う。

俳優に相手された人は極一部だ。(あとからきいた話だと、俳優と帰った女性はアイドルグループの人だったらしい)多くの一般女性は、中心に関われてすらいないし、それどころか女性が多かったので社長や社員に容姿や雰囲気で席の優先順位を決められ、帰らされる人もいた。無料とはいえ虚無感や失意を感じる人が多かったと思う。

とはいえ一番しんどかったのは社長だと思う。

社長がどうやってイケメン俳優を呼んだのかは分からないが、その客寄せパンダである俳優には1時間で帰られ、それに伴いほとんどの女性にも帰られ、カネヅルだった僕たちにもあっと間に帰られてしまった。

残ったのは多額の焼き肉の支払いで、どうやって残りを支払ったのかは分からないが想像するだけで悲しい気持ちになる。


社長見栄張るなよ、と思いつつ、

社長の気持ちは本当によくわかる。


モテたい、派手なことをしたい、自分を大きく見せたい。
そう考えていくと、つい自分の力だけではなくて、何か大きな存在や看板の恩恵を借りたくなってしまう。

ただ結局他人の財産は他人の財産で、自分のものではない。

なるほどなぁ、これは自分の胸にも問いかけていかないといけないなぁ、と思いつつ、なんだか暗い気持ちになって金曜日の夜を終えた。


fin.

#日記 #コラム #エッセイ


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