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【怪奇小説】オドイト【プロローグ】

 今日から、連載という形で短編小説を投稿します。
 
 1話1500字~3000字前後、全4話+プロローグ/エピローグ、という構成の予定です。1回の更新を1000字くらいで、不定期に更新で連載したいなと思っています。

 不定期とはいっても、あまり間延びしないようにはしたいですが……。

 現時点では5000字程度しか書き溜めが無いので、書きながら先を考えることになるんですが、こういう形で小説を書いたことが無いので挑戦してみようかなという次第です。

 じめっとした怪奇話的な感じになると思います。
 お付き合い頂けると嬉しいです。


プロローグ

 
 オドイトが人を殺した。それは、初めての出来事だった。
 
 オドイトは、人間の身体から排泄される不完全な生き物で、消化器官も生殖器官も持っていない。人類がなぜあれらを排泄するようになったのかは、明らかにされていない。
 
 オドイトは、朝の洗面所で排泄されることが多い。眠りにくい夜を過ごした後には、特に多く見られる。それはきっと、オドイトについて明らかとなっている唯一の事象と関係している。

 オドイトを排泄すると、精神的な疲労が劇的に改善される。これは、オドイトが人間の体内に蓄積される老廃物と共に排泄されることによる作用だと考えられている。

 オドイトと共に排泄される老廃物とは、脳の神経細胞に電気信号が流れる際に生じるノイズだとする説もあれば、新陳代謝に伴って生じるエネルギーの糟だとする説もある。いずれの場合も、その成分や構造は特定されていない。

 高齢世代の中には、オドイトのことを「排泄感情」と呼ぶ人もいる。彼らは、オドイトのことを感情が固まった澱のようなものだと考えている。眠れない夜に考え事をして、その際に生じる感情がオドイトという形となって排泄されるのだと。

 実際、オドイトを排泄した人は、合理的な判断ができるようになる。これは、人類がオドイトと排泄するようになってから、世界的に係争が激減したことからも伺える。
 犯罪行為を含むあらゆる諍い多くは、突き詰めればストレスや過度な感情に起因するものだ。この点において、オドイトの排泄は、世界の治安を大きく改善したといえる。
 
 オドイトを排泄するペースは人によって異なる。数年に一度という人もいれば、数日毎という人もいる。ただし、生涯一度も排泄することなかった人というのは、世界でオドイトが確認されるようになって以来、例が無い。

 今やオドイトは人間の身体機能であり、社会の風景に組み込まれた存在となっている。その一方で、多くの人々は、この歪な生き物が生活の隙間に入り込むことが、人間の社会に何をもたらし、何を変えたのかということについて、大した関心を持っていない。

 無力で、無益な存在。ただし、それが無害であるかどうかについて、誰も真剣に考えてはこなかった。

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