ブックガイド(117)「緋友禅」(北森鴻)

旗師・冬狐堂シリーズの三巻目。短編集である。
今回は萩焼、埴輪、友禅、円空仏をモチーフにした四つのドラマが冬狐堂・宇佐美陶子の目線で語られる。
前作の「狐罠」「狐闇」が長編のため失念していたが、作者は短編の名手でもある。陶子の語りでの短編は、当時のファンには「待ってました」感があったのではと思う。
どの作品にも共通するのは、レプリカと贋作の問題。同時に、芸術家の創作意欲が、そうじゃない一般人の欲望に利用される悲劇だ。職人気質や芸術家の矜持が、欲望に汚される構図は、何も古美術に限ったことではないのだ。

緋友禅

(追記)
 実は、私が1991年3月に「第二回ビジネス・ストーリー大賞」(テレビ東京主催/日本経済新聞後援)で佳作をいただいたとき、大賞を受賞された「エンツォ・フェラーリに捧ぐ 愛と裏切りの百億円クラシック・カーオークション」(沢田一樹)という作品が正にこの贋作をテーマにしていた。 
 イタリアの職人爺さんが作った名車のコピーで、敵をだますというコンゲームなのである。その中で、関係者の気持ちがクラフトマンシップに傾いていくところを描きたかった、と授賞式で語っていた沢田さんが印象的だった。
 ちなみに、その時の私の佳作受賞作がこちら。私は33歳でした(←ちゃっかり宣伝)
神様の立候補

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