ブックガイド(97)「アウトサイダー」(S・キング)
オクラホマの田舎町で起きた少年惨殺事件。大勢の目撃証言と指紋などの証拠で有罪間違いなしの容疑者のはずが、殺害事件に別の街で録画されたテレビ放送に移っているという完璧なアリバイがあった!
前半は緻密なミステリードラマ
事件に関する捜査、証言、証拠集めなど、堂々たるミステリ・ストーリーが展開する。この段階で、読者はもう本を置けない。その中で折に触れ捜査陣の心をざわつかせるのが、「誤認逮捕なのか?」という些細な「兆し」だ。凶悪な犯罪に、街中の憎悪を集めた容疑者は、移送中に弾丸で殺されてしまう。
そこから後半に突入する。
後半は超自然と対峙する本格ホラー
後半に入ると、前半で示された兆しが姿を現す。そして人を偽装する超自然の存在が見えてくる。いよいよ、ホラーのキングが始まるのだ。
姿を変えて人を偽装する「アウトサイダー」との戦いに、新たに加わるのがキングの作品でもおなじみの探偵社ファインダーズ・キーパーズの調査員・ホリーだ。このキャラクターがいいのだ。
感心するのがキャラクターたちの気持ち・心情が、リアルで自然なこと。ともすれば物語都合で描かれがちなキャラが本当に生きている。彼ら、彼女らの心の動きが本物なのだ。そして、日常と心情の緻密な描写が手触りや匂いすら伝えてくる。
ドッペルゲンガーもの
邪悪なアウトサイダーは、人の悲しみや怒りや激情を好みエネルギーにすろ存在だ。残酷な犯罪はそのため。でも、このアウトサイダーは、悲しい事件に群がり感情を揺さぶって商売にする「マスメディア」や、流言飛語に流されて嬉々として抗議や攻撃に走る「大衆」の暗喩になっているのだろうなと感じた。
前半と後半のテイストのチェンジが、そのまま物語という車のトップギアになっている。
すれっからしのホラー・ファンである私が、二日にわたり本を手放せなかった。久しぶりである。さすが帝王スティーブン・キングだ。買って悔いなしだよ。
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