ブックガイド(73)「大東亜忍法帖(完全版)」(荒山徹)

奇想健在なり!


 遂に紙で全巻を読み通した。
 とんでもない大嘘を成り立たせる「虚のリアリティ」にどっぷり浸かって楽しんだ。
 出版社がラストを変えよと執拗に責めて下巻を出させなくしたのは、巷間では「自由平等の英雄」であった人物の係累を悪役に据えているからではないかとも邪推できる。
 物語はそんな低次のものじゃないのになあ。
 作者はこのサーガを五部作の第1巻と位置付けているとのことで、私は「帝都物語」(荒俣宏)第1巻を読んだ時と同じ期待感でワクワクしている。この作品、令和・平成の「帝都物語」である。

「魔界転生」へのトリビュート

 今回の荒山作品、明治を舞台にした「魔界転生」モノなのだが、実際はこのボリュームでまだシリーズのプロローグ的な位置づけっぽい。悪役に認定されている一族が、シリーズを通して本当に悪役のままなのかも、大いに興味を惹かれる。
 作品の随所に、後々の物語へのほのめかしがのぞき、私ら読者の渇望をそそる心憎い仕掛けだ。
 また、荒山作品におなじみのちょっとしたギャグも私は嫌いじゃない。やっぱりマンガや特撮で育った世代だもんね。

(2023/11/16 追記)
荒山先生は学生時代、浅草東宝のオールナイトで特撮映画5本立て等をよく見ていたと聞いていたが、どうやら私の新卒・東京時代に観ていた5本立てと同じらしく、「あの夜、私ら同じ映画館(こや)にいたんですね」と思わずニヤリ。オタクの世間は狭いなあ。
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