ブックガイド(56)「ハヤブサ消防団」池井戸潤

安定の面白さ


 のんびりとした田舎の風景から始まる田園ミステリー。後半は怒涛の展開になるのだが、前半の謎が積み重なる部分がいい。のどかな地方の生活が点描されている。
 その生活の点描が、そのまま登場人物や地理関係の情報提示にもなっている。巧い。
 作者は、この田舎をこそ書きたかったのではないか。物語の落としどころも、作品を書きながらいくつもある候補から選んで着地した感がある。
 昨今の田舎への移住は、都会育ちの移住者と地元民の摩擦などが言われるが、今作では「若い」移住者を「消防団」に放り込んでしまうことで、それを回避している。巧い。また消防団という枠内で登場人物たちを動かすことで、その個性の違いを描いて、多くのキャラを混乱することなく読者に提示。これまた巧い。

読んでる最中に聖地巡礼

 作者は岐阜県出身と聞いていたので、読みながらこれって東農地区のどこかだよなと感じた。県道66号当たりの多治見から土岐市、恵那市あたりかと想像していたら、知人から八百津町だよと教えられた。

 八百津(やおつ)町から八百万(やおろず)町。これだ! 土田市はさしずめ土岐市であろう。
 秋晴れに誘われて、ついつい二輪で出かけてしまった。私は愛知県小牧市に住んでいるので30分で八百津町へ行けてしまう。また月に一回程度はショートツーリングで出かけている場所なのだ。
 今まさに読んでいる作品の舞台を歩くという稀有な体験を楽しんだ秋の一日だった。

Amazon.co.jp: ハヤブサ消防団 (集英社文芸単行本) 電子書籍: 池井戸潤: Kindleストア

(2023/10/13 追記)
八百津町がハヤブサ・プロジェクトなる便乗企画ぶち上げてた!
ハヤブサプロジェクトについて/八百津町 (yaotsu.lg.jp)
面白い!

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