創作エッセイ(4)サイタの「小説指南」の思い出

サイタの「小説指南」の思い出

 2017年から5年間、クラウドワークスのサイタというコーチ・マッチング・サービスを通して、小説を書こうとする人たちにアドバイスをしていた。
 もともとは、コーチユナイテッドが2011年から行っていた個人のスキルをシェアするサービスである。クラウドワークスに運営が移ったのが2018年。
 個人レッスンが中心で、システムを経由して生徒さんと喫茶店や図書館などで落ち合って話す形式である。

 きっかけは好奇心だった。


 中途退職の原因であったうつが快方し、バイク便ライダーという世捨て人的な生活から、クレーム電話対応の派遣仕事に入って一年が経過していた。
 趣味であった小説創作に関しても意欲が戻ってきて、話せる仲間が欲しくなったのだ。
 今までの人生で、創作仲間は一人しかい。そしてオフラインの地方の同人界隈は高齢の方ばかりに思えた。
 そこで、ネットを通して色々な世代の創作人達とで会いたいと思ったのだ。

 公募でも佳作入選しか実績がなく、商業誌掲載もわずか一回。第一、名古屋で会社員生活を続けてきて出版社周りもしていないインディペンデント作家が、コーチと称して偉そうにアドバイスなどしていいのだろうか、と当初は迷っていた。
 背中を押してくれた言葉の一つが、そのときの職場(派遣仕事のコールセンター)の同僚の言葉だった。
「趣味で書いてるレベルじゃないですよ。もう、作家ですといった方がいいですよ」
 彼は、音楽事務所の社長をしながら、コールセンターのバイトもすると言うシンガーソングライターだった。この職場は、彼をはじめとして変人の巣窟で、私もその一人ではあった(苦笑)
 当時、サイタには小説の書き方のコーチは存在せず、「こんなコーチ内容でもええでしょうか」という質問もかねて面接に挑んだのを覚えている。

 いよいよシステムに教室を登録するに際してネーミングに迷った。
「教室」というほど本格的に国文学を勉強していないし、シナリオなども独学だ。教えるという大上段より、道を示す「指南」がよかろうと思い、「小説指南」と命名した。
 その上で、俺は作家のトーナメント・プロではなく、レッスン・プロだと気持ちを切り替えることにした。

 講座のサイトにはBLOGが併設されていた。コーチ選びのいい宣伝になりそうだと思い、せっせと創作ネタの記事を書いた。
 当初はまったく無反応だったのだが、半年経過した頃から、無料体験希望のオファーが続々と入りだした。やがて、月に7~8人ほどの方のレッスンが常時入るようになり、小遣い的にも助かるようになった。
 生徒さん達の原稿を拝読することで、今まで本能的に書いていたことが、「何故そうしなければいけないのか」が判るようになった。
「音読したときのリズム感」とか「ここで書いておいて読者の脳にイメージを刻ませないと後段で読者がとまどうから」など。
 それらが、BLOGの記事のネタになり、2年目の終わりには「小説指南」という電子書籍を出すことが出来た。
 教えているつもりが、教わっていたのだ。
 高校の教師だった父は、生前よく、
「教えながら教わってる」と言っていたが、その言葉がしっくりと腑に落ちた。
 Kindleのグラフを見ると、増補版とプリントオンデマンド版、ともに今でも毎日少しずつ読まれていてありがたい。

現在は増補版で、83講になってます

 5年間に色々な方と知り合った。彼らとの出会いが、自身の創作の人物造形に生きている。 小説を書きたい方は、間違いなくナイーブで屈折してるし拗らせている(自分も含む・苦笑)
 当初、心配していた私自身の自信のなさが、返って上から目線を防いでよかったようだ。
 私の後から、サイタでは小説やシナリオなどライティングのコーチが続々と誕生した。

 このサイタのサービスが終了したのは、コロナ過による外出自粛のせいである。私のようにZOOM等を使ってオンライン・レッスンに適応できたコーチが少なかったせいもあろう。ちなみに現在は、パークという後継サービスが立ち上がっている。完全にオンラインのスキルサービスで、私も登録はしている。

 

サイタと電子書籍「小説指南」がきっかけで始まった講座もある。


 知立市文化課さんのご依頼で、今年五回目を迎えた「初めての小説の書き方」講座がある。 当初、私のような無名の書き手をよく見つけたものだと驚いたが、昨年からは中級編の講座も行うまでになった。
 私自身、うつを体験していて、「書くこと」で自分の中の不定形な不安やいらだちが「こういうことだったのか」と可視化され、解消されていく体験をしている。そういう、言語化の効果も講座では教えている。
 一昨年からは、地元でも創作講座を開くようになった。文芸協会の一員にもなった。
 書くことで広がった世界、ようやく今、人生を楽しんでいる感がある。
 最後の願いは、一本でも多く作品を残したいということか。
 いや、それよりも、もっと小説の方をみんな読んでくれ、だな。
「小説指南」(増補版)
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小説作品はこちら。

不死の宴 第一部 終戦編
不死の宴 第二部 北米編

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