シルバー・シップ、火を

炎を噴き上げて人混みに突っ込んでくるジャンボジェットから、アフリカの一国の在日大使の一家を守ることが今回も私の役目だった。
屋上遊園地のようなところにいる大使とその夫とまだ幼い二人の娘に、あらゆる手を尽くしてここは危険だと伝える。けれど言葉が通じないこともあれば、こちらの姿が見えていないこともあり、彼らは何度でも飛行機事故に巻き込まれた。
巨大な機体はもちろんそれなりの速度でほとんど墜ちながら近づいて来ているのだが、やけにゆっくりに思えた。最初は全く気づかなかった大使一家や人混みの群衆のうち誰かが事態に気がつく、ややあって、全員の表情が戦慄のそれに変わるまではスローモーションのようだった。特に人びとの表情の変化はくっきりと執拗で、あざやかだった。ああ今回もだめだったな。そう思った途端に時が加速して、飛行機(この時点ではほとんど飛行機"だったもの")が彼らを含む群衆にぶつかる。
あきらかに誰も助からないだろうというのを一応ひととおり確認し、私はやり直しを要求する。
すると場面はなにごともない屋上遊園地に戻って、私は遠くにひかる飛行機を視認する。今度は忠告をきいてくれるだろうか。それを覚えているだけでも四度繰り返している。


……という夢を見ました。
最近、あまりうまく眠れていないのか以前のように悪夢を見ることがまた増えてきた。
特にこういう、何か使命を背負った夢は起きたときにすでにどっと疲れている。音もにおいも人びとの表情も怪我の様子も、自分が想像し得る限りのおそろしく悲惨なものが勝手につくられて再生されて、それを追体験することになる。今は週に2、3回で済んでいるけど、以前は週に8回以上こういう、もう少し陰湿だったり悪臭がする夢を見ていた。
夢は確実に健康寿命を蝕む、そう思う。
最近はだいたい子どもの泣き声かごきげんな喃語で起こされるので、現実に戻れたときに心から安堵して、ついお礼を言うと子どもはとてもふしぎそうな顔をする。



彼にとってはいつまでも続く事故シルバー・シップ、火を巻き上げて
/湯島はじめ
(2023.11頃に作歌)

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