ゆしま

記録 湯島はじめという名前で短歌を書いています

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最近の記事

シルバー・シップ、火を

炎を噴き上げて人混みに突っ込んでくるジャンボジェットから、アフリカの一国の在日大使の一家を守ることが今回も私の役目だった。 屋上遊園地のようなところにいる大使とその夫とまだ幼い二人の娘に、あらゆる手を尽くしてここは危険だと伝える。けれど言葉が通じないこともあれば、こちらの姿が見えていないこともあり、彼らは何度でも飛行機事故に巻き込まれた。 巨大な機体はもちろんそれなりの速度でほとんど墜ちながら近づいて来ているのだが、やけにゆっくりに思えた。最初は全く気づかなかった大使一家や人

    • 君に薦められた映画を埋めよう私を供えて 器の虚ろ/音羽

      君に薦められた映画を埋めよう私を供えて 器の虚ろ/音羽 第一歌集『Immoral Baby_Pink Trap』より ◇ 「私」に「映画」を供えるのではない。 墓穴(なのだと思う)に埋まるのは私ではなく、「君」に薦められた映画なのだ。 よく、感じたものはすべてが血肉になるという人がいるけど、血肉の主人であるはずの私、私の器(からだ)そのものよりも「君に薦められた映画」こそが実であるかのような感覚。 たいへん俗っぽい話で恐縮だけど、バンドであるとかサッカーチームであると

      • かつて眼科だった一角ごうごうと蒲公英ゆれることなく更地

        この投稿をしたときに、「あんまり誰にでもついていかないほうがいいですよ……」と言われたことを思い出していた。 その人はよく、迂遠なことばでわたしに「あなたはとてもばかだ」というようなことを言った。でもばかにされているわけではなかった…と思う…。少なくともそうは感じなかった。 体とこころが程遠いところにあったり、大体のことは受け入れてしまう(それは決して優れていない)こころの状態では、そういうふうに支配的でも利用してやろうというのでもなく本当のことを言ってくれる人はぴかぴかの、

        • わたしの筆はかつてだれかのためのもの白い帆船ひと息に描く

          オルゴールや自然音の鳴る機械が内蔵されたぬいぐるみを、こどもに、といただいて最近寝るときにいつも波の音を聴いている。 そんなわけでわたしはこの何週間か水辺の夢ばかり見るのだけど、これまでに海を見たことがないこどもは何の夢を見るのだろう。 ちなみに「胎内音」というのもあって、こちらのほうは逆にこどもの方が鮮明な夢を見られるのかもしれない。 ◇ 最近本当に記憶の"消耗"が著しいです……。 しばらく会えていない友人が多くなってきて、久しぶりに会えたらまた初めましてというくらいの

        シルバー・シップ、火を

        • 君に薦められた映画を埋めよう私を供えて 器の虚ろ/音羽

        • かつて眼科だった一角ごうごうと蒲公英ゆれることなく更地

        • わたしの筆はかつてだれかのためのもの白い帆船ひと息に描く

          手の影はやがてうみゆり生者より死者が多いの海のゆめには

          実は自分はかつてかなりの睡眠のオタクで、とりわけレム睡眠のオタクだった。 なんのこっちゃわけわからないと思うんですけど、わたしは一時期(というと人生のうちの長くて数ヶ月のようだが実際には十数年にわたって)レム睡眠時に起こる明晰夢(俗称・体外離脱)を意図的にみる訓練をしていた。そのことに多くの時間を注ぎ込んでいる、という意味あいで"オタク"と表現した。 高校生や大学生だったころには時間があって、眠チャンス(みんチャンス)がたくさんあったので昼夜を問わず体外離脱の練習をしてい

          手の影はやがてうみゆり生者より死者が多いの海のゆめには

          紙船をあざやかに折るその指であなたはだれも殺さないでね

          信頼に足るものを書きたい、ってこの前もエックスにポストしたけどいま本当にその気持ちが強い。 出鱈目に信じてほしいというよりは、わたしを信じてくれている人たちを優勝させたいという気持ちがある。 (芸術作品そのものに貴賎というか勝ち負けはないというのにわたしも同意するが、作家の書くものを心から信じて楽しめることは「勝つ」ことだとわりとはっきりと思う。) 魂のアカウントで来い、といつも思ってるし 魂のことばで来い、ともいつも思ってるよ。 こういうことを言うと偉そみたいで、ふだんは

          紙船をあざやかに折るその指であなたはだれも殺さないでね

          盗むこと について

          エックスへ投稿したポストについて、自分のことば足らずもあって数名のフォロワーさんからお声かけいただいたりと余波を生んでしまったのもあり少し書こうと思う。 はじめに言っておくとこのポストは特定の個人に宛てたものではなく、この投稿の前夜に自分が投稿した「類想」についてのポストの関連として書いたものです。 そもそも類想について書いた背景としてはきわめて個人的なことで、わりと近く総合誌上で発表された短歌作品のなかに自分が未発表として持っている歌とかなり近いイメージのものがいくつか

          盗むこと について

          あの頃のたましいは糖蜜のなかに朝はすずしく大人はひとり

          ◇ ディズニー/ピクサーの映画『インサイド・ヘッド』で主人公の女の子がピーマンを嫌がるシーン、元々はブロッコリーなのを日本公開版のみピーマンに変わっているらしいです。(もちろんCGまで差し替えられている。) 突然のトリビア恐縮ですが、この話聴いたときにこのスタジオを盲信しようかな……と思いました。信頼ができすぎる。 『インサイド・ヘッド』好きです。ひとが抑うつ状態になってしまうときの脳の様子やイマジナリー・フレンドへの解釈とその描写が丁寧で真摯で。感情とか思考をああいうふうに

          あの頃のたましいは糖蜜のなかに朝はすずしく大人はひとり

          目を閉じるとあなたはずっと野球帽のままだ夕陽と傷は似ている

          SNSのアカウントが墓標になり得るというのをこの数年間で何度か(具体的には三度)経験した。悲しいけれど。 エックス(旧Twitter)はマスク氏の意向でなんぼでもどうとでもなるというのがここ一年で実感できたし、彼らの墓標は非常に脆い土の上に立っている。 ◇ 『王様戦隊キングオージャー』が先週最終回を迎えた。 良かったですねえ…………(オタク特有の長余韻)。 昨年は実家にしばらく帰っていた時期があったため、毎日曜日の朝に必ず実母に「キングオージャーに変えていい?」と確認してチ

          目を閉じるとあなたはずっと野球帽のままだ夕陽と傷は似ている

          ゆうがたに鳴るユモレスク

          花泥棒。 というと、なんだかエモい感じの言葉に聞こえる気もするんだけど普通に泥棒で犯罪なので、詩歌にするのはどうなのかなとこれまで何度か立ち止まったことがあった。 今日の短詩の風("X"上のイベント)ではじめて花泥棒という語をつかった短歌を発表したので、すこしそれに纏わることを書いておこうと思う。 わたしの中の花泥棒は花おばさんだ。 花おばさんというのはわたしが小学生のころ地元の、それも実家のマンションのベランダから見下ろせるくらいの近所に頻繁に出没していた、いわゆる"町

          ゆうがたに鳴るユモレスク

          きみの窟はすずしい日陰たくさんの水たまりをそのうちに抱えて

          ◇ 歌集(ジャッカロープ)の手元の在庫がなくなりました🦌🐇 ありがたいことです。一年経つといろんなことが変わるもんだね。 ◇ 生きたり死んだり、そういう創作をしていると思うけど死への憧憬みたいな感情はもうない。死はあまりにも身近だからだと思う。 病院で働いていたとき、患者が亡くなることを「ステる」と言っていた。ドイツ語の「sterben」(死)が語源で、特に医師は日常的に使っていた印象がある。わたしと同期入職した同僚たちも半年くらい経てば少しずつこの言葉を使うようになったけ

          きみの窟はすずしい日陰たくさんの水たまりをそのうちに抱えて

          出てゆきたいひとは出てゆく雨後の町あしたは花梨飴のあかるさ

          このまえエックスに井上陽水さんの「傘がない」の歌詞について書いたけど、子どもの頃この歌普通に好きじゃなくて、暗いし、なんかずっと言い訳してるし、何度も「君に逢いに行かなくちゃ」って言ってるけどなんだかんだ絶対会いに行かないだろ…と思ってた。 大人になると、ああ、傘がない(比喩)ことあるよね、行きたいのは本当なんだけどさ…みたいに思う。 井上陽水は父が好きだったから聴く機会があった、のだと思う。わたしの懐古趣味(とくに音楽に関して)はセンスの良い両親の影響が大きい。 ◇ "

          出てゆきたいひとは出てゆく雨後の町あしたは花梨飴のあかるさ

          金曜日一首評:「毎日がとてもいい日ね!」百均の英語ポーチの弱い洗脳/岩倉曰

          「毎日がとてもいい日ね!」百均の英語ポーチの弱い洗脳 /岩倉曰『ハンチング帽のエビ』 ◇ 岩倉曰さんの第二歌集『ハンチング帽のエビ』からの一首。 この「わかるなあ…」感。大好きです。 とてもよくわかるのだけど、これまでそう思っていたのかといえば気がついていたわけではない。些細で、ありふれているようで、非凡でシャープな視点が岩倉さんの歌の魅力のひとつだと思います。 「英語ポーチ」っていう略し方、あたりまえのように登場するのだけどとても巧みだと思っていて、この文脈だから「…

          金曜日一首評:「毎日がとてもいい日ね!」百均の英語ポーチの弱い洗脳/岩倉曰

          妹としてのわたしの葬式は冬に向日葵さんざめく庭で

          ◇ 「生きていてしんどいのは信仰心がないからじゃないの?」 と言われた。 別にこの人はあやしい宗教のひとではない、わたしの知人、先生なんだけど。 これは結構そうかもしれない。神頼み、みたいなことを昔から嫌っていた。彼のいう信仰とは神や仏のたぐいとはまた少し違うのだけど。 先生があたりまえに口にする、これまでつづいてきた自分の先祖たちに守られているという感覚や死後の世界で大切なひとと再開できるという確信に対して、わたしは嘘でも頷くことはできなくて、これはもう埋まりようがないたま

          妹としてのわたしの葬式は冬に向日葵さんざめく庭で

          きみは龍にもどれよというやさしさにペトリコールのたび呪われた

          ◇ とても印象に残っていて、ことあるごとに思い出しているQuizKnockの伊沢さんのツイート。 本当によく思い出す。 そうあるはず、あるべき、というのは良くないかなとは思うのだけど、やはり祝福や追悼という感情の、その根源というか一番深いところはごく個人的な、それもかなり深層にあって光るものであってほしい。そう思う。 ◇ つい最近インターネット上でひとの訃報を伝えることがあって、それに対しての返信に返信をすることがあった。というか、今もその最中にいる。 Aが関わったすべ

          きみは龍にもどれよというやさしさにペトリコールのたび呪われた

          羽化させるようにようやく焚べてゆく消えたルパンの白い手袋

          今更DLした『スイカゲーム』を気づいたら"無"で2時間とかやってしまって、助けてください。 ◇ ネプリ今回もたくさんありがとうございます。 20首連作はものすごく自分にちょうどいいボリュームな気がします。 👇PDF貼っておきます。 ◇ 好きな人が、わたしが苦手なタイプの人間と仲良くしている、そのように見えるというのはつらく悲しい。 (だけどそんな自分ではどうしようもないしょうもないことに心を動かされるのは、もう本当に本当にやめたいとも思っている。) わたしが苦手なタイプ

          羽化させるようにようやく焚べてゆく消えたルパンの白い手袋