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いま日本でデザインスクールを立ち上げる意味と想いとその記録

いままで「業界の壁を超える」というコンセプトでデザインカンファレンスを主催してきた一般社団法人デザインシップが、この度デザインスクール「Designship Do」を開校することとなりました。

運営一同まだ若手が多い中で、なぜデザイン教育という分野に踏み込んだのか。具体的にどういう経緯で立ち上がって、どういう想いでこのカリキュラムになったのか。

その背景と意図とこれからの展望を、代表理事としての目線から記録させていただきます。

背景:とある女子大生の言葉

はじまりは「Designship 2019」のアフターイベントとして開催された交流会における、ある大学4年生の女の子との出会いでした。

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その女の子は、2018年におこなわれた「Designship 2018」に参加したことで「デザイナーになりたい」と決意し、なんと当時すでに決まっていた内定先を辞退して、1年間休学し独学でデザインの勉強を始めたというのです。

いつかデザイナーとして活躍して、デザインシップに登壇するのが夢です!

と彼女は語ってくれました、主宰冥利につきます。

その夢が叶うまでこのカンファレンスは続けたいと思ったと共に、いまの自分がこの子に直接してあげられることが何もないとも考えてしまいました。

UI/UXデザインは日々進化し続けるテクノロジーと同様に、毎日のように常識がアップデートされていく分野なので、「実践」以外に学ぶのが難しい。

実践をするためにはインターン等をする必要がありますが、実績がないからインターンもできず、インターンができないから実績がないのループに陥っている人は少なくないのではと感じます。

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そこで僕は、そういった学生のための「UI/UXデザインスクール」をやりたいなと考えるようになり、当時こういうツイートをしていました。

これに反応をくれたのが、友人でもありデザイナーの スワンさん と、いつも懇意にしてくれている多摩美術大学准教授の 吉橋先生 です。

年末にそれぞれとお茶しながらデザイン教育について熱く語り合い、仕事の事情などもあり次の4月(2020年4月)から本格的に企画を進めて、それまでは各自ヒアリング等を進めようということになりました。


構想:「いいデザイナーがいない」とは何なのか?

ヒアリングを始める前に、なぜデザインスクールをやりたいのかを自分自身に問い直します。

前述した背景もありながら、実はその前からずっとデザイン教育をやりたいと考えていたような気がしたからです。

僕は普段スタートアップをメインにUI/UXデザインの支援をしていることもあり、支援先もしくは知り合いから「いいデザイナー紹介してよ」と言われることが1日に3万回あります。

大体のスタートアップが「いいデザイナー」を探してさまよっていますが、ではなぜ「いいデザイナー」がいない、もしくはいないように思えるのか?

当時ツリー構造で雑に整理していた図がこちらです。

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僕自身デザインを学校で学ぶことがなく、本や未経験OKのバイトなどで独学してきた身の上のため、赤色箇所の課題を原体験として強く感じていました。

だからこそ過去の自分と同じ悩みを抱えている人たちのために、デザイン教育をやりたいのかもしれない。

ちなみに、Designshipがカンファレンスをおこなう理由は以下の赤色部分にあります。

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すなわち、あえて雑な言葉でいうと一般社団法人デザインシップは「いいデザイナーを増やす」ために事業をやっているということに気づきます。

(このときの整理が、のちにデザインシップのコーポレートミッション次世代の産業に貢献するデザイン人材の輩出。につながりました。)

そういったスタンスの整理ができたので、次はヒアリングに進みます。

デザイン教育の事業をおこなっている会社は多くありますが、特にIT業界のデザイン教育活動を最前線でおこなっている方々にヒアリングさせていただきました。

たとえばGoodpatchによるUI/UXデザイナー育成コミュニティ「Designers Gym」(現在はサービス提供終了)の事業責任者の方であったり、デザイン学習サービスCocodaを提供するalmaの創業者たちに、

・どうしてデザイン教育をやろうと思ったのか?
・うまくいった点はなにか?
・うまくいかなかった点はなにか?
・これからどう発展していくのか?

などをずけずけとお伺いして、皆さまそれに対して快く明け透けにお答えいただきました。本当にありがとうございます。

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同じ領域で同じゴールを共有する同志として、今でも多方面で連携させていただいております。今後とも宜しくお願いします。


目的:高度デザイン人材を増やす

ヒアリングを重ねた結果、ひとつの結論がでました。

初心者のためのUI/UXデザインスクールは、いま自分たちがメインでやらなくてもいい。

なぜならば「初心者のためのUI/UXデザイン学習」という領域には現状でも Cocoda や SHElikes など素晴らしいサービスを提供している企業は複数いて、今の時点でそことぶつかっても仕方ないし、デザインシップとしての強みはその領域にあるわけではないからです。

興味はあるのでいずれはやりたいなと思いつつも、今メインでやる事業ではないと結論づけ、ならば デザインシップならではの提供できる価値はないか?と考え始めます。

そもそも今まで主宰してきたカンファレンス「Designship」は、きたる第四次産業革命に備えるため、デジタル・プロダクト・グラフィックそれぞれのデザイナーが業界の壁を超え、創造性を高め合おうという趣旨のものです。

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しかし、第四次産業革命のためのデザイン人材を増やすというのは大局観では正しいと信じているものの、目の前でデザイン人材の需要が急増している社会・市場において、このコンセプトは少し遠めの未来志向であるとも自覚していました。

では、直近求められているデザイン人材とは、一体何なのか?

それを考えている最中、「高度デザイン人材」という言葉をふと思い出しました。経済産業省が2019年に発表した「高度デザイン人材育成ガイドライン」の中で、それは以下のように定義されています。

デザインを基軸にしてリーダーシップを持ってビジネスの中核に立てる人材

すなわち「デザイン」「ビジネス」「リーダーシップ」それぞれの壁を超えたデザイナー

ガイドラインを読み返しながら僕は、それはデザイナーとして求められる新しいかたちでありながら、直近の社会で強く求められている人材像であるという考えに至りました。

一般社団法人デザインシップとして今までデザイナーにデザイン業界間の「壁を超える」機会を提供してきたように、事業貢献領域間の「壁を超える」機会を提供しようと、方向性が定まったのです。

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まずは、この国の高度デザイン人材を増やす。それが「初心者のためのUI/UXデザインスクールをつくる」代わりにだした結論でした。

先程掲載したツリーの図でいえば、

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この赤色部分の課題解決に注力するよう目的を変更したのです。


合宿:学習要件の洗い出し

2020年5月、ゴールデンウィーク。
コロナ禍のため外出予定の特にない僕たちにはうってつけの合宿期間でした。

合宿といってももちろん対面で会うわけにはいかないので、オンラインで朝から晩まで一日中Zoomをつないで共同作業 × 1週間という、目と腰と頭がわりと疲れるタイプの合宿でした。

この頃からGoodpatchの ハコさん(最近僕と同じ誕生日にお子さんが爆誕)もプロジェクトに興味を持ってくださってお手伝いいただいています。

スワンさん、ハコさん、デザインシップ理事の小松くん、僕の主に4人でおこなった合宿では、

・誰のどんな課題を解決するためのプロジェクトなのか整理
高度デザイン人材育成ガイドラインの再解釈
・学習要件の洗い出し
・カリキュラムのベース策定

などなどそれぞれの頭の中の概念をすべて言語化し、スクールとしての理念や具体的なカリキュラム案などを詰めていきます。

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(↑ 当時のFigma)

がむしゃらに始めた合宿でしたが、国家が出しているデザインに関する文書を隅々まで読み込み、硬い言葉で書かれた文書を自分たちでもわかるように翻訳し、自分たちの意見や思想をいれながら再解釈していくこの工程は、小さいながらもデザインスクールをつくりあげるためには必要なことだったと振り返って思います。

たとえば、「高度デザイン人材育成ガイドライン詳細版」の51ページに記載されている、高度デザイン人材の学習要件のひとつである「テクノロジーへの関心と活用」に関するページは、以下のように要約しながらまとめていました。

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(↑当時のメモまま)

「エンジニアさんの気持ちをわかりましょう!」とかアホっぽくて恥ずかしいんですが、大学受験の現代文の読み方みたいな要領で、要点をつかんであとで見たときにも一瞬で理解できるように、1ページ1ページメモしていきました。

この時点で以下の学習項目を網羅するのがよいのでは、という学習要件案とカリキュラムとしての目次が出揃ってきます。

デザインスキル
・UXデザイン
・ビジュアライゼーション
・テクノロジー

デザイン哲学
・デザインアプローチ
・デザインと倫理

アート
・感性の育成(アート教育)
・ビジョンの提示

ビジネス
・事業戦略・マーケティング
・プロジェクトマネジメント

リーダーシップ
・アントレプレナーシップ
・コラボレーション

カリキュラム

この学習要件をしっかりみっちり2〜4年間で学ばせるのが大学・大学院ですが、僕たちのコアターゲットはこの時点で「社会人デザイナー」だと決まっていたので、3ヶ月程度で終わる短期集中講座にしたいと考えていました。

たとえば、当時考えていた案のひとつがこれです。

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このカリキュラム案のたたきをもって、合宿は終了しました。

一旦まとまったように見えるこの案が、のちに数ヶ月もの間僕たちを悩ませ苦しませることになります。


試行:カリキュラムの策定

時間と熱量をかけたとはいえ、チームメンバーの中だけで閉じこもってつくりあげたものなので、できるだけ客観的な意見がほしいと思い、前述の「高度デザイン人材育成ガイドライン」に携わったコンセントの長谷川さんや、経済産業省の方に直接フィードバックをいただきながら、カリキュラムを詰めていきます。

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特に長谷川さんは、武蔵野美術大学において当ガイドラインに沿った教育を主導されているお立場なので、大学の得意・不得意な両面や、実際やってみてどうだったかなど、話せる範囲で色々なことを教えてくださいました。

そのフィードバックをうけ、「カリキュラムここまでつくったけど、本当にこれでいいのか…?」という不安がチーム内で強くなったり、「Designship 2020」などのカンファレンス準備もあったりして、夏〜秋頃は企画を前に進めることがあまりできなかったのを覚えています。

11月になって、Designship 2020も終わり、仕切り直しモードに入りました。

それまで考えていたカリキュラムはいってしまえば「一気通貫型」で、前述した11項目の学習要件をすべて3ヶ月で学び切るというものでした。

しかし、「詰め込みすぎても受講生の満足度が下がる」というフィードバックを受けて、社会人ならなおさらそうだよなと内省し、思い切ってカリキュラムを大胆に変更したパターンをいくつか出してみました。

・一気通貫型(いままでのもの)
・特化型(学習要件大項目5つを曜日別に振り分け)
・コース型(デザイン経営・BCTコースなど)
・なりたい人材像型(サービスデザイナーコースなど)
・教習所型(自分の好きな講座だけをうける)

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(↑これも当時の雑図ままで恐縮です。。)

このいくつかの型を、ターゲットと想定している人たちに「どれならテンションあがる?」ときいてみたところ、「なりたい人材像型」を受けたいという人が圧倒的に多数でした。

これは僕にとってかなり意外な答えだったことを覚えています。

あとづけではありますが、デザイナーの役割や範囲がどんどん広がっていくこの世の中で、デザイナーは「自分は一体何デザイナーなのか」を考える機会がとても多く、それによって潜在的なもやもやを常に抱えているため、ある程度「型」として人材像を定義してしまったほうが、デザイナーとしての未来を選択しやすいのではないかと考え、その方向性でカリキュラムを組み直すこととします。

その際に型として参考にしたのは「高度デザイン人材育成ガイドライン詳細版」 65ページのこちらの図です。

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この中から、今の時代に事業会社で比較的多く求められている3職種をピックアップして、

・サービスデザイナーコース
・デザインマネージャーコース
・デザインストラテジストコース

の3コースを提供することに決めました。

(※なお、講座の内容をつめていく途中で、「肩書別のコースだけど、肩書に向かうのではなくコトに向かってほしいよね」という想いから、コース名は「サービスデザインコース」「デザインマネジメントコース」「デザイン経営コース」にそれぞれ変わっています)

そして各領域のスペシャリストとして、業界を代表するこのお三方にそれぞれ監修をお願いすることになりました。

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・長谷川 敦士さん(所属:株式会社コンセント代表/武蔵野美術大学 大学院造形構想学科教授)
・田中 裕一さん(所属:ビジョナル株式会社 執行役員CDO)
・増田 真也さん(所属:株式会社ディー・エヌ・エー 執行役員 デザイン本部長)

お三方とも本当に親身になってこのスクールのカリキュラム策定に尽力してくださり、当初予定していた打ち合わせ時間を大幅に超えてご助言くださっております。本当にありがとうございます。

この段階からカンファレンスをいつも手伝ってくれている たじー がカリキュラムディレクターとしてジョインしてくれて、監修・講師の皆さんと共にカリキュラムを詰め、出来上がった全体像がこちらです。

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抜粋してご紹介します。

サービスデザインコース
デザインリサーチやサービスデザイン思考による包括的な顧客体験設計を改めて体系的に学び、ビジネスモデルを含めた事業開発牽引の実践をおこなう。

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▼ デザインマネジメントコース
デザイン組織やプロダクト組織におけるヒト・モノ・カネのリソースを活用するための現場のノウハウを学び、その設計・運用を見据えた実践をおこなう。

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デザイン経営コース
企業戦略に沿って設計するべき「数字・プロダクト・組織」について経営者目線で考え、自らの会社への活用を見据えた実践をおこなう。

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この他にも、コース受講生なら開講から6ヶ月間いつでもDesignship Doのオリジナル講義動画集「Do+」や、グロービス経営大学院の提供する2,900本以上のビジネスナレッジ「GLOBIS 学び放題」を受講できます。

詳細については 公式サイト をぜひご覧ください。

日本のデザイン分野を牽引する教授や、最前線で活躍するデザイナー・ビジネスマンたちが講師を担当してくださっていること本当にありがたいことですし、まだ第一期ではありますが、自信をもっておすすめできるデザインスクールを共につくってくれた運営の仲間たちをとても誇りに思います。


展望:アジャイルなデザインスクールを目指して

Designship Doにおけるカリキュラムの目的は以下のように定められています。

デザイナーが次のステップに進むための土台を実践を通じて醸成し、前に進む自信を持たせる。

ここにおける「次のステップ」とは何か?を記して終わりたいと思います。

監修や講師の皆さん、そして運営と「デザイナーの成長」についてお話していくうちに、事業デザイナーには成長のルートがいくつもあるけれど、順番はともかく役割ごとに壁があるのだと感じ、それを図解してみたのがこちらです。

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(あくまで一例なので変に燃えないでほしい)

Designship Doとして公式にこの図を使っているわけじゃないんですが、僕のイメージではここに記載されているそれぞれの役割ごと(デザイン対象別)に壁があって、その壁を超えるために各コースが存在しています。

そう、「次のステップ」とはまさにこの壁を超えた先の領域のことを指しております。

受講期間は3ヶ月ですから、各コースを受講したからといってすぐにその壁を超えた先の領域をマスターしたとは言えないかもしれませんが、Designship Doでおこなわれる現場で戦えるように組まれた「実戦」型の講義は、きっと受講生の皆さんが壁を超える(=次のステップに進む)ための足がかりとなってくれるでしょう。

そんな自信をもっておすすめする本校の第一期は、2021年5月から開始します。

「小さな社団法人だからこそできること」を意識して、毎日のように変わるテクノロジーやビジネスの常識をいちはやく反映し、第一期の受講生からのフィードバックを惜しみなく反映して第二期をスタートさせる、そんなアジャイルなデザインスクールにしたいと考えています。

その意味では、もしかしたら第二期は全然違うプログラムになっているかもしれません。また、各コースの内容ももちろんですが、経験上こういうスクールは、受講生同志のつながりも宝になると思っております。

いろんな意味で今しか受講できない希少な機会ですので、素敵な未来を想像しながら、ぜひ第一期生としてご応募くださいませ。

なお、3/11(木)19:00〜にこちらのYouTubeで事前説明会をおこないます。
質疑応答の時間もありますので、お気軽にご参加ください。

皆さまの熱い決意のこもったご応募、運営一同お待ちしております。

Special Thanks
・Do 事業責任者:白鳥 友里恵
・ディレクター:田島 佳穂
・コース全体監修:吉橋 昭夫
・映像:山崎 拓也
・技術、法務等:武藤 篤司
・企画:高野 葉子

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