「個を活かす人事」のパラドックスに陥らないために

 グローバル競争の激化、AI時代の到来を受け、あらためて「個を活かす」ことを看板に掲げる企業が目立つようになった。

 その方向性そのものは正しい。しかし、その方法に問題はないだろうか?

 平成時代における人事の最大のトピックは「成果主義」だった。その成果主義は「個を活かす」ことが一つのテーマだったことは間違いない。しかし、組織の大枠は変えないまま取り入れた目標管理、業績連動型賞与、それに人事評価の細分化といった手法は結果的に期待したような効果をあげられなかった。実際に日本企業の国際競争力、利益率などは依然として低い水準にとどまっているし、社員のワークエンゲージメントは主要国中、最低水準である。

 問題の核心は、このようなある意味で過剰なマネジメントが結果的に個人の自律性を阻害し、かえって萎縮させたところにあるのではなかろうか。「個を活かす」という理念とは真逆のことを行っていたわけである。誤解を恐れずにいえば、日本企業、日本社会がいま「個を活かす」ために最も必要なのは仕事においても、キャリア形成にしても、「邪魔をしない」ことだろう。当然、最初のうちは戸惑いや不安をうったえる人が多いかも知れない。しかし、それを乗り越えてはじめてほんとうの「個を活かす」組織ができるはずだ。

 かつての成果主義と同じ轍を踏まないことを願っている。

「個人」の視点から組織、社会などについて感じたことを記しています。