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大失恋

失恋をしてしまった。
既婚者のくせに寝ぼけたことを言うなというお叱りは後から存分に受けるので、まずは座って話を聞いてほしい。足は崩していいですよ。

一方的な片想いに、相手を無理矢理巻き込むという悪質ではた迷惑な恋だった。優しい人だったので、私の勢いに押されて断り切れなかったのだろう。
今まで好きになった相手は大抵私のことが好きだったし、そうでない人も何年もかければ必ず好きになってくれた。逆ナンパをすれば100%成功する。馬鹿な女はモテるのである。
なので、どう頑張っても決して好きになってもらえないという状況が、こんなに悲しくつらいものなのだと、この年にして初めて思い知らされた。完膚なきまでの失恋だ。

毎日大量の酒を飲んで泣いた。朝6時起きなのに、4時近くまで飲むこともあった。友達にも会社の上司にもバーで知らない人にも話したし、なんなら満員電車で隣になった人にも聞いてもらいたかった。この数週間で20万円近く使ってしまった。馬鹿の極みである。

14年前にも大恋愛をして家を飛び出し、相手を傷つけて酷い別れ方をしたことがある。勝手に家を出て勝手に満身創痍になった私を、夫は静かに迎えてくれた。しかし、悲しみで頭がいっぱいだった私は、慰めようとする夫に対し「今失恋してるんだから放っておいて」などと言って突っぱねていた。とんでもない言い草である。失恋して泣く嫁を慰める夫という構図も意味不明だ。


夢の中で、つい先日フラれた人と結婚生活を送っていた。新居は彼の友達や友達の子供たちだらけで賑やかだったが、私は孤立していた。話しかけると新しい夫はすぐ不機嫌になり、小言かため息しか返ってこなかった。常に彼の顔色を伺うしかなく、惨めだった。
目が覚めた時、私は寝汗をびっしょりかいていた。失恋した相手は、決してこんなことをする人ではない。しかし、今後もし他の誰かと一緒に住んだ時に、この状況にならないという確証はないのだと気づき、恐ろしかった。再婚だけはしないようにしようと思った。

私の自分勝手な性格は、昔も今も変わらない。
夫に謝り倒して這々の体で逃げ帰るかもしれないし、毎日誰かと恋をしながら1人で暮らし続けるかもしれない。
もし夫の元に戻ったとしても、このペースでいくと60歳手前と75歳前後で、懲りもせず家を飛び出す可能性が高い。その頃にはさすがにそんな体力はないはずだが、馬鹿なのでいらんところで火事場の馬鹿力を発揮してしまうだろう。

多くの人たちから「ろくな死に方にしない」と言われ続けている。私もそう思う。
中年女性の変死体のニュースが流れるたびに、友人たちから「大丈夫だよね?」と生存確認のメールが届いているが、今後も引き続き注視して欲しい。
不本意ながら「夫と別居中」「失恋したて」という2枚の最強カードを手に入れてしまったので、しばらく無双状態を楽しむしかない。

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