見出し画像

大将と先輩

相変わらず大将に怒られている。
最初は心配していたお客さんたちも、いい加減慣れてきて「また怒られてら(笑)」と笑い流してくれるようになった。
そもそも人一倍気が短い大将と、人一倍他人をイライラさせがちな私の2人が同じ空間にいるのだから、何も起きないはずがない。
週末の忙しい時間帯にモタモタしていたら、
「いても仕方ねーから裏でおしぼり巻いてろ!」
と怒られ、倉庫で1時間ほどおしぼりをくるくる巻いて箱に詰める作業をした。
漫画『働きマン』第一話で、偉そうな新人・田中が校了前の1番大変な時に、「邪魔だから」という理由で資料室に行かされていたエピソードを思い出し、「43歳にして田中と同じ立場に…」と情けなく思った。

ラストスパートで資料室に行かされる田中

そして、20代の先輩(まだ若いけど厳しいお店で長年鍛え上げられたホールのプロ)も、最近は遠慮なく怒ってくれるようになった。
最初の頃は、年上だし異性だし言いにくかったと思うが、今では「そのくらい自分でやってください!」とキッパリ怒られている。
バイト先で、20代男子に本気で怒られる40代のおばさん。どう考えても邪魔である。
実際、私のミスのせいで大将と先輩の仕事量を増やしてしまうことが多々あるので、忙しい時は私抜きでお店を回した方が断然効率いい。「断然効率いい」などと言ってる場合ではない。わかっているのなら改善すべきなのだが、焦れば焦るほどさらに失敗したりフリーズしたりしてしまう。
逆に、先輩は忙しければ忙しいほど動きにキレが出て、最速最短で仕事をこなしていく。お客さんのちょっとした動きにもすぐ気がつき、呼ばれるよりも先に動いてスムーズに対応する。「あの子は後ろにも目がついてるみたいだ」と、常連さんたちも絶賛している。
大将に「●●(先輩)と同じようにやれ!」とよく怒られるが、要領が悪い私には到底無理である。先輩をプレステ5とするなら、こちとら初代たまごっち並みのスペックなのだ。

大将と先輩は、頭の回転が早い者同士で気が合うのか、仲がいい。2人で雑談している時は本当に楽しそうだし、テレビのスポーツ中継を一緒に見ながら「おー」と小さく歓声をあげたりしている。
その様子を眺めながら、ついニコニコしてしまう。親子みたいだなと思う。
ちなみに、先輩はお店の常連さんたちからも人気が高い。わざと馬鹿な話をふっかけて「何言ってんですか」「全然意味わかんないです」と先輩にバッサリ切り捨てられると、お客さんたちは嬉しそうにしている。「若い男の子に怒られると喜んじゃう」は、おじさんあるあるである。

先日、大将が72歳の誕生日を迎えた。
悩んだ末に、大好きな西光亭のくるみクッキーをプレゼントした。(本当は「HAPPY BIRTHDAY」と書いてある箱でプレゼントしたかったのだが、買いに行ったお店に「ありがとう」の箱しかなく、あげる側がもらう側の気持ちを代弁するという歪な形になってしまった。)
しばらくして、私も誕生日を迎えると大将が「●●(先輩)の誕生日、だいぶ前に過ぎちゃって何にもしてないから●●には内緒な」と言って薄い箱をくれた。家に帰ってあけてみたら、クッキーの約10倍の額の商品券が入っていたので、思わず「えーっ!?」と声をあげてしまった。
その数日後。先輩が「いつもいろいろお土産をいただいてるから」と、こっそりAmazonのギフト券をプレゼントしてくれた。そして、
「僕、大将の誕生日何にもしてないんで、内緒にしてください」
と、大将と全く同じことを言っていた。親子か。

いつも2人に迷惑かけ通しなのに、ここまでしていただいて恐縮するばかりだ。
大将と先輩は、仕事には厳しいけど、一緒に働く人を大切にしてくれるところがよく似ている。いい職場だなと、改めて思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?