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山道で路頭に迷う

泥酔して道端で寝たり、記憶をなくして知らない男の子の家で寝たりすることが多く、周囲から「そのうち全裸で山奥に捨てられるよ!」と心配され続けている。私の躯を苗床にして新種の花が咲くかもしれないよね~(『火の鳥 望郷編』最終回のイメージ)などとのんきに構えていたら、先日とうとう「目が覚めたら山の中」という瞬間を迎えてしまった。
しかし、幸運にも服は着ていたし、土に埋められてもいなかった。
寝過ごして、山奥の小さな駅に着いてしまったのだ。
どうやら乗っていた電車が終点に着き、そこからさらに山を登る電車に切り替わっていたらしい。

薄暗い深夜のホームで、しばらく立ち尽くした。辺り一面に、空よりも黒い山が広がっていた。不自然に広い道路が、外灯に照らされてぼんやり浮かび上がっているのが見える。聞こえるのは、虫の音と走り去るトラックのエンジン音のみ。今自分が見ている景色と普段生活している場所が、地続きになっているとは到底思えなかった。

「〇〇まで帰りたいんですが、電車以外の方法はありますか」

土気色した顔の駅員に話しかけると、面倒くさそうに「この時間じゃタクシーは来ない」「〇〇方面はあっち」と、山の向こう側を指さすだけだった。何度聞いても同じ答えしか言わないので、RPGの序盤の村人かと思った。
困り果てている私を置いて駅員室に戻ると、かろうじて灯っていた駅の看板やホームの電灯を全部消してしまった。私が屈強で強面な男や若くて可愛い女だったら、あの駅員は助けてくれたのだろうか。○○○○線の駅員、お前のことは一生忘れないからな。

絶望しながら撮った駅前の様子


タクシーアプリは圏外だし、タクシー会社に何度電話しても繋がらない。スマホの充電は50%を切っていた。充電器を持っているとはいえ、心もとない。
とにかく歩くしかなかった。
頼りない明かりのもと、急な階段を一歩ずつ慎重に下りて橋を渡ると、ホームから見えていた広い国道に着いた。
その道は、大きめの川(高麗川)に沿って作られており、せせらぎが絶え間なく響いていた。行楽日和なら心地よく聞こえるはずのその音が、さらに不安を掻き立てる。誰かと繋がっていないと怖くて泣きそうだった。
ツイッターのスペース機能を立ち上げ、「怖い」「泣きたい」「もう寝たい」と弱音を吐いていたら、少し元気が出てきた。(皆さんが励ましてくださったおかげで、なんとか頑張れました。その節は、ありがとうございました。)

当たり前だが、私以外の人影は皆無だった。時折、大型の長距離トラックが川のせせらぎをかき消しながら通り過ぎていく。1時間歩いても、状況は何一つ変わらなかった。
警察に電話して「〇〇付近で帰れなくなってしまい、タクシー会社にも電話が繋がらなくて困っている」と訴えたが、別のタクシー会社の電話番号を教える以外、何もしてくれなかった。
なんなら見回りのパトカーですら、反対車線を通り過ぎていった。深夜1時に山奥の国道を女が一人でフラフラしていたら、ひと声かけてもいいのではないか。中年ともなると「あれなら大丈夫!」と思わせる安定感が出てしまうのかもしれない。こんなことなら「全身に奇妙な模様がある子供(※ノブオ)に追いかけられてます!」と、適当な嘘をついてパトカーで迎えにきてもらえばよかった。

※ノブオ


仕方なくヒッチハイクに挑戦してみたが、深夜の山道で手をふる白いコートの中年女性など、都市伝説以外の何物でもない。車は、止まるどころか加速して通り過ぎていった。私が運転手でもそうする。

歩いても歩いても黒い山に囲まれ、同じような景色が続く。疲労と絶望で、次第に足が重くなっていた。民家は点在しているものの、どの家も空き家みたいに静まり返っていて、とてもチャイムを押せる雰囲気ではなかった。小さな郵便局の前で座り込み、タクシー会社の電話を何度も鳴らした。私のSOSに気づいてくれる人は誰もいなかった。
このまま朝まで歩くことになるかもしれない。変質者に襲われるかもしれない。ネガティブな考えが頭に浮かぶ。駅員にも警察にもタクシー会社にも無視され続け、精神的な疲労がたまる一方だった。
再び、トボトボと歩き始める。歩いても止まっても意味ないのなら、少しでも先に進んでおきたかった。

しばらくすると、反対車線を走っていた車が急に減速を始めた。車の窓が開き、「お姉さん、何してんの大丈夫〜?」と声をかけられた。
派手なネックレスにダボダボの服。見るからにやんちゃそうな男の子たちだった。
困っている時に気にかけてもらえて泣くほど嬉しいが、それはそれとしてヤンキーは怖い。彼らの見た目に完全にビビッてしまい「大丈夫〜」と適当な返事をしてしまった。
足早にその場を立ち去ろうとしたが、田舎の一本道なので、去りようがなかった。彼らは、Uターンしてまた話しかけてきた。

「ねえ、どこまで行くのー?」

運転席、助手席、後部座席にそれぞれ1人。よく見ると、まだあどけなさが残っている。もしかしたら、この流れは普通に乗車チャンスかつおちんちんチャンスかもしれない。咄嗟に「深夜の中出し4Pカーセックス!」というAVのサブタイトルみたいな文が浮かんだ。
まず後部座席の子のちんちんを舐めて、前の2人にも参戦してもらい、口と手と膣で3本。もしかしたら口と膣と肛門のゴールデントライアングルも可能かもしれない。でも肛門は下準備も後処理も大変だから、行きずりで使いたくない。手持ち無沙汰になる人が出ないように、常に手と口を動かさねば。
ここまで、0.02秒。
複数人を相手にするのは久々だが、わしの古膣はまだ錆びてはおらぬ。
意を決して「○○方面」と答えると、助手席の男の子が「○○!?」と声を上げた。

「そっか〜頑張ってね!」

びっくりするほど明るく、あっさりと彼らは走り去っていった。
「姦(や)らないのかよ!」と、車に乗せてもらえなかったことより、若い男の子たちとやれなかった悔しさの方が全面に出てしまった。
しかし、せめてタクシーが拾えそうなところまで乗せてくれてもいいのに。ヤンキーに見えたけど、実は地元から離れると妖力が落ちる土着の怪異だったのかもしれない。

午前2時過ぎ。友人が車で助けに来てくれることになり、急死に一生を得た。暗がりの中で友人の車が見えた瞬間、喜びと安堵で全身の力が抜けた。
下手したら、本当に新種の花に生まれ変わり、誰もいない山道でひっそりと月あかりに照らされるところだった。
わざわざ都内から1時間半かけて、車をぶっ飛ばしてくれたのだから、感謝しかない。

以上が、山奥で路頭に迷ったお話だ。長い割に特にオチもなくて申し訳ない。
翌日、午後から会社に行くと、心配した上司にこっぴどく怒られた。
友人の車に乗せてもらえた時点で、翌朝定時に出勤するのは無理だと悟り、
「寝過ごして○○という駅についてしまいました。明日は午前半休をいただきます」
と、会社にメールしておいたのだ。
直属の上司には怒られたが、別部署の人たちからは「お疲れ!」「今日いち笑った」と労い(?)の言葉をかけてもらった。別の階に異動になった人まで「昨日山奥まで行ったんだって!?」と、わざわざ声をかけにきた。
社内での「泥酔おばさん」としての地位をより確固たるものにしてしまったようだ。

酔った状態で電車に乗るのはやめようと固く決心にしたが、先週も目が覚めたら小江戸・川越にいた。もう治らないのかもしれない。

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