正中線とはなにか。どう使うか④~寸勁と正中線
さて、前回、前々回と書いてきたように、質量と距離と加速度を交換することで力を分散させることができて、バランスを取る力が強くなります。
と、大層に書いてきましたが、こうしたバランス操作自体は、誰でも使っているもので、それほど珍しくはありません。倒れそうになった人が、腕を振り回して「おっとっと」とバランスを取ったりするのもその一例。
ただ、一般に正中線という場合には、もっと小さな動きの範囲でバランスを取っています。
・分割してバランスをとる
バランスの範囲が小さくなるには、多くの場所を細かく使う必要があります。たとえとして、ベクトルの分解図を使いましょう。
上の図では、青の矢印と釣り合いを取るために、赤の大きな矢印一本の力を使っています。
しかし、下の図では、四本の③(①を分解したもの)で、釣り合いを取っていますね。数が増えた分、矢印の長さが短くなっているのがわかると思います。
大きな動作の反作用を、小さな動作の組み合わせ(合力)で支えることができる。一つ一つの動作が小さいほど、動きの気配は少なくなります。
釣り合いのバランスが正確でブレが少なく、動作の範囲が線と呼べるほど細くなったのが、正中線だといっていいでしょう。
ついでにいえば、正中線はだんだん細くなっていくもので、いきなり針のように細い線にはなりません(私自身は10センチ近い幅がある気がします)。
・押されても耐えられる原理
正中線が鍛えられると安定して、多少押されても揺るがないと言いますね。これも、力の分割によってできること。
下の図で説明します。
立っていて、胸を前から押される場合。
左の図は普通の耐え方で、重心とカカトを結ぶ直線の傾きと、体重の生む力でしか対抗できません。
右側では、頭や肩、腕などを反対方向へ加速する反動で、短時間だけバランスをとることができます(正確にはモーメントの操作もあるので、使える力はもっと多い)。
こうした小さな動作の複合で対抗することができるので、正中線が強いと安定が良くなると言えます。
ただし正中線の安定には限界があり、ある程度の長さで持続する力に対しては、右側の方法は使えません。直立したまま大きな力に耐え続けることは、物理の原則上できないのです。
・寸勁の原理の一つ?
ちなみに、大きな力に分散した力で耐える方法ですが、逆用することもできます。全身を動かして、身体の一部に反作用を集中させるのです。
この方法では、身体をあまり動かすことなく、一点で大きな力を発生させることができるので面白いです。
中国拳法では、足を踏ん張ることなく、大きな動作もなしで強い打撃力を発生する寸勁という技術があります。ノーモーション、ノータイムという動作の特性から言って、本物の寸勁もこのような力の集中動作と無関係ではないと思うのですが、どうでしょうか。
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