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相手の力を抜いてしまう技の原理② ~円弧の中心と関節技

以前「相手の力を抜いてしまう技の原理」という記事を書きました。
今回の記事は、その原理を関節技などに使うときの話。

・正確な円弧を描く

以前に書いたのは、何箇所かの接触で押し合う時に、一箇所を脱力することで感覚を狂わせる方法でした。

今度の方法は、片手でも、一点接触でもできる方法。ただし、難易度は格段に高くなります。

対象とする関節によって円弧のカーブが異なってくる

図は、右手を横から見たものです。
この手首を持って、内側へ向かって曲げてゆくとします。合気道で言う「小手返し」の始まり部分です。

肩関節、肘関節、手首の3つの関節があるとして(厳密に言えば手首の関節は二重ですし、肩のあとには肩甲骨や体幹の関節もありますが、省略)、この関節を曲げてゆくために力を加えてゆきます。

図にある3つの関節。それぞれの関節を中心とした動きは、違う円弧を描きますね。
赤い線は、手首を中心にした運動線。
緑の線は、肘を中心にした運動線。
青の線は、肩を中心にした運動線です。

基本的に人体は、関節を中心とした円弧運動をします。それぞれの関節を中心とした円弧の動きが、その関節を動かすのに有効な方向になります。

つまり、同じように手を持って動かしても、どの曲線を使うかで、動かす関節を切り替えられるわけです。

・使える関節の数は限られている

別の記事で書きましたが、人間の動作は脳の負担を減らす方向に最適化されています。それは同時に使う関節の数を減らしたり、いくつかの関節をワンセットで使うことによって成り立ちます。

上の3つの関節は、物を持ち上げるときなど同時に使われることが多く、ワンセットになりがち。
このセットを逆用するのが今回の方法です。

・複数の運動線をズラして使う

3箇所の関節を同時に内側へ持っていこうとすると抵抗されます。
しかし、肩や肘を内側に曲げてゆきながら、同時に手首だけ外側に向かって曲がると(ほんのわずかでも)、肘や肩が脱力して、簡単に曲げられてしまいます。

相手の動きの一部を受け入れることで、こちらの動きが通るようになるという言い方でもいいですね。一部で負けて全体的に勝つような。

この現象は、セットとしての感覚にズレが生じるためだと考えられます。
同じ方向に動くことに慣れているので、一つでも方向が違うと全体としてどちらに向かって動かされているか、正確な認識ができなくなるのでしょう。
結果、脱力するというわけ。

説明は簡単ですが、使うには少し練習が必要です。
惑星が自転しながら公転するように、2つ以上の運動を同時に行う必要があるからです。
そもそも運動線を意識するまでが手間ですし、動きながら複数の運動線を同時に操作するには、さらに練習が必要。

その一方で、一度できるようになると便利な方法です。ちなみに、肩甲骨や体幹、足の動きまでを加えると、さらにバリエーションを増やすことができます。

・これ、治療のときにも有効

日常の仕事でも使っています。
患者さんの関節をリリースするのが仕事ですが、どの関節が止まっているか、更に細かく、関節のどこが引っかかっているかを感じ取ることができます。
例えば「肩関節の前側が止まっている」とか「仙腸関節の下半分が動かない」とか、そういうことが運動線の円弧を観察することでわかります。

施術も同じ。
関節リリースで患者さんの足を動かしていて、股関節を動かすのか、仙腸関節を動かすのか、腰椎を動かすのか、運動線によって調整することができます。
何であれ、技術はいろいろな方向に展開して使えるものだと思います。

八起堂治療院ホームページ


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