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【感想・ネタバレ】美しさと残酷さが共存する映画「ナチス第三の男」

ママー、私「ナチス第3の男」観ちゃったよー!!(突然のボラプネタ)

時は第2次世界大戦、ナチスで「鉄の心を持った男The Man with the Iron Heart」と呼ばれた男性、ラインハルト・ハイドリヒの出世と暗殺、そして暗殺チームのその後とは――。

そんな物語の映画「ナチス第三の男」を観てきた感想記事です

【基礎情報】
タイトル:「ナチス第三の男」(原題:The Man with the Iron Heart)
監督:セドリック・ヒメネス
主な俳優:ジェイソン・クラーク、ロザムンド・パイク、ジャック・オコンネル、ジャック・レイナー、 ミア・ワシコウスカ
公開年:2019年

公式HP

まず、全体的な感想をば。

予告編のレビューにもありましたが、本当に「美しい」映画です。
何が美しいって対比が美しいんです。
勿論音楽も映像も美しく、Darkest Timeを描くのに貢献しているのですが、この作品においては対比が何よりも美しいんです。

そしてその対比が見事なまでに描かれている理由は何か。
主人公であるハイドリヒ、ヤン、ヨゼフ以外の人物の描写が最低限に絞られているからでしょう。

歴史上は言うまでもなく、映画「帰ってきたヒトラー」「チャーチル」で圧倒的な存在感を誇ったヒトラーやチャーチル、そしてアイヒマンらが殆ど出てきません。
特にヒトラーとチャーチルは実際には深くかかわっている内容であるにも関わらず。
確かにハイドリヒを語るうえで欠かせないヒムラーが少し出ますが、それでもあくまで中心はハイドリヒ。
後半は完全にヤンとヨゼフ。
決してその焦点がぶれることは決してありません。

そして回想シーンの使い方も対比の美しさを強調するのに一役買っています。

ただ、若干ハードル高いかな~と思うのは、シーンのあちこちでちょっとばかりのハイドリヒに関する知識を楽しみ切るために要求されるところです。
ただ本質はハイドリヒ暗殺なので、事前に原作やWikipedia先生を読んでも問題ないと思います。

さて特に個人的にヒットしたシーンの感想を。

ハイドリヒの人生を語るうえでは、海軍不名誉除隊が欠かせないイベントです。

リーナという婚約者を持ち、将来に明るい展望を持っていたにも拘わらず、除隊により一気に人生のどん底に追いやられます。
めちゃくちゃ荒れるハイドリヒ。

そんな彼を、勝気な性格で熱心なナチス党員でもあるリーナが婚約者として窘めます。

「もしあなたが私の夫でいたいのなら」

あの女のことはもう二度と話題にしないで。

劇中でハイドリヒの不倫はこれだけですが、史実によると実際はまだあったそうです。
しかし、映画の尺も考えてのことでしょうか。
見事にその数分でハイドリヒ夫婦の諍いを回収します。

…まさか後半でこのセリフが生きるとは誰が思ったでしょうか。

現在、リーナ・ハイドリヒは夫の仕事を殆ど知らなかったという事になっています。
そして、劇中でもそのような解釈がなされ、どんどんとThe man with the Iron Heartとしての側面を強めるハイドリヒにリーナが不満をこぼすシーンも描かれます。
そんなリーナに対し、ハイドリヒはこう返します。

「もしお前が私の妻でいたいのなら」

お、お前~~~~~~~。
そこまでThe man with the Iron Heartかよ!!って私は叫びたくなってしまいました。

リーナこそがハイドリヒをナチスに導いた張本人であり、娼館での情報収集にも理解を示し、ハイドリヒの子供を4人も生んだのに。
なんて冷たい男なんだ、お前は。

でもその未来は最初の舞踏会の時点で暗示されており、更にはハイドリヒが常に行っていたフェンシングのシーンでハイドリヒの本質は変わっていないと言っているような気もするのです。

セックスがもはや芸術

まさか冒頭10分でモザイクがかかるとは思いませんでしたが、この作品ではセックス/恋愛がかなり重要なカギだと思います。

「金髪の野獣」の呼び名にふさわしいのは活動だけではなくセックスも。
ハイドリヒとリーナは身分もダンスも上流階級ですが、セックスはまるで野獣のようです。

その反面、後半から主人公として登場するヤンとヨゼフはそこまで身分が高くもなく、恋人のダンスも素朴なもの。
付き合い方も基本的に互いの唇をついばむ程度のかわいい付き合い方なのですが…。

うーん、原題で指しているThe Man with the Iron Heartが誰か分からなくなります。
本来の使い方と邦題ではハイドリヒのことを指しているのですが、観終わった後ではまた別のことを指しているようにも思えます。

「良きドイツを作るために」と言って、後に国際法でも禁じられるジェノサイドを行ったハイドリヒ。
「自由な祖国を取り戻すために」その信条の下、ハイドリヒ暗殺に全てを投げ打って挑んだヤンとヨゼフ。
身分も信念も何もかも違うはずなのですが…。
鉄の心とはなんでしょうか。

彼等の信念や死に様を観ているとまるで分からなくなるのですが、そこで襲ってくる最後のシーン…。
ヒメネス監督、I hate you(ほめてる)!!!

以上、「ナチス第3の男」のレビューでした。

うーん、なんというか、アーレントの『人間の条件』を読む時が来たのかもしれません。
拷問や報復のシーンを観た後では、そう思わざるを得ないのでした。

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