恋草

南に向かう鈍行に乗り、海の近くの駅で降りた。
海まで2キロの田舎道を、彼と一緒に歩く。

大学生になって初めての夏を、私はもてあましていた。
うだるように暑いのに、何も起こらない退屈な夏休み。

ちょっとしたイタズラ心だったのだ。
「一緒に遊びに行こうよ」って言ったのは。
とびきり無口で恥ずかしがり屋な彼のことだから、
びっくりした顔をして首を横に振ると思ったのだ。
それなのに、なぜか彼は「うん」と答えた。

海に向かう道すがら、話をするのは私の役目。
彼は微笑みながら、黙って聞いている。
そろそろ話題もなくなってきた。
だいたい調子が狂うのだ。
からかう私と赤くなる彼、それを見て笑うみんな。
そんな関係だったのに。
今日はふたりきりだから、どんなふうに振る舞えばいいのかわからない。

時折、彼が真っすぐと私を見る視線に耐えかねて、遠くの景色に目をやる。
飛び込んでくるのは、生命力を誇るかのように生い茂る草木。

海までもうすぐだ。


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