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ショートショート 晴れ男

*はじめに
この物語は、フィクションです。
登場する人物は架空であり実在しません。
また本文中の日付に意味はありません。

あなたの人生を思い返してみて欲しい。

一年のうちで、この日はいつも晴れている
という日があるはずだ。

僕の場合は、その日は1月1日。
いわゆる元旦だ。

何故か僕は、毎年元旦は晴れの記憶しかない。
しかも必ず快晴なのだ。
こんなことって、あるのだろうか。

この事に気づいたのは、三十代の後半だった。
当時、付き合っていた彼女が妙な事を
いったのだ。

「いつからか、覚えてないけど、
元旦はいつも快晴ね。何故かしら。」

僕は曖昧に返事をしたけれど、
思い返して見ると、確かにそうだ。
元旦は快晴の記憶しかない。

まあ、冬はあまり雨が降らないし、
あまり気にしたこともなかったけれど、

それからというもの、
気にして元旦を迎えてみると、
確かに毎年快晴なのだ。

もちろん、日本が全てと言うわけじゃない。
僕がいる地域に限った話だ。

例えば僕が旅行に出掛けたとする。
すると僕が住んでる地域は雨が降り、
出掛けた先が快晴になる。

これは、どういうことなのだろう。
誰にでもあることなのだろうか。

どうしても、どうしても
今度の日曜日は晴れでないと
いけないんだ。

その日、5月24日は、娘の誕生日で、
俺は久しぶりに合うのだ。

一緒に人気遊園地にいく約束をした。
離婚してから、初めて出掛ける約束をした。

俺はとても楽しみにしていて、
まだ小学生の娘も、遊園地にいくことを
楽しみにしていた。
だから、晴れでなくてはならないんだ。

天気予報を見ると、とても微妙な天気だ。

まだ5月だというのに、台風が来るらしい。
最近の天気は何かおかしい。

確実に晴れにするには、どうすればよいのか
俺はずっと考えた。

インターネットで調べてみると、
少し怪しげなサイトで、
天気を売る人がいるらしいことを知った、
けれども、どこで買えるのかは、
載っていない。

それからいろんな人に聞いて回り、
やっとのことである男にたどり着いた。
黒い帽子に黒眼鏡をしたスーツ姿の男だ。

黒眼鏡の男がいうには、ある場所にいけば
天気が買えるらしい。
その男に紹介料を払い場所を教えてもらった。

そこは、ある繁華街の大通りから、
5番目の辻の路地の奥にあるらしい。
俺は行ってみることにした。

いわれた場所を訪ねると確かに路地がある。
人ひとりがやっと通れるぐらい。
まだ昼間だというのに、少し薄暗い。

しばらく歩いてゆくと、
突き当りに明るく出口が見える。

出口の先には、雑多な、
昭和に戻ったような下町があり、
教えられた番地に、その場所はあった。

骨董屋のような店の中に入ると、
たくさん並べられた骨董品の奥に、
店主らしい人が座っていた。

コチコチと、時計の音が響く、
誰もいない店内を歩き、
店主の前へいく。

「いらっしゃいませ。」

「あの、こちらと伺ったのですが、、」

「何のご用でしょうか。」

「えっと、こちらでは天気を売ってる
とか、、」

突然、店主は辺りを見回し、
誰もいないことを確認すると、

「お客さん、突然そんなことを
おっしゃっては、困ります。
誰からそんな話を聞いたのですか?」

俺はこの情報を教えてくれた黒眼鏡の名前
を告げる。もちろん、本名ではないだろう。

「ああ、あの方のご紹介ですか。
わかりました。」

店主は入り口の方へ行き、こちらに戻る。
お客が来ないようにしたのだろう。

「あの方から聞いてるとは思いますが、
少々お値段が張りますよ。
大丈夫でしょうか。」

そして、金額を口にする。
俺は少し驚いたが、払えない額ではない。

「大丈夫だ、しかし、
必ず晴れるという保証はあるのか?」

「皆さん、そうおっしゃいます。
私どもは信用が第一でしてね。
お客さんが来なくなってしまいますからな。
あなただって、ここに来るまでに
調べられたのでしょう?」

そう、この情報を聞いたときに、
同じ質問を黒眼鏡にした。

すると、黒眼鏡はこれまでに売った顧客の
リストをもっていて、そのぶ厚いリストの
中から誰でもいいから電話して聞いてみろと
いう。
俺はリストの真ん中あたりに載っていた人
に電話した。黒眼鏡からは、電話をしたら
黒眼鏡の名を言えば分かるように
なっていると事前にいわれていた。

電話をかけて、言われた通り黒眼鏡の名を
告げると、相手の男はいう。

「ああ、あなたも買うんだね。大丈夫。
心配ないよ。
私はそのおかげで、大事な取引を成功
させることができた。
とても感謝しているよ。」

その他にも何人か電話をかけてみたけれど、
皆、似たようなことをいう。

千人以上いる名簿の中から俺がランダムで
選んだ人が、グルだとは思えない。
それに俺は本当でなければ困るんだ。

「ああ、何人かに確認したが、皆、
大丈夫だといっていた。」

「それはそうです。」
と店主がいう。

「でも不思議なことがある。
あんなにたくさんの人が買っているのに
なぜ評判にならないんだ?
マスコミも飛びつきそうなネタなのに。」

「まあ、追々、わかりますよ。
それでは晴れにしたい日にちと、
場所をお教えください。」

俺は、5月24日であることを告げ、
場所を教える。

「5月24日ですか、わかりました。
あっと、失礼しました。
まだ、お茶を出していませんでしたね。
どうぞ、お飲みください。」

喉が渇いていた俺は、出されたお茶を
一気に飲んだ。
それを見ていた店主は、

「では、これで契約は完了です。
お代金は5月25日にあの方が取りに
伺います。良心的でしょう。
信用第一ですからね。」

何となく、こんな簡単に天気を売るのか
という、物足りなさを感じながら、
俺は店を後にした。

晴れればいいのだ。

5月24日は台風が近づいているというのに
遊園地の付近だけは晴れて、
娘とも楽しく一日を過ごす事が出来た。

5月25日。俺のスマホに見たことがない
電話番号で電話がかかってきた。

電話にでると、情報を買った黒眼鏡だった。
情報を買ったときの電話番号は
変えたらしい。

先日会った駅前にあるコーヒーショップで
待っているという。
それだけで、電話は切れた。

色々と気になることがあって、
俺は黒眼鏡に会いに行った。
もちろん、金は払うつもりだ。

店に入ると、黒い帽子に黒眼鏡をした
スーツ姿の男がいる。
あの男だ。向こうから近づいてくる。

「ここを出ましょう。
近くの公園の方が話しやすいので。
色々とお聞きになりたいでしょうから。」

俺は黒眼鏡に連れられて、公園にゆく。
なるほど誰もいない。
公園というよりは廃墟に近い。

「まず、お支払いを。」

俺は高額紙幣の入った袋を黒眼鏡に手渡す。
金額を確認した黒眼鏡は俺の方を見て、

「お聞きになりたいことがあれば、
話せる範囲でお話ししますよ。
これもサービスですから。」

「まず、どうやって晴れにしたんだ、
台風が来てたのに。」

「そうですね。こういう話しを
ご存知でしょうか。
学校の噂話的な、よく聞く話です。

『〇年〇組の××っているだろう。
あいつって、少し体が弱いじゃないか。
この間の運動会のときにも熱を出して、
学校を休んだんだ。あの日って、雨、
降ったよな。遠足のときもそうだった。
あいつが休むと雨が降るんだ。
ほら、この間の校外学習、晴れただろう。
あいつが来てたらしいんだ。
だから、今度の修学旅行には絶対に
来て欲しいんだよな。』

よく聞くじゃないですか、晴れ男。

彼が来たイベントは晴れるのです。
だから彼は重宝される。
いるだけで有難い存在というわけです。」

「でも、いくら晴れ男がいたとしても、
日付指定で、場所も指定して晴れさせる
なんて、出来るわけがない。」

「はい。ここからが肝心なのですが、
先ほどの学校の噂話の彼も、修学旅行に
行けたとしても、晴れはしないのですよ。
でも、彼は晴れ男なんです。」

「どういう意味だ?」

「よく思い出してください。
彼は校外学習に行った日は晴れました。
彼が行ったからです。
そしてその日は、彼の晴れ男の日、
だったのです。」

「言ってる意味がよくわからないが。」

「つまり、こうです。
私たちは一年のうち、担当の日にちを
持っていて、その日はその人がいる場所は
晴れになるのです。
通常は本人さえも知りません。
そうでしょう。
何か特別な日でもなければ、毎年何月何日
が晴れたなんてことは、いちいち覚えて
いない。でも、それに気がつく人がたまに
いるんです。」

「それが晴れ男。。」

「はい。私たちは1年間、つまり365人
の晴れ男・晴れ女と連絡が取れるように
なっています。
彼らにはもちろん、それなりの報酬を
お支払いします。」

「でも、どうやって、晴れにするんだ?」

「簡単です。あなた様の場合ですと、
5月24日に遊園地の近くに晴れ男を
行かせたのです。彼がいれば、
必ず晴れますから。」

「なるほど、でも、なぜこんな重要な
情報を俺に教えるんだ。
誰かに漏らすかもしれないのに。」

「あの店主は1つ能力がありましてね、
ある特定の記憶を消す事が出来るのです。
一つは、あの店までの行き方、店名など、
場所に関する記憶です。
あなたはあの店を覚えていないはずです。
もう一つは、私と会話した内容です。
あの店でお茶を飲んだでしょう。
あれが合図で、私があなたの前で手を
鳴らすとこれまでの会話の記憶を失います。
ただし、私の名前だけは憶えていて、
あなたに電話がかかってきたら、
晴れた日の事を相手に話すのです。
意味も分からずにね。」

そして、男は俺の目の前で、
パンッと両手を鳴らした。

俺は気がつくと、
一人でベンチに座っていた。
なぜここに来たのか、覚えていない。

沢山の人が、一年の天気を創っている。

そして、本人はそれを知らない。
自分が何の担当なのか知らない。

僕は元旦の快晴と言う
分かりやすい担当だから、
たまたま知っているだけだ。

僕が生きている限りは、
僕が出かける場所の元旦は、
快晴なのだ。

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