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藝大美術館『日本美術をひも解く』を見てきた結果〜個人的ベスト5〜

伊藤若冲の『動植綵絵』がいいよと、友人に言われたので、東京藝術大学美術館で開催中の『日本の美術をひも解く』を観てきました。美術館へは、基本行かないのですが、今回は歴史資料を観に行く感覚で訪ねてみました。

そんな歴史好きな視点で、『日本の美術をひも解く』を観てきた結果、最も心に残った5点をランキング形式で紹介していきたいと思います。

なお今回は、観覧前に“非公式”図録を作り、noteに公開してみたした。こうして美術館や博物館へ行く前に、展示会の全体の流れや各アイテムの概要を知っておくと、スムーズに観覧できつつ理解も深まるという、一挙両得だということが分かりました。今後も東博へ行く前などには、非公式図録を作っていきたいと思います。

それではベスト5を紹介していきます。

No.5 模型の大きさと精巧さに感動した『平等院鳳凰堂……の模型』

20分の1スケールの平等院鳳凰堂の模型

20分の1スケールの平等院鳳凰堂の模型です。

え?

美術展なのにこれを入れちゃいます? と思う方も多いかと思います。ええ、入っちゃいますね。

誤解しないでください。展示会全体の満足度が低かったわけではありません。この模型を見た時の衝撃が強かっただけです。

私が、歴史が好きで模型も好きというのが、影響しているでしょうね。また、会場の良い場所に展示されていたというのも高評価へと繋がったと思います。

この1/20スケールの大きな平等院鳳凰堂が、ドドーンと、他の展示に邪魔されることなく、ガラスケースに入れられることもなく展示されていたのです。また、実物では把握するのが難しい全体像も、模型であれば頭の中にスーッとイメージとして記録されていくのが分かりました。模型だと、建物全体を把握しやすいという利点がありますが、その細部の精緻さも圧巻でした。一本一本の柱、もしかすると一枚一枚の瓦さえが、丁寧に立てられ重ねられていっただろうことを、感じさせる出来栄えです。

また、鳳凰堂が展示されていた会場の壁面には、狩野永徳の『源氏物語屏風』が掛けられていました。そのため、鳳凰堂の真横に立って屏風に向かって目を向けると、下のイメージ図のように見られるんです。この『源氏物語屏風』を借景にした、鳳凰堂のシルエットが美しないなあと……。写真に撮らせてもらいたかったなぁ……。

『鳳凰堂』と『源氏物語屏風』が展示されていた会場のイメージ図

No.4 御家人の勇敢な戦いぶりが迫力満点の『蒙古襲来絵詞えことば

『蒙古襲来絵詞えことば』(模本・九州大学コレクションより

今回の展覧会の目玉アイテムの一つと言える『蒙古襲来絵詞えことば』です。今は分かりませんが、歴史教科書に必ず掲載されている作品ですね。日本の対馬や壱岐島、北九州へ攻め込んできた「元寇げんこう」に対して、御家人の竹崎季長がいかに闘ったか、「元寇の際に、私はこれだけ活躍した!」と、自身の軍功をアピールするために描かせたものだといいます。

今回の展示では、騎馬姿の季長が敵陣に突っ込んでいく様子が描かれた箇所を展示していました。乗っている馬の腹からは血が噴き出し、敵陣からは矢や槍が飛んできています。教科書には小さく載っていた絵ですが、実際の絵詞えことばは長く大きく、当時の情景がリアルに想像できるものになっています。

No.3 さすが永徳さん! と感動した『源氏物語屏風』の画力

『平等院鳳凰堂』の1/20スケールの模型と同じ会場に、ゆったりと見られるように展示されているのが伝・狩野永徳の『源氏物語屏風』です。きちんと見始める前は「ふぅむ、狩野永徳かぁ……どんなもんですかね?」なんて、小生意気な態度の私でした。でも、近づいてその筆づかいを見ると、「さすが、永徳ハンやないかい」と、エセ関西弁になってしまうほど、絵の世界に引き込まれてました。

パソコンの画面や本などで見ると、フラットな絵で……よくある源氏絵だよねぇ〜……なんて思ってしまっていました。でも、目の前にすると、明らかに印象は異なりました。梅なのか桜なのか分かりませんが、一つ一つの花がこってりとした絵の具材で盛られています。そのこってり塗られた絵の具によって、花や木が、立体的に見えるんです(見えたような気がするんです)。本物は、やっぱり見ておくべきだなぁと、改めて思わせてくれた一作でした。

No.2 超精密描写が魅力の、「をくり」と「酒呑童子絵巻」

近くに展示されていた2つの絵巻物。『をくり』は、かの浮世絵の始祖とも言われる岩佐又兵衛の作品です。浮世絵師もかなり精緻な描写をしますが、始祖という岩佐又兵衛の作品を見ると、当初から浮世絵師が精緻な描写を指向していたことが分かったような気がします。それほど天地の高さが広くもない紙サイズなのに、そこに描かれた木や花や野花、人の表情などが細かなところまで描かれていました。

『をくり』(宮内庁)
『をくり』(宮内庁)

やはり画像データを貼り付けても、実際に見た時に感じた衝撃は、蘇りませんね…。

『をくり』(宮内庁)

『酒天童子絵巻』は、誰もが知るだろう大江山に棲む鬼を退治しにいく話です。No.2が2作品じゃないか? と思われそうですが、そう…絞り込めなかったのでNo.2は同種の絵巻ということでまとめさせてもらいました。

『酒呑童子絵巻』も、岩佐又兵衛作の『をくり』と同様に、びっしりと細かなところまで再現されています。特に鬼たちの顔の一つ一つが「これヤバいな」とか「うぐぐ…」と思わず言ったり唸ったりしちゃうほど精巧な描写なんですよ。まじ半端ないッス。

『酒呑童子絵巻』(宮内庁)
『酒呑童子絵巻』(宮内庁)

No.1 漫画みたいに人々の表情が豊かに描かれた『絵師草紙』

「あぁ…この企画展に来て良かったぁ」と思ったのは、『絵師草紙』を見たときでした。ある絵師が伊予国に領地をもらい、喜んで任地へと赴きました。はじめは浮かれていたものの、徐々に地域の窮状に気が付きはじめます。主人公の絵師は現状改善のために、「最後にこの窮状を絵にして訴え申します」と結んでいるそうです。

『絵師草紙』(宮内庁)
『絵師草紙』(宮内庁)

何が良いかと言えば、描かれた一人ひとりが、個性あふれる性格を持ったキャラとして描かれている気がしたからです。絵が上手というのもありますが、それ以上に、一人ひとりのキャラが生きているように感じました。

また、ユーモラスな表情の描き方は、現在の漫画に受け継がれていると感じたし、絵を見ていると楽しい気分になりました。大絶賛です。全巻をみたいです。

『絵師草紙』(宮内庁)


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私のベスト5は以上の通りです。

ほかにも色々と魅力的な作品が並んでいます。美術なんて、ごく主観的に良し悪しを決めるしかありません。動植綵絵や唐獅子図の評価は盤石なようですが、「世間の評判はいいよ。自分がどう思うのか?」っていうのが重要ですよね。

東京芸大美術館で開催中の『日本の美術をひも解く』は、そんな自分のお気に入り作品を、新たに発見できる企画展です。(『動植綵絵』目的じゃなければ)行って後悔することはありませんよ。

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