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「あぁ〜春って気持ちいいなぁ」と改めて感じさせてくれる、松林桂月さんの《溪山春色》です。@トーハク

登山というか、山や森を歩くのなら、今がベストシーズンのような気がします。雨も多いのですが、雨上がりにサーッと晴れて陽に当たった春の山や森の草木は、普段よりも緑がきれいですから。

そんな春の雨上がりを描いたような、美しい屏風絵が東京国立博物館トーハクの近代美術の部屋に展示されていました(6月11日まで展示)。松林桂月(まつばやし けいげつ)さんという方が、昭和10年(1935)……59歳前後の時に描いた《溪山春色けいざんしゅんしょく》です。

松林桂月《溪山春色けいざんしゅんしょく》松林桂月氏寄贈

松林桂月さんは、1876年8月18日に山口県萩市で生まれました。まぁつまり、当時は闊歩していただろう長州の出身。なぁんて関東出身のわたしは斜に構えてしまいますが(佐幕派なのでw)、この方は何を思ったのか、谷文晁、渡辺崋山、椿椿山など南画の系列に属する野口幽谷さんという絵師に一時期ですが弟子入りし、明治に入ってトレンドではなくなっていっただろう南画の法灯を支えていきました。

松林桂月《溪山春色けいざんしゅんしょく》(右隻)松林桂月氏寄贈

南画というと、中国風の墨絵を思い浮かべてしまいますが、この《溪山春色けいざんしゅんしょく》を見る限りは、色の鮮やかさが特徴的。あえて南画っぽさを探すと、くっきりとした輪郭線でしょうか。

ただし解説には、松林桂月さんの特色は「繊細でふるえるような墨線の独特な画風」と記されています。繊細ではあるけれど、はっきりと描かれた輪郭線は、けっして「ふるえる」感じではありません。

解説によれば「金箔を裏地に施し、濃厚な色彩で春の渓山を描いている」としています。絵の前に立った時に、屏風全体からパァっと明るい光に包まれたような錯覚が得られるのは、裏地の金箔が効いているためかもしれません。

何ていう木なのか、何ていう鳥なのかも分かりませんが、木肌や羽根の一つ一つまで、精緻に描かれています。森の中にたまたま鳥がいるところを写生したわけでもないでしょうから、もしかすると以前noteに記した、円山応挙の《写生帖(丁帖)》などを見ながら描いたのかもしれないなぁとも思われます(現在、《溪山春色けいざんしゅんしょく》の背後の展示ケースで、円山応挙の《写生帖(丁帖)》が観られます)。

松林桂月《溪山春色けいざんしゅんしょく》(左隻)松林桂月氏寄贈

雪解け水なのか、雨を集めた小川なのか分かりませんが、水がとうとうと流れる様も、観ていて気持ちが良いです。

桜が満開の時季も惹かれますが、もしかするとそれ以上に、もみじ……楓の若葉が芽吹いている時季も美しいなぁと感じます。四季の中でも指折りに美しい情景を、2枚の屏風に濃縮して描かれた作品に、しばらく見入ってしまいました。





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