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彼は“おともだち” -バイト先の同期②-

「…友達なのにね、」

一線を越したとき、彼がぽつりと零した。

彼自身も、少し戸惑っていたみたいだった。私は正直"そんなこともあるか~"くらいに思っていたけど、越してしまってからしばらくはシフトが一緒になると思い出して意識してしまう日々が続いた。お腹の奥が重く疼いて、息が少し浅くなった。もちろん、仕事はちゃんとしていたけど、ふとした瞬間に思い出しては悶々とした。

そのうち緊急事態宣言で大学が休みになったから、Aくんが平日夜のシフトに入るようになって、閉店作業を一緒にやる日が増えた。致したい盛りの大学生男女がそろったら、致すに決まっている。普段は帰る方向が違うけど、この時期はみんなより少し遅めにバイト先を出て、ひとり暮らしの私の家へ行き、致していた。1週間か2週間に1回くらいのペースだった気がする。

結局、男で付いた傷は男でしか埋まらないし、女で付いた傷は女でしか埋まらないのだと軽く悟った。この頃から、貞操観念みたいなものが崩れていった気がする。きっと元から素質はあった、露呈しただけ。

頻繁に会うようになってから、InstagramのDMでやり取りをし始めた。何気ない雑談ばかりだけど、既読がつかないからLINEでするより少し気軽だった。研究の話、進学の話、バイトの話、お金の話、結構なんでも話していた気がする。お互いに大学院への進学を決めていて、夏には合否が出ていた。そこで彼から提案があった。

「合格祝いに飯でもいくか!」

ただの友人同士の付き合いなら、普通なのだ。でも、彼とバイトの無い日に会うのは、これがはじめてだった。もう恋心がないとは言え、その新鮮なお誘いに乗らない手はないので、焼き肉を食べに行った。ついでに誕生日プレゼントも渡した。香水が欲しいと言われたけど、欲しがってた香水はずっと売り切れてたから私が選んだのをあげた。結局そのときもなんだかんだ致したような気がする。

これ以降、バイトの無い日でもお互いの予定とモチベーションが合えば、私の家で致した。彼は実家暮らしだし、私は駅近のアパートでひとり暮らしだからね。会って、致して、全裸でYouTubeを見ていたこともある。そのときは彼の好きなアイドルグループの動画を見て「かわいい~!」と声を上げていた。私が一人でお酒を飲むのが嫌で呼んだこともある。
Aくんと致さなかった時期に、マッチングアプリも使ってたことがあるけど、そのときの話も別の機会に。
とりあえず、そんな感じで、頻度は多くないにしろたまに致すことで、今でもAくんとは絶妙な距離感で"おともだち"しているわけだ。バイト先の人たちにはバレていない、…多分ね。

彼はバイト先の先輩や後輩たちの中では「スポーツマン」の印象が強く、大学生らしい香水や装飾品はつけない印象であるらしい。でも、初めての誕生日プレゼントに香水をあげたし、その次の年にはネックレスをあげた。バイトのない日に私と会うときは私のあげた香水をつけてくれていた。
つまり、彼の香水の匂いも、彼の唯一持っているネックレスも、私の知る限りでは私しか知らないのである。

この上ない、優越感。
こんなのを味わってしまったら、もう、彼のことを手放せなくなってしまうね。

でも、あくまで、どこまでいっても、彼は"おともだち"でしかないけどね。

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