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彼は“おともだち” -バイト先の同期①-

何人かそういう“おともだち”が居る。セフレと言ってしまえばいいのだけど、あくまで友人という前提があるから、おともだち。多分、最近はそういう存在がいることなんて珍しくない。手軽に知らない人と出会える時代だしね。

2017年、大学1年生の夏休みのあと、9月中旬。「自由に使えるお金欲しいしさすがにアルバイトするか。」みたいなありきたりな理由から、家から近い駅前のファーストフード店でバイトをし始めた。ひとり暮らしと大学とバイトを全部ちゃんと成立させるのはかなり大変だった、と思う。正直もう覚えてない。

最初におともだちになったのは、そのバイト先の同期。とりあえずAくんとしておく。Aくんは有名な大学に通っていたし、なかなかイケメンだし、元バスケ部だし、年齢性別関係なく誰とでも話ができる。いわゆる陽キャってやつだった。彼は同じくらいの時期にバイトを始めて、年齢も学年も一緒、彼も私も理系。だけれど、2年生の夏くらいまであまり関わりはなかった。彼は休日昼のシフトが多かったけど、私は平日夜のシフトが多かったから単純に顔を合わせる機会が少なかっただけ。ただ、「同級生の陽キャの理系」という存在でしかなった。

2018年、夏の終わり、9月下旬。バイト先で「夏だからみんなで遊ぼう」みたいなイベントが金曜日にあった。たしかボウリングだった気がする。夕方から夜にかけてのイベントだったから大学2-4年生、フリーター、社員で合わせて12人くらいしか参加表明しなかったし、「大学生の集まり」みたいになってしまった上に女子は私ともう一人だけという男だらけのイベントには多分高校生も主婦も参加しづらかったんだろう。そのイベント自体は至って普通に終わって解散したし、なんならその後にシフトが入ってる人もいた。私はそのうちの一人。営業時間が終了して、いつも通り閉店作業をしてたら、テラス席に解散したはずの大学生たちが集まっていた。

ー大学生の男子が集まったら、飲み会が始まる。

こんなのは地球に重力があることくらい当たり前のことだ。ここには文系とか理系とか関係がない、会話ができればいい。結局、イベントに参加してた大学生みんなで飲みに行こう、ということになって、閉店作業が終わった深夜0時過ぎから居酒屋で飲み会をした。お酒を飲んで、話をして、先輩にいじられて、みたいな男子特有のノリの中で、女子2人。当事者にはならずとも、飲み慣れていないながら楽しくお酒を飲んだ記憶は残っている。その時くらいからAくんとは顔を合わせれば話す、くらいの親密度にはなっていた。

前述したとおり、彼はなかなかイケメンなのだ。恋愛的な好意を抱かなかった、というと嘘になる。楽しく話ができて、ユーモアもあって、運動ができて、付き合ったら楽しいんだろうなぁ、と思ったこともある。

バイト先の同級生は一番多いときで8人、イベントから1年弱たった2019年夏の時点では3人まで減っていた。私とAくんともう一人の女子、この子をBちゃんとしておこう、この3人。

...察しの良い人なら多分もうわかると思うけど、AくんとBちゃんは付き合い始めた。
何がきっかけだったかは知らないけれど、2人はよくシフトが一緒になっていたし、なんか一緒に花火を見に行ったという話も聞いた。2人が話をしている様子を見ていれば、なんとなく、付き合うかもしれない、なんならもう付き合ってるのかも、みたいな雰囲気が感じ取れた。Bちゃんも人当たりが良くて、笑顔の絶えない子で、一緒にいてすごく楽しい子だった。私もBちゃんのことは大好きだったし、いつでも明るい2人はすごくお似合いだと思った。

だから、彼が私のことを好きになる日は来ないと確信した。
だけれど、この頃はまだ諦めなどついていなかった。
嫉妬、羨望、憧れ、たくさんの感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って、その気持ちのままバイト先では"仲のいい同級生"の顔をして3人で話していたこともある。

2019年の秋、遂に、告白されて付き合い始めた、とBちゃんから報告された。彼女から聞かされたのは、この上なくロマンチックな告白シーンだった。心から祝福をしたし、安堵もした。付き合っていてくれれば、私の密かな恋心をうっかり表に出すことはない。これからクリスマスも、バレンタインもあるし、大学生の春休みは長いから2人でいろんなところへ遊びに行くんだろうな、みたいな、誰目線かわからない思いも持っていた。純粋に、2人が付き合っていることを楽しんでいたのかもしれない。私にも付き合っている人がいたし、お互いに長く続くといいね、みたいな話もした気がする。

まぁ、そうならなかったから"おともだち"になってしまったのだけど。

私の元カレの話は、またいずれ。でも、いろいろあって2020年2月末くらいに別れていた。AくんとBちゃんも2月のはじめくらいには別れていた。
大学院への進学を決めていたAくんと違い、Bちゃんは就職のために年末くらいから就活に力を入れていた。...入れ過ぎていた、と言ってもいいくらいである。Bちゃんは文系だったから必死だったのだと思う。なんやかんや、そのすれ違いでAくんが一方的に振られた形になった。同じタイミングで傷心状態だった上、春休み中でシフトも一緒だった私とAくんは互いの辛さを吐き出そう、という名目でバイトのあとに居酒屋へ行った。まだ緊急事態宣言も出ていなかったから、繁華街の居酒屋は朝5時までやっていた。お互いにお酒は強くなかったからほどほどにしていた、けど。
酒が残ったまま自転車で帰るのは危ない、という彼を家に上げた。

一線を越したのは、この日だった。

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