ピート

アカウント名は護民官の彼から引用。 これまでは某サービスで新作映画のレビューを続けてい…

ピート

アカウント名は護民官の彼から引用。 これまでは某サービスで新作映画のレビューを続けていたけれど、好きな作品ほど長文になりがちで、その場には相応しくないと思っていた。このタイミングでまた大好きな作品が出てきたので、しっかりと、観て考えたことをまとめたいと思う。

最近の記事

『遠いところ』 “沖縄”が舞台である意味

配信で観た感想、ということをまず述べておきたい。映画館で観た場合の感じ方、受け止めるボリュームとは程遠いからだ。 とは言え、劇場で観た場合のことをあまり想像したくないほどに、キツい描写が続いた。 『オッペンハイマー』を観た後ということもあり、描かれたものと描かれなかったもののバランスを考えてしまった。オッピーは「描かれなかったもの」のことを強く考えさせられたが、今作は「描かれたもの」についてということになる。まず言っておきたいのは「描写が過剰すぎた」と感じたということ。とに

    • 『フィンガーネイルズ』 実は4択

      余韻の残る作品。とても良い作品だったし、「ジェシー・バックリー目当て」という動機にも十二分に応えてくれたなと思う。 どうやら当初はキャリー・マリガンがキャスティングされていたが、最終的にジェシー・バックリーになったという。前者であっても素敵な配役に思えるが、やはりこの作品でのジェシーはとても良かったし、歌唱の素晴らしさも流石だった。 『ジュディ 虹の彼方に』で彼女を知って、そのあとで初主演作の『ワイルド・ローズ』を日本公開時に観てからは、継続して出演作を観てきている。配信

      • 『65/シックスティ・ファイブ』 65+15点のSFスリラー

        予告編での「恐竜」「6500万年前」の2つの要素でまず惹かれて、アダム・ドライバー主演ということで観ることにした。そしてそれは正解だった。 アダムの衣装や装備を見た印象で「タイムスリップ」だと思っていたので、アバンは面白い導入になったと思う。あの砂浜では現代のような雰囲気で撮られているが、沖の方に見える崖のような隆起が非常にユニークで「ここは何処なんだ」と思わせる。そして主人公の仕事が「2年間の宇宙探査」であると示されて、それなりの未来なのだなとなってからの、実は違う惑星、

        • 『A PLACE IN THE SUN at 渚園 Summer of 1988』 あの頃を思い出して

          GWの前に、よく行っている映画館の上映スケジュールを見ていて驚いた。今作のタイトルがあったからだ。検索すると、なんと渚園での当時の映像を再編集して上映するという。 さらに検索すると、Rolling Stone Japanの記事が見つかり、当時の野外ライブも撮影していた今作監督の板屋宏幸が語る貴重なエピソードが。聞き手は田家秀樹ということで「陽のあたる場所」のことを思い出す。実家には何度も読んだ単行本があるはずだ。 1988年の2月に刊行されたこの本には当然この渚園のことは記

        『遠いところ』 “沖縄”が舞台である意味

          『天間荘の三姉妹』 忘れない、ということ

          三姉妹と寺島しのぶ、そして永瀬正敏の配役しか知らないで鑑賞するという態度だと、いきなり柴咲コウが出てきてそれで十分驚きなのに、さらに驚かされる設定を主人公のたまえに告げる。そういう映画だとは思いもせず、イズコがたまえに「まだよくわからないと思うけど、そのうち理解するようになるから」と言うのは、観客にも向けられたものだ。 原作の世界観も知らないまま、謎は謎のままというのは別に珍しい映画体験でもないので気にならない。主人公が異世界に、ということでわかりやすいのはジブリのアレ。し

          『天間荘の三姉妹』 忘れない、ということ

          『さかなのこ』 普通って何?

          鑑賞してからしばらく経った。 今作は、さかなクンのこれまでを基に描いているのに、気がつけばのん(能年玲奈)のこれまでのキャリアをも描いてしまっているのが驚き。さかなクンがメディアに出るようになるまでの履歴はまったく知らなかったけれど、水産(あまちゃん)、観賞魚販売店(海月姫)、イラスト(Ribbon)といった符合は、彼女がミー坊を演じるにあたって、これほど相応しい俳優は他にいないなと思わせる。鑑賞時はさかなクンの履歴を知らないので「やりすぎじゃないか」とさえ感じていたので、逆

          『さかなのこ』 普通って何?

          『辻占恋慕』 ゆべしの存在感

          まず先に言えば、素晴らしかった。 主演の早織きっかけで知った作品。『舞妓Haaaan!!!』で知って以来のキャリアはそれなりに観てきていて、その俳優が自身の年齢と重ねるようにして演じたという“月見ゆべし”に感嘆してしまった。それは作りあげられた人物像の説得力に対してだ。監督で脚本も書いた大野大輔が共演相手ということで、色々とアドバイスなどを経て作り上げたと思うものだが、実際は違うという(「そえまつ映画館」での本人談)。 今作について語ろうとすれば、まず“月見ゆべし”について

          『辻占恋慕』 ゆべしの存在感

          『ドリームプラン』 リチャード≒ウィル

          ある程度のテニスファンならウィリアムズ姉妹とその親については、知っていることが少なからずある。しかしそれは彼女たち姉妹が国際的に活躍するようになってからで、基本的にテニス会場での出来事が多い。だからこのジュニア時代の姉妹と両親、とりわけ父リチャードのエピソードは知らないことばかりで驚かされてしまう。いや、驚くというよりは「答え合わせ」を観ているような感覚に近い。 今現在では、姉ビーナスよりも妹セリーナの方がより多くの露出、そして名声を得ているので、今作でセリーナよりもビーナ

          『ドリームプラン』 リチャード≒ウィル

          『コーダ あいのうた』 ろう者としてではなく

          今作のことは昨年末まで全く知らなかったのだけど、『レイジング・ファイア』の時に予告編を観て「絶対に観よう」と決めていた。その時点でどういう物語なのかはわかっていたので、あとは一切情報を入れずに。『エール!』のことは知らなかったので、その公開時に寄せられた批判のことももちろん知らなかった。それはつまり、ろう者の役を聴者の俳優が演じることへの批判だ。そうした配役は珍しくもなく、むしろ障がい者を演じて評価を受けるという流れが長い期間であったと思う。 しかし、『クワイエット・プレイス

          『コーダ あいのうた』 ろう者としてではなく

          『ラストナイト・イン・ソーホー』 エドガー・ライトの新境地

          実際のところ個人的にも苦手な描写があり、そこで避けてしまう人たちもいるかもしれない。しかしそれが惜しいと言える作品でもあると思う。 ジャンルをまたぐのがエドガー・ライト作品の特徴の一つで、ホラー要素の強い今作だが、ドラマやミステリー、美しい映像、選び抜かれた音楽、そして主演2人の魅力など、なかなか無い密度、強度のあるものになった。とは言え‥ではあるのだが笑。 ともあれ、冒頭の多幸感の中にも不穏さを漂わせ、映画的に言えば“シャイニング”や“シックスセンス”の物語なのかと想像さ

          『ラストナイト・イン・ソーホー』 エドガー・ライトの新境地

          『DUNE/デューン 砂の惑星』 これは始まりに過ぎない

          今作は公開直後にまず観て、そこから2週間後に再度鑑賞。その間に興行収入の見込みがついて続編の製作が発表された。それを踏まえて観るとまた感じ方も変わってくるものだ。初見時にはタイトルに「Part One」と付けられているのに気づいて「おお」となったし、どこまでが描かれるのかも含めて楽しむことになった。 今作を語る前にまず触れておきたいリンチ版は映画館では観ていなくてTV放送のものを最初に観て、好きな作品なんでその後は観たくなったらレンタルで観るということを繰り返してきた。 詰

          『DUNE/デューン 砂の惑星』 これは始まりに過ぎない

          『カラミティ』 女王の帰還

          『ロング・ウェイ・ノース』のことがあるので今作についても期待していたし、期待以上だった。最近は本当にそういう映画体験が続いていて嬉しい。そして期待以上というのははおそらく色彩やアニメーション表現においてより洗練されたと感じたからだろう。癖のある馬を乗りこなせるようになったマーサが夜に駆けるシークエンスで、思わず泣いてしまったほどに。 例によってほぼ前情報をシャットアウトしていたのだけど、冒頭でクローズアップで現れるマーサの表情を観て「どういう作品なのか」がよくわかった。色彩

          『カラミティ』 女王の帰還

          『孤狼の血 LEVEL2』 犬から狼的なものへ

          今作は原作にはないオリジナルのエピソードを用意したということで、ラストの日岡の処遇を考えると、次作もありそうである。つまり映画としての三部作にするための今作、という予測もできる。 そういうオリジナルの枠組みを活かしたような仕上がりで、上林の暴れっぷりはあたかも“怪獣”のようである。ヤクザ抗争だったり怪獣だったりと、かつて日本映画で隆盛を極めたジャンルを、白石和彌監督はここで思う存分やりたかったのだろうなと思える。また制御できない災厄という意味で、現状の世界の出来事も考えさせる

          『孤狼の血 LEVEL2』 犬から狼的なものへ

          『愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』 声は出さずに屁をかます

          宮藤官九郎が本を書いた舞台は「ねずみの三銃士」のシリーズしか生で観劇していないが、映像だけなら「ウーマンリブ」「ドブの輝き『涙事件』」は観てきている。“大パルコ人” は初めてで、のん(能年玲奈)がキャスティングされたと聞いた際は「観たいけどこの状況で東京や大阪に行くのもな」と諦めていた。それがライブ配信されるということで迷わず購入。8/18にライブで観て、アーカイブ期限内に再度観ることになった。 今作が以前の作品の時間軸に沿ったものであると知ったのは観た後だけど問題ない。皆

          『愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』 声は出さずに屁をかます

          『竜とそばかすの姫』 UはYouでMe

          ほぼ何も知らない状況で短めの予告編を観たのはずいぶん前だと思う。第一印象としては「またコレ(仮想空間)なんだ」というもので、「竜」も出てくるらしいぞと。あまり好感を持たなかったが、聞こえてくる歌声には強く惹かれたし、知っている人のような気がして映画館から戻って調べると中村佳穂だという。ちょっと驚いてから「これは観ないとな」と思った。18年の「AINOU」はよく聴いたけど、昨年来のこの状況で彼女の活動も止まっている印象を勝手に抱いていたので。なんのことはなく今作のための制作に携

          『竜とそばかすの姫』 UはYouでMe

          『プロミシング・ヤング・ウーマン』

          誰が被害者になり、誰がどのように悔やみ悲しんで、怒りに囚われたか。 今作の主人公の行動の発端となる「事件」が示されたが、それはUSの人々に実際に起きた事件をいくつか思い出させることになっただろう。代表的なものがスチューベンビル強姦事件、それとブロック・ターナーによる事件であり、調べれば理解できるはずだ。 この実際の事件に共通するのは、US社会の“レイプ”に対する捉え方であり、それは「有望な若い男性」と「酩酊した女性」という構図からくる根強い不公正さだ。それらは今作で描かれた通

          『プロミシング・ヤング・ウーマン』