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『65/シックスティ・ファイブ』 65+15点のSFスリラー

予告編での「恐竜」「6500万年前」の2つの要素でまず惹かれて、アダム・ドライバー主演ということで観ることにした。そしてそれは正解だった。

アダムの衣装や装備を見た印象で「タイムスリップ」だと思っていたので、アバンは面白い導入になったと思う。あの砂浜では現代のような雰囲気で撮られているが、沖の方に見える崖のような隆起が非常にユニークで「ここは何処なんだ」と思わせる。そして主人公の仕事が「2年間の宇宙探査」であると示されて、それなりの未来なのだなとなってからの、実は違う惑星、違う文明だということがしっかりめ(笑)に説明されて「そうきたか」となる流れ。
ちなみに字幕では「宇宙探査」となっていたと思うが、実際は「人間の移送」だったようだ。「片道1年として、どのような航法なのか」などはあまりちゃんと考えるわけにはいかないはずだが、「なぜコアはあれほどミルズを警戒していたのか」は、やはり気になる。それは言葉の問題も含め。
だから惑星ソマリスは、それほど優れた文明世界ではないと思った方がいいだろうなと考えながら観ていた。

タイムスリップより今作の設定の方が荒唐無稽だと言えるはずもない。それなりに気に入っているし、ソマリス文明は偶然にも地球を発見して、居住も可能なことがわかったことになる。そういうことも思い巡らせるのは楽しい。

恐竜のリアリティについては製作段階である程度弱めて、よりフィクション性のあるデザインになったという。その方がSFスリラーというジャンルには相応しいだろうと。まあそこで文句をつけたい人たちは「どうぞご自由に」ということだ。
実際のところ、地球に来てからはミルズのドラマに時間を割いていて、そこは予算のこともあるだろうなと感じながら、制限の中での工夫を楽しんでいた。暗闇に頼るだけでなく、明るい屋外でのCGIでもクオリティはちゃんと見せていたのも良かった。

クワイエット・プレイスの脚本家コンビが、今作で監督も担当して、その繋がり、作家性は随所に見受けられたが、やはりドラマのところでしっかりしていたのが良かったのだと思う。
今作のキモは、主人公の振る舞いがおよそこうした作品らしくないところだろう。その理由は明かされて、守られる側だったはずのコアがミルズの命と心を救う。この終わり方がとても良かったと思う。

それにしてもブライアン・ウッズとスコット・ベックというデュオがこのジャンルで長編監督デビューした、というのはちょっと面白い。サム・ライミもそれほどSFとは近くないし。そしてやはり才能のある2人なのだなと思わせる出来だった。

ちなみに、あの隕石の描写はいわゆる「恐竜の絶滅」の原因となったユカタン半島のチクシュルーブ・クレーターのことなのだろうが、「なぜあのタイミングなのか」を観客は少しは考えてもいいと思う。

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