一触触発がすぎる

5月16日
バイト先で事件が起きた。

「お前まじで許さねえからな!」
宴会開始前のバックヤードで信じられない怒号を聞いたのだ。

思えば、その人は少し風変わりな人だった。ずっと何かぶつぶつと話し続けているようで、初めは自分に話しかけているのかと思い「何か言いましたか?」と尋ねると「いや別に何も」と返されたので独り言だと理解した。独り言にしては何かに怒っているような口調で、争いごととピエロが嫌いな私としてはあまり良い気はしていなかった。でも、そういう人だって世の中にはいるものね……。
そう割り切ろうと仕事をしていると、彼女の独り言はより大きく、より苛立ちを感じさせる口調になっていく。そしてついに、彼女は「ふざけんな!お前まじで許さねえからな!」と叫んだ。他のパートの女性の背中に。

いきなりの出来事に驚いた。しかし、誰より驚いたのは怒号を浴びた女性だ。彼女をそうさせた要因らしき行為をした覚えが、全くないらしい。外野の私もその女性とともに宴会準備をしてきたが、特に彼女と揉めるようなことも気を悪くさせることもしていなかった。
「気を悪くさせたなら謝ります。でも、私は何をしてしまったんですか?」
女性がそう怒号の理由を尋ねるも、彼女は
「理由がわからないなら謝んなくていいです」
「とりあえず許さないんで、もう私に近寄らないでください」
と怒りが収まらない様子。理由があって怒っているのなら言えばいいのに。それにこれから一緒に仕事するんだぞ?雰囲気悪くしてどうするんだ。そんなことを思ったが、こういう場合正論を言ったやつが死ぬ。標的が私に変わるだけで雰囲気も最悪なままだろう。わかる。普段から地雷を踏み抜きまくっている私だから。
結局、騒ぎに気がついたチーフスタッフが2人を引き剥がし、とりあえず自体は収まったものの、怒鳴られた彼女は「私が悪いの?これ……」と泣き出しそうである。
「こういう騒ぎの時、真実を知るのは一部始終を客観視できた第三者です。第三者の私的にあなたは間違ってないので『キレられる筋合いはねえ』くらいのスタンスでいてください」
変なアドバイスでなだめて仕事を再開した。

宴会が終わって会場の片付けをしていると、常勤のスタッフが
「ねえ、○○さん知らない?」
と怒鳴ったあの女性を探していた。片付け量が多く、とにかく人手が必要なのだ。それにしても、そういえば宴会終わりから姿を見ていない。
と、なんとなく探しながら仕事をしていると、チーフスタッフが走ってやってきた。
「○○さん帰ったらしいんだけど」
はあ???

「他のスタッフが帰ってくところ見つけて、止めたら『△△さん(チーフスタッフ)から帰れと言われたので』って。俺そんなこと一言もいってないのに」
もはや恐怖である。もしかして、自分の起こした騒動で居心地悪くなって帰ったのだろうか?よりにもよってこの忙しいタイミングで……。

キレるだけキレて、都合が悪くなったら嘘ついて逃げて。
「あの人って本当に大人ですか?」
純粋な疑問が口からこぼれおちたが、いつも面倒を見てくれる常勤のお姉さんに
「私も心からそう思うけど、絶対地雷だから本人の前では間違っても言わないでね……」
と優しく注意された。

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