まちがいだらけのヘッドホン選び(5)~部屋とYシャツとハイレゾとロスレスと私~
前回までのあらすじ
https://note.com/hamachiichiban/n/n44ef47472fae(注意書きあります)
とうとうヘッドホン屋さんにやってきたひろし君とおじさん。
おじさんは店員さんと真言(オーディオ賛歌)をとなえ、Bluetoothコーデックの話から「ロスレス」オーディオへとつづいていくのでした・・・
第5章:アリの歌を歌い、宇宙の声に耳を澄ませよ
5-0 Into the dream
ひろし君の前に、フラック・アラック・エルダックがあらわれた
ひろし「きゃあああああ」
ALAC「わたし、アラックじゃありません。エーエルエーシーです」
FLAC「うるせえ!」
LDAC「(小声)うるせえ」
おじさん「なっ、なんてダイナミックレンジだ」
・・・・・・
患者「なんだなんだカタカナばっか並べやがって。
おいらの歯はリステリンでBlue toothだぜ」
歯科助手「橋本さん、早くゆすいでください」
5-1 ロスレス│FLAC/ALAC
音楽ストリーミング(ダウンロードじゃなく流れていくだけの~ストリーム~配信方式)サイトで、ドヤ、ドーダ、と言われている「ロスレス」は、元通りにできる「可逆」の圧縮方式を使っている、という意味なのでした。
パッキングの例えを続けると「最高の布団圧縮袋」みたいなもんでしょうか。もとどおりふわふわ。
だから、
「ロスレス」!!と聞くとすごいですが、
「CD音質のまま聴けます」
というくらいな意味。では。
すごいものだとハイレゾ(だからなんなんだそれは)音質のままロス無く聴けるということですが。
なんか腑に落ちないのは・・
圧縮音質を流通の基本にして、基準点をひっそり(?)下げたその口で
技術が追いついてきたら「ロスレス」、すんごいよと言ってる感じがして、なんか妙だ。
下はApple Musicからのロスレスのお知らせ。(サービスは2021年6月開始)
アップルのサービスでは、アップルが開発したALACでロスレス圧縮しストリーミングができる。これでCD音質の水準は確保しました、と。
アップル以外では、FLAC(Free Lossless Audio Codec)という方式のロスレス圧縮があります。
ただし間違えちゃいけないのは、ALACもFLACもBluetoothの圧縮方式ではありません。一般の、ネット上などでやりとりするための音ファイルの圧縮コーデックです。
だから「ストリーミングサイト→端末」までの伝送には使えるけれど、
そこから先、
ワイヤレスヘッドホン・イヤホンを使う場合は
「端末→Bluetoothで飛ばす→イヤホン」という工程が入る。
そしてそれは、Bluetoothコーデックの仕事です。
そしてそして、AirPodsのBluetoothコーデックは非可逆(ロッシー)圧縮です。
ゆえに「Bluetooth 接続はロスレスに対応していません」という断りがついています。
残念・・・・?
ただね
「Apple Digital Masters」
https://www.apple.com/jp/itunes/docs/apple-digital-masters-jp.pdf
・・というわけで、アップルにおいては、
「ロスレス」規格じゃなくてもそのレベルの非可逆圧縮がかなりできている、
だから問題ないでしょ。とのことです。
・・なんにせよ、耳が聴き分けられるだけ発達してからの話ですからね。
5-2 LDAC
なお、ここに飛び出てくるのが、ソニーの開発した「LDAC」(エルダック)。
これはBluetoothの圧縮方式。品質は「非可逆(ロッシー)圧縮」。
つまり、劣化は、する。
するん、です、が・・
ハイレゾ(ってなんなんだ)音質をハイレゾ音質と呼べる範囲に収まる劣化具合で届けられますよ、という。ハイレベルなBluetoothコーデックらしいです。
もちろん、再生機(送る側)とイヤホン(受ける側)、両方がLDACに対応してないと使えないので注意。Androidスマホは対応しているものが増えている。(ソニーの技術だからアップルは使わない)
5-2 ハイレゾ/ハイファイ/ワイファイ/ハイデフ/ダイナミックレンジ
(Hi-Res / Hi-Fi / Wi-Fi / Hi-Def / Dynamic range)
「ハイレゾ」の説明がとうとう来ました。もうご勘弁。
ハイレゾ(Hi-Res)とは、ハイ・レゾリューション(High Resolution=高解像度)の略称です。
簡単にいえば
・これまでCDではカットしていた細かい音、高い音まで収録できる
・CDよりなめらかな音になったはずの
・迫力や臨場感が増して
・その分、データ容量は大っきくなった
やり方のこと。ハイレゾ録音、ハイレゾ再生対応機器、ハイレゾ音源、などいう。
CD品質である「44.1kHz(サンプリングレート)/16bit(量子化ビット数)」より上であれば「ハイレゾ」、とざっくり考えます。
サンプリングレートが上がると、高い周波数の音も感知して入れられます。
量子化ビット数、が増えると、小さーい音まで入れられます。
詳しくは下の記事と動画をご覧くだされば。
さらに
動画6本で周辺知識からぐりぐりハイレゾを学ぶのは、こちら。
6本目に用意されている展開(本筋とまったく関係ない)は、シリーズを通して見ることの喜びを味わわせてくれます。おすすめです。
(急ぐ方へ これまでのまとめが付いている5本目↓)
https://www.youtube.com/watch?v=KVZDoJ05hFM
この動画の結論を言うと、
ハイレゾは、可聴域を越えたところと、めっちゃ小さい音が主に増えてるわけで、
可聴域を越えたら聴こえないからヘッドホンで聴いても意味ない
聴くならスピーカー(で体で感じること)。
という大意。
あと別動画ですが重要なこと
YouTubeの動画で【ハイレゾ】を試そうとしても、YouTubeはアップロードしたあとしっかり圧縮して公開されるから、意味ない
とのことです。これは真理。
なお「ダイナミックレンジ」とは、音の最大値と最小値の幅のこと。
ハイレゾではビットレートが上がり、音の段階の記録が細かーくなったので、ダイナミックレンジも広くなる。
ただつまり、とてつもなくでかい音と小さい音の両方とも再生できる環境を作れるだろうか? という話。
ダイナミックな話です。
人間の可聴範囲は120dB
CDは、最大音と最小音の幅が96dB
ハイレゾ24bitだと、144dB
耳ちぎれちゃうよ。
われわれはゴッホや、マイク・タイソンの対戦相手や、つんく♂のモノマネ芸人の つんつく さんではありません。家で(耳元で)出せる最大音量はまあ決まってますから、ハイレゾの、ほんとにほんとに音が消え入る・・ところまで残せる、その恩恵を受けられるかどうか。
逆に「音圧が高い」現代ポップスなどは、ダイナミックレンジを狭めて、曲のどこでも大きめ、迫力のある音で聴こえるようにしています。
聴きたい人は、ハイレゾというガンダーラを目指しましょう・・。
違いの分かるひとになろう。
ついでに触れておく項目
「ハイファイ」(Hi-Fi)というのは、ハイフィデリティ(High Fidelity)の略。高忠実度というような意味。1950年代~流行ったワード。
音を、綺麗に再現しますよ! ということで、厳密な定義はない・・はずですが、今もピュアオーディオのガンダーラ。どこまでもHi-Fiを求めて。
そんな昔からあるのかあ。その新型がハイレゾかあ。と思っておくと気が楽になります。ちがうけど。
反対語はローファイ。わざとガサついた音質のLo-Fi Hip Hopなどで、聞いたこともあるはず。
ついでに、
ワイファイ(Wi-Fi)は、無線でインターネットにつなげる方式ですね。
Wikipediaを信じれば、これはハイファイから由来するんだとか。
映像界では「ハイデフ」(High Definition ハイデフィニション)というのがあって、高精細の意。これは今「HD」と呼んでいるもの。すっかり一般化しました。
ちなみに2006年は、地上波デジタル放送が全国ではじまった年。そのあたり。
5-3 あらためてCD音質について
ここまで音響用語を追ってきたわたしは、ある一つの考えに行きあたりました。
「CDなめとった」
これです。
なんでも、レコードって、CDがカットしてる音域まで入ってるし、そもそもアナログの温かみが音に入ってるって、いうじゃない?
なんでも、現代ではハイレゾ、っていうすごい高音質のものが出てきて、CDなんてもう目じゃないらしいじゃない?
なんでも、ロスレスっていうすごい高音質な配信が・・・・・・
CDをなめすぎていた。
ロスレスは、やっとストリーミングがCDレベルに追いついたって話ですからね。
再度いうと、CD品質は
「44.1kHz(サンプリングレート)/16bit(量子化ビット数)」
おおよそ22.05kHzまでの音域が収録可能。可聴域はカバーしてるという話。
それに、媒体以前に、レコーディングとミキシングとマスタリングの適切さ、で音というのは決まってくるわけで。
例えばですが、スタジオの隅にマイクを転がしてハイレゾ録音された音源も「ハイレゾ音源」です。
「おお! スタジオ隅の埃溜まりに寝転んで演奏を聴いている迫力を感じる! Hi-Fi!」
と感動したい人は別ですが・・
つまり、いかに良い演奏を・いいマイキングで・レコーディングして・ミキシングをしたか(音楽を表現したか)という出来高のほうが基本であって、ハイレゾのポテンシャル一発で超えてくるわけではない、ということは覚えておきたい。
「ハイレゾ」を、何をおいてもゼッタイCDよりエエ物だっせ
というムードを醸してるお店とは、距離を取りましょう。
いや、いいものなんですけどね。
5-4 イコライジング/エージング/アンチエイジング
音響ワードでめちゃよく聞くのが「イコライジング」です。それをするアプリもありますね。
これは、音を周波数ごとにいじること。低音のボリュームを上げたり、高音を下げたり、などを機械でできるのです。
これは音楽の制作時にも使われるし、再生側~ユーザーの使う機器にもおおく搭載されていますよね。
もとの言葉の意味としては・・イコライズ(equalize)の綴りにはequalが入ってますね。イークウァル、イコール。
つまりイコライズというのは「均しくする、均一にする」という意味で、音の上でもそうだったようなんですが・・
音波のまずい部分を均質にするに飽き足らず、もっと表現欲が出たものが今のイコライズ。なのかな。
再生ソフトでイコライジング機能があると、例えば、ヘッドホンの味付けとは別に「ドンシャリにしたろ」などができる。女性ボーカル特化で中高域を目立たせるとか、EDM用に低音ズンズンとかが機械的にできる。もちろん機械でいじったなりの歪みは出るはずですが・・。
ミキシング技術でもあり、例えば、ボーカルの音域とぶつかっちゃっている楽器の、その音域だけ音量を下げるなど、エンジニアさんのテクニックがいろいろあるようです。
「エージング」とは、ここではジーパン用語ではなく(意味は同じだけど)、新品のヘッドホンがポテンシャルを発揮するよう慣らし運転すること。部品のギチギチ感が取れたりなんなりで、そうとう音が変わるそうです。
例:「100時間ピンクノイズでエージングしてやっと広域がなめらかになってきたぞ」「おいらはプロ用のTamate-BAKOで済ませたぜ」
箱から出した初回が一番、という考えはここにはありません。
「アンチエイジング」は、老化に逆らい、老化を抑えていこうということ。メディアではおもに美容用語として聞きます。
オーディオ界隈では聞きません。
5-5 亀田誠治さんの講演(2007年)
ここまでだいぶ音楽とデジタル化を追ってきましたが、
ベーシスト・プロデューサーである亀田誠治さんの2007年時点での講演記録。
当時の現状認識としてとても興味深い、です。
精神世界にてハイレゾ対応コーデックと邂逅したひろし君。
はたして、現世にもどってヘッドホンを選ぶことはできるのか。
ヘッドホンを選ぶのに、ここまであれこれ知らなくてはいけなかったのだろうか!
次回 麝香ネコのような愛おしい重みのボディをかけると、耳のパッドからキャットション便のような第一アロマが鼻に抜けます。でもそれはすぐに手元をすり抜けて・・いたずら仔猫ちゃん、といった風情です につづく。
今回までのつみのこし
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