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『TITANE チタン』を観た日記 ※ネタバレ


くるまにょうぼう


昔むかし、あるところに ヴァンサン という火消しの男がおったそうじゃ。

嫁をもらい、跡取りのむすこも生まれたが、あるとき、むすこがどこにもおらんようになってしもうた。
村中さがして、お触れも出したんじゃが、なしのつぶてだったそうじゃ。
そのことでヴァンサンと嫁はひどく仲が悪うなって、とうとう嫁は家を出て行き、
そのころはヴァンサンひとりの暮らしになっておった。

そうして毎日火消しの仕事に精を出しておったが・・・
十年もたったかというある日、きゅうに、息子が見つかったという知らせがきたんじゃ。

ヴァンサンはあわててお役所に駆けつけると、ぶじに、息子のアドリアンを連れて帰った。
久しぶりに見るアドリアンは、何もしゃべらず、すっかりことばを忘れてしまったようじゃった。
家に帰ってもよそよそしうして、部屋に入ると布団をかぶって黙っているだけじゃったそうな。

それを心配したヴァンサンは、アドリアンを自分の消防団に入れることにしたんじゃ。

あるときは、きゅうきゅうはんそうの手ほどきをし、
あるときは、きんこつたくましい若手団員のレイブパーティーに混ぜて、楽しませようとした。
じゃが、アドリアンが元気を取りもどすことは、なかなかなかったそうじゃ。
そのころ、お役所のはからいでやってきた別れた嫁も、なんだか不思議そうな顔をしてアドリアンに話しかけていたが、やがて帰っていってしまった。

そんな日々がすぎた、あるときじゃ・・・。
あいかわらずレイブパーティーがうるさい満月の夜、ヴァンサンは団員に注意をしようと、ガレージへ乗り込んでいった。まあこれも、よくあることじゃったが・・・そこで、あっとおどろくものを目にしたんじゃ。
それは、消防車の上でなまめかしく踊る、アドリアンじゃった。
腰をくねらせ、尻をつきだし、せんじょうてきなまなざしを向けるアドリアンに、さしものスーパーコンパニオン好きな若手消防団員たちも、みんな黙ってしまっていたという。
ヴァンサンも、口からこぼしたスピリットにタバコが引火するほど、ぼうっとしてしまったそうじゃ。

それからしばらくした、ある、夜のことじゃ・・・。
布団で呆然としていたヴァンサンの部屋に、アドリアンが訪ねてきた。
何も言わず、ゆっくりと布団に入り、ヴァンサンに口づけまでしたという。
あまりのことにおどろいたヴァンサンがとびのくと、行燈の灯りで照らされた、アドリアンが目に入った。
その姿は、裸じゃった。
しかも、ずっとさらしでかくしておったんじゃな、きれいな女の体をしておった。
いやそればかりか、腹もぷっくりふくらんだ、身重の体じゃった。

ヴァンサンを見つめながらアドリアンは
「行かないでください」
と言うた。
それから、もういまにも子供が生まれそうに、呻きだした。
アドリアンの乳や股からは、グリスのような、石油のような、黒くねっとりとした、油っぽい汁がそれはそれは垂れておった。

そんな様子を見たヴァンサンは、アドリアンの手を握り、お産の姿勢をとらせ
「おれがついている。いきめ」
と言うたんじゃ。

それから知ったところによると・・・
アドリアンは、ほんとうは名をアレクシアという、モーターショーのコンパニオンだったそうじゃ。
そこで出会った車とのあいだにできた子を、身ごもっておった。
じゃが、鼻からフィンホイールを出すようなお産のせいで、ヴァンサンの蘇生もむなしく、アレクシアは亡くなってしもうた。
そんな、お話。

そうそう。
アレクシアは、子供のころに交通事故に遭って、頭にはチタンが入っておったそうな。
そうして、ヴァンサンが育てることになった、アレクシアの赤ん坊も、背骨がチタンでできておった。

だからこのお話は、『TITANE チタン』というのじゃよ・・・。


とっぴんぱらりのぷう。





『TITANE チタン』、めちゃくちゃ面白かったです。
そして、なにがなんだかわからない。

わからないんだけど、昔話として語られたら、ああそんなもんかー、という気分になりそうだったので、
昔話にしました。

なんでか、配信サイトでは『U-NEXT』しか見放題で入ってなくて、いや参ったね。という感じですが、
ぜひ見てください。

体が痛くなります。


公式サイトでは親切に、ネタバレ解説コーナーもありますよ。

あといわずもがなですが、
くるまにょうぼう と呼んだりとか 視点人物をヴァンサンに書き換えたりとかいうのは、
『TITANE』が巧妙に避けたことを踏み荒らす行為、で
あるでしょう。

どんとはらい。


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