一匹狼の菌類 酵母菌


 アルコール発酵の主役は、ご存知の通り『酵母菌』です。
 『酵母菌』は『麹菌』と同じ菌類ですが、麹菌と違い一つ一つの細胞が一つの個体の単細胞生物(一匹狼)です。
『酵母』という言葉は幅広い意味では細胞単独で生活する真核生物一般を指しますが、一般的には、パンやお酒に使われる糖類を食べて、炭酸ガスやアルコールを出す菌を指します。

C=炭素 H=水素 O=酸素

 アルコール発酵を分子式で言うとこうなります。

C6H12O6 (ブドウ糖)1ケ
     ↓
C2H5OH(エチルアルコール)2ケ + CO2(二酸化炭素)2ケ

つまり、一つのブドウ糖の分子から2つのアルコールの分子と2つの二酸化炭素ができるわけです。

私が教師ならこう言いますね、ココ試験に出るよー。(^^)

 はじめから言うと稲が太陽エネルギーを利用して二酸化炭素6分子と水の分子を3分子結合させて『ブドウ糖』をつくり、これを酵母が 2つのアルコールの分子と2つの二酸化炭素にするわけです。

 酵母はこのとき最初に蓄えられた6分子の『二酸化炭素』のうち2分子の『二酸化炭素』を開放することでエネルギーを得て残りをアルコールとして排出するのです。

 このとき、もし酸素が有れば、『酵母菌』は酸素分子6ケを取り込んで6 ケ の二酸化炭素分子と12 ケの水分子を出して完全にエネルギーにしてしまいます。これは、私達人間と同じです。

O2(酸素)6+C6H12O6(ブドウ糖)
       ↓
CO2(二酸化炭素)6ケ+H2O(水の分子)12ケ

 人間は酸素が無いと死んでしまいますが、『酵母菌』は酸素がなくてもアルコール発酵で代謝して生きられるのが凄いですね。

 ですから、アルコール発酵させるときには酸素が入らないようにしなくてはなりません。
  しかし特別な工夫は不要です。 酵母が排出する二酸化炭素は重いので発酵タンク内に貯まり酸素を遮断してしまうからです。
 だから人間がタンクに落ちると無酸素状態なので一瞬で死んでしまいます。


酵母は鎧を

 『酵母菌』は丈夫な細胞壁を持っています。この細胞壁のおかげで、他の細菌が繁殖できないような酸の強い環境だったりアルコールの強い環境でも生きていられるのです。

 また一般の『酵母菌』は『出芽酵母』と呼ばれています。
 普通の細胞は、一つの細胞が真っ二つに分裂して増殖しますが、『出芽酵母』の場合は、植物が芽をだすように、酵母の表面から小さな細胞を出てきます、それが少しづつ大きくなって、最後にプツンと切れて分裂しますので、出産に似た増殖方法と言えます。
 分裂すると酵母には分裂した跡が丸く残ります、これを『出芽痕』とよびますが、これは生涯消えることがなく、『出芽痕』が多い酵母ほど沢山の子供を作った年寄りの酵母ということができます。
 

 酵母も状態が悪くなると麹菌と同じように胞子をだします。麹菌やキノコ、カビなどは細胞同士が協力して胞子嚢を作り、沢山の胞子を一度に飛ばしますが、単細胞生物の『酵母菌』は自らが4つに分裂して胞子となります。

 この時『酵母菌』は自分の遺伝子の半分をその胞子に託しますが、これは『減数分裂』と呼ばれています。
 胞子は『酵母菌』運良く条件の良い場所にたどり着ければ再び『酵母菌』となります。しかし、この時『酵母菌』は半分しか遺伝子を持っていません。
 その時同じように半分しか遺伝子を持っていない酵母菌と出会うと融合して、一つの『酵母菌』となります。
 こうして、新たな遺伝子をもった『酵母菌』が誕生します。

 それでは、どういう場面で酵母が胞子となるかは、まだ良くわかっていないのですが、一つの例としては、『酢酸菌』の繁殖が分かっています。
 『酵母菌』は糖分をアルコールに変えますが、そのアルコールを『酢酸菌』を酢酸に分解します。
 つまり、『酢酸菌』が繁殖する頃には『酵母菌』の餌がなくなりつつあるということになります。そこで酢酸が増えてくると 『酵母菌』 は胞子となるらしいのです。
 しかし、麹やカビ、キノコなど他の菌類とちがい、構造物を作って胞子を空気中に飛ばすことができない『酵母菌』はよほど幸運がない限り、胞子を空気中に飛ばすことができないし、運良く飛んでも、無事栄養豊富な場所、例えば落ちた果物などに付くことは難しいでしょう。
 最近の研究では、 自然界ではおそらく『酵母菌』 は昆虫に食べられたり付着することで新天地に運んでもらうのではないかと言われています。
 普通は虫の消化器の中では大部分が死んでしまう酵母菌ですが、胞子の状態では消化されず残って生き残る確立が高いそうです。

■酵母菌の個性

 さて、『酵母菌』の場合は、同じ遺伝子を持った個体が大量に居ます。そういった同じ遺伝子を持つ個体群を『株』とよびます。『株』は人間で言えば個人になります。
 人間は全く同じ遺伝子をもつ人は居ませんが、酵母菌では同じ遺伝子を持った個体がウヨウヨいるからグループとして個体扱いにするわけですね。

 ところで人間でも走るのが速い人もいれば、力が強い人、数字に強い人、語学に強い人がいるように、『酵母菌』も『株』によっていろんな特性があります。
 例えば味噌や醤油を醸す『酵母菌』は塩分に強いですし、パンを発酵させる『酵母菌』は二価糖(お砂糖)を分解する能力が高いのです。
 パンやワイン、ビールなど糖分を分解するのが得意な酵母たちのグループを『サッカロミセスセレビシエ』と呼んでいますが、日本酒に使われている『酵母菌』は遺伝的に少し離れているので特に『サッカロミセス サケ』と呼ぼうと日本の研究者たちは提唱しています。
 この『サッカロミセス サケ』は、ワイン酵母などと比べると、芳香性は低いのですが、アルコール耐性が非常に高いのが特徴です。日本酒が原酒で20度近くまでアルコール度数が上がるのは、この『サッカロミセス サケ』の高いアルコール耐性と後でお話する日本酒特有の技術のおかげです。

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参考 文献
酵母コロキアム
https://yeastcolloquium.wordpress.com/
 


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