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吉松崇『大格差社会アメリカの資本主義』

リーマンブラザース勤務経験もある筆者のアメリカ経済の分析。先に『労働者の味方をやめた世界の左派政党 』を読んだが、どちらも勉強になった。
ピケティの論を正確に、批判と再反論も含めて整理している本は意外と珍しい。

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ピケティの主張

・「資本収益率>経済成長率」となっている限り、資本所有の格差が相続を通じて格差は固定される。


マンキューのピケティ批判

・世代を超えた格差の固定は、「資本収益率>経済成長率」が続くことで発生するとは言えない。
・仮に資本収益率が経済成長率を上回っても、相続税(概ね2%)、分割相続(子どもが二人なら世代を超えるタイミングで単純に言えば半々になる。35年で世代交代するとしたら、年で割ると2%ずつ減る)、本人の消費(経験的には資産の3%)の合計7%は消える。蓄積に回らない。
→よって、資本収益率が経済成長率+7%ないと、格差の固定にはならない。
 実際には、経済成長率+7%の資本収益率はない。
・実際、アメリカの富豪はその大半が創業者で、財閥の一族は意外と報酬が少ない。実際に世代を超えた格差の継承は、富豪に関しては起きていない?

【私の疑問】—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—―—
①人脈などの継承も影響するのでは? そこが財閥一族の強みだと思う。それも一種の格差固定の要因では。
②トップには入らないにせよ、浮世離れした生活を2代目以降も送っていると思う。創業者が上位に食い込みやすいのは、後述のスーパー経営者がまだ現役で、次世代に移っていないからでは。
③貧しい側の継承(貧困の連鎖)のことには触れないのか?
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・80年代以降、労働所得の格差が拡大している。
 ★スーパー経営者の登場: 物凄い額の報酬を得る経営者。特に金融業界では報酬と本人の価値とが釣り合っていないとの批判も。
・ただし、資産階級が固定されるか?は微妙(マンキューの指摘による)


ビル・ゲイツの主張

・資本主義は世界規模では格差を縮めている。(たしかに。)
・問題は一国内の格差拡大。
・また、投資をしたあとの資本収益率ばかり見ているが、実際には投資に失敗している人のほうが多い。最終的に成功していても、途中で相当失っている。
→資産階級から没落する人も多数いる。資本収益率にカウントされる前に費やしてきたコストを対象から外しているのはおかしい。
・金持ちのすべてが悪いのではなく、無駄な消費がだめ。そこにだけ課税しろ。私(ビル・ゲイツ)のような慈善活動に課税するのはおかしい。

【私の疑問】慈善活動と他との線引きは?


筆者の分析

・ビル・ゲイツはリバタリアニズム。小さな政府。
・ピケティは社会党のブレーンでコミュニタリアニズム。大きな政府。

【私の疑問】となるとビル・ゲイツはなぜ民主党支持? アイデンティティポリティクスなんだろうか? 小さな政府は共和党では?

・安易に政府に頼らず、自分たちでできる有用なことにトライする。プラグマティズム。市場を作ることで仕事を作る。米国らしい発想。


資本所得にばかり注目せず、労働所得の格差拡大に注目せよ

p.155-
・19世紀後半、特に1870年代以降の30年は実は格差縮小の時代だった。
・その頃のイングランドのジニ係数は低下している。
・マルクスが資本論を書いたのは1867年。それ以降、むしろ状況は改善していった。 労働分配率は上がっている。
・たしかにパリ・コミューン(1872年)以降、国家転覆レベルの騒乱は起きなくなった。
・この頃、資本所得は小さくなり、労働所得が増えている。
・資本装備率が上がる→労働生産性が高まる→労働者の取り分が高まる


教育はなぜ重要か?

タイラー・コーエン『大格差』

・最も強いのは、優れた人間が優れた機械(AI)を使うとき。
・強いチェスプレイヤーがチェスのコンピューターを使って戦うのが一番強い。使い方を判断できる人間が強い。
・スマートな分析力と的確なプレゼンテーション能力
→機械(AI)が何もかも代替するというわけではない。問題はAIを使いこなせる人と、そうでない人との間で、物凄い労働所得の格差拡大が起きるであろう点。
・コーエンは、教育の重要性を指摘する。
・ピケティは資本所得にばかり注目するが、労働所得の格差拡大が1980年代以降の傾向であり、そこに問題がある。労働所得の格差拡大を乗り越える手段としての教育。
・コーエンはオンライン教育の拡充で、教育(特に高等教育)を受けるコストが下がることを期待している?
・ピケティ「長い目で見れば、労働に関する格差を是正する最良の方法は、教育への投資であるのは間違いない。」(『21世紀の資本論』p.319)と言ってはいる。が、それ以上のことは言っていない。なぜなら、もともと労働所得の格差拡大に注目していないから。
・コーエン: どれだけの人が賢い機会と協働できる能力を身につけるかにかかっている。
・格差対策より、貧困対策のほうがはるかに重要である。
・貧困対策の鍵は、労働者の能力開発であり、教育への投資である。


その他

・富全体の中で相続された富は、1970年頃は50%以下だった。だが今や70%に達し、増大を続けているのだ。
・1980年代以降、資本分配率が高まっている。つまり、労働分配率が下がっている。これで労働所得の格差が拡大している。

・新自由主義系のミルトン・フリードマンは『選択の自由』を著した。
・機会の平等、そのためのセーフティネット、貧困の連鎖を防ぐことを重視。
・教育バウチャーの配布で、教育の機会均等を推進する。

・p.216~
ウォールストリートを占拠せよ→金融資本を対象とした運動
ティーパーティー運動→「大きな政府」を対象とした運動
重要なのはそのふたつの結びつきにある。
・金融資本が政府と結びつくことで、金融資本に対して政府がモノを言えなくなってきた。
・実際、リーマンショック後も多くの金融機関で、元の経営陣が残っている。全然責任を取っていない。政府が強く出られていない。

【私の疑問】
・2つの結びつきを批判して席巻したのが2016年のトランプ政権誕生か。(この本はトランプ当選直前に書かれている)
・が、トランプ政権はふたを開けるとゴールドマンサックス系の人がかなりたくさん入っていたが…。
・一方で、金融資本と政府の結びつきを過度に陰謀論として昇華してしまったのが、ディープステート論、Qアノンの下地でもある。結果的に全部陰謀論に片付けられてしまうと、本当に存在している金融資本と政府の結びつきに手を付けられなくなるのでは。
・バイデン政権はどうなるのだろうか。どういう立場だと言えるか? 金融資本とむすびつくのか?
・バイデン政権には珍しくゴールドマンサックス出身者がいない。


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