小娘、怖気付く〜小娘編8〜

前話はこちら

ライブハウスを出てマックに飛び込んだ小娘。

ポテトにガムシロップをつけて食べながら、うっすら感じている感情を迎えいれるか押し殺すかを迷っていました。
しかし実際のところ、迷っているとは言葉だけ。もうすでに途方もない感情に巻き込まれ始めています。

リハーサルでサビをひと回し聴いただけで見せつけられた、トリのバンドと自分のバンドの圧倒的な差。すでに敗北感と不安と緊張が止まりません。

服装もバンドでなんとなくまとまってたな…オシャレだったな…と思いながら自分のお気に入りのラコステのポロシャツを見やります。

胴と右腕、左腕がそれぞれ違うカラーやパターンで構成されたリメイクもののポロシャツ。近所でいちばんオシャレな古着屋でえいやっと買ったものでしたが、黒やスキニーでシュッとまとめられたトリのバンドの人たちをみて、
今はこのポロシャツの鮮やかさが恥ずかしくなっていました。

(ここに赤いストラトかぁ〜…)

とため息が止まりません。

気晴らしに愛読書の人間失格を開くも全く目で追えず、ただ激甘ポテトを食べ続けるだけの小娘。

読書は諦め、先程トイレでまとめたリハの心得をノートに書き込みます。

ライブ衣装を考える、と最後に書き足し、ぐるぐるぐるぐると丸で囲んでおきました。

あぁ今すぐ帰ってベッドで寝たい、もう逃げ出したい、ライブ怖いやりたくない。

そんな気持ちでいっぱいでしたが、ペーペーバンドのリハーサルは無情にも迫っています。

メンバーから、そろそろ戻っておいでとメールもきています。

今このまま家に帰ったらどうなるかなぁ…とノートをしまいながらぼんやり考えます。
携帯から連絡先を削除してしまえばメンバーとは簡単に切れる関係です。
幸いなことにうちのボーカルはボーカルギターなので、小娘が突如逃げ出してもどうにかライブはできるはずです。
ヴァンヘイレンやファンキーとは無関係な活動だし、地元に戻ってよろしくやればまあそんなに失うもんも大してないかなぁ、なんて気がしてきます。

しかしここで小娘は思い出しました。

リハーサル前に、メンバー全員のフルネームと連絡先、そして住所まで記入する用紙が配られ、小娘もしっかりそこに記入したことを…。

(だめだ、逃げ出してもバレる)

絶望した小娘はノロノロとトレイを片付け、重い足取りでマックを後にしました。

途中コンビニに寄り、ジャスミン茶を買うと決めているのにドリンク棚を凝視してみたりして少しでも時間を引き延ばしましたが
残酷なことに5分とかからずライブハウスへ戻ってきてしまいました。小娘は心配性ゆえ、時間を引き延ばすことすらできません。

入口では、だらだらかっこつけバンドがそれぞれの彼女と大声でタバコとチューハイで騒いでいます。

(トリの人たちには負けても仕方ないけど、コイツらには負けたくない)

小娘は思わぬところで元気をもらい、諦め半分でライブハウスへと戻っていきました。

続く

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