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本田忠勝のはなし

ー名槍・蜻蛉切編ー

今回は平八郎殿が愛用していた名槍「蜻蛉切(とんぼきり)」のおはなし。

1.蜻蛉切とは

蜻蛉切は天下三名槍のひとつに数えられる長大な槍である。
戦国時代が好きな方はもちろん、刀剣好きな方のなかでも有名で、
蜻蛉切を先に知り、そこから平八郎殿を知る方も少なくないだろう。

本名は「大笹穂槍_銘世伝蜻蛉切効正真作」
「笹穂槍」とは槍身の種類で、笹の葉のような形をした直槍のこと。
「正真作」は製作者・藤原正真(まさざね)である。

2.由来

私が心惹かれるのは、蜻蛉切の由来である。

平八郎殿が戦場で槍を立てていたところ、穂先に止まった蜻蛉が真っ二つに切れたそうだ。切れ味が鋭すぎる。
鋭すぎて、蜻蛉は今でも切られたことに気づいてないのではないだろうか…

3.御姿拝見

蜻蛉切を知って以来、「死ぬまでに本物の蜻蛉切をこの目で見たい。」と
フリーの休暇があると、ネットで「蜻蛉切 本物 展示」と調べていた。

そしてチャンスは訪れた。
2018年6月2日~7月16日までの間、平八郎殿の故郷である岡崎市美術博物館にて、ほんものの蜻蛉切が展示されることになったのである。

灼熱の7月、岡崎市でバスに揺られ、山の中の岡崎市美術博物館へ。
「刀剣女子」だろうお嬢さん方も多く来場されており、心の中でワクワクを共有しながら、いよいよ御姿を拝見。

これがリアルガチ・蜻蛉切。
他の展示物とは隔離され、360度拝見できるような展示になっており、なめまわすように何周も何周もした。それでも見足りないと思った。

リアル蜻蛉切を見た印象は「美しい。」であった。
決して煌びやかではないが、スタイリッシュでいて重厚、静かであり熱い。
今でも武器としての本能が、その槍姿の中で静かに眠っているようだった。
なにより私が目の前で見ている物に、かつて平八郎殿が実際に触れ、戦場で突き、刺し、共に戦乱の世を過ごしたかと思うと、鼓動が早くなって言葉では言い表せない。

どんなかたちであれ、蜻蛉切を守ってきた人々、今回企画・展示してくれたスタッフに心から感謝である。

蜻蛉切の樋(中心の溝)には、三鈷剣と3つの梵字が浮き彫りされている。
三鈷剣…悪気や煩悩から身を守るもの、不動明王が持つ剣で有名。
3つ梵字(サンスクリット語)の意味は
「カ」…地蔵菩薩
「キリーク」…阿弥陀如来
「サ」…観音菩薩
それぞれの梵字をハッキリ知りたい方はリンクへ

実際には、この槍先を柄に差して固定し使用する。
蜻蛉切の柄は青貝螺鈿細工が施されていたと伝わっているが、柄の消息は不明である。残念。

平八郎殿は、戦によっては6mの柄に取り替えていたという。
揺れる馬上から6m+槍先の長物を操りながら、しかも武功と立てるのは、相当の鍛錬を積まないと不可能であると考える。

そのあたりからも、平八郎殿の努力家っぷりおよび、武人魂を感じる。

4.刀剣乱舞での蜻蛉切

刀剣をイケメンに擬人化したことで、世の乙女のハートを鷲掴みした、 「刀剣乱舞」には蜻蛉切も擬人化されたキャラクターとして出てきている。
その姿は長身で筋骨隆々の生真面目そうな、「THE武人」キャラに見えた。

「刀剣乱舞」の世界にはまだ足を踏み入れていないが、平八郎殿の気質や、蜻蛉切と同じ梵字がキャラクターデザインにも投影されているところなど、アニメだからと軽んじてはいけない。

リアル蜻蛉切の御姿を拝見した岡崎市美術博物館にも、「刀剣女子」と思われるお嬢さん方がいた。
帰りのバスでは「よかったぁ。私、蜻蛉切の写真(?)鏡に貼ってるから」と、熱を込めて語っていたお嬢さんの言葉が思い出される。

5.最後に

平八郎殿は、体力に衰えを感じ始めたころ、柄を90㎝ほど切り詰め、短く調整したと言われている。
体力の衰えは戦場では致命傷…もう隠居しようか…となるところ。
しかし、平八郎殿は主君・家康様が思う天下を創るため、その時の自分の体力で最高のパフォーマンスができるよう、武具を調整したのだ。

ただ、力に任せた肉体派武士ではなく、セルフマネジメント能力にも長けた 武士だったところにも、魅力を感じるのである。

次回ー鎧編ー

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