おかあさんのドーナツ
おかあさんからドーナツを貰った。
正確には夫の母だから、義母だ。
義実家に行くと、おかあさんはいつもにこにこしながら玄関先に駆けつけてくれる。
そしてたっぷりのおいしいものを食べさせてくれる。
まるで3歳児に向けるような眼差しで、わたし(を含む、全ての生きとし生けるもの)を愛でる。
この間、義実家に行ったとき、おかあさんは仕事で家を空けていた。
「これ、おかあさんから」と持たされたのがドーナツだった。
赤ちゃんのこぶしくらいのコロコロとした球体。
真ん中に穴が空いているほうがプレーン。
ずっしりと持ち重りがするほうがあんドーナツだ。
まわりには砂糖がまぶしてあって、光を反射してきらきらしている。
全部で25個くらいあるだろうか。
透明のポリ袋にみっちりと詰まっている。
こんなにたくさん!と私は恐縮しながら受け取る。
「よく作るんだよねえ、ドーナツ」
夫はこともなげに言った。
いつもにこにこしているおかあさんのつくった豊かなドーナツが出てくる家庭を、誇張なしに、うらやましいなと思った。
家に帰ってから、二人でプレーンとあん入りを一つずつ食べてみた。
電子レンジで少し温めると、小さなドーナツはふわふわになった。
コップに牛乳を注いで、ちびちびと飲みながらドーナツをかじる。
やさしい甘みと、奥のほうで感じるかすかな塩気。
ミスドにもクリスピークリームドーナツにもない、素朴であたたかい手作りの味がする。
ほおばりながら、可愛がられて育った幸せな子どものような気持ちになる。
私がにこにこしていると夫が「よかったねえ」と言う。
私もいつか、こんなふうに誰かを可愛がったり幸せにしたりできるだろうか。
ドーナツはまだまだたくさんある。
食べるたび、体に脂肪と糖分を溜め込んで、私たち夫婦はふくふくと丸くなっていく。
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