hana4

hana4名義で物語などを書いています。

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re-move / 第一話【漫画原作部門応募作】

re-move / 第一話  case1:武田慎吾様  地下鉄の【青山一丁目】C2出口の階段を上がり、迷わなければ徒歩5分。駅周りのビル群を右に曲がり、お洒落なお店が建ち並ぶ通りを更に一本入った所に在る、メゾン・ド・プリズム101号室。  外観にもだいぶ年季が入り、打ちっぱなしのコンクリートでできた外壁を覆うように蔦が這っていた。しかし、当時その界隈では有名だった建築家がデザインしたおかげなのか、その蔦さえもデザインの一部のように見えるから不思議だ。  そんな築35年の集合

    • re-move / 第三話【漫画原作部門応募作】

      re-move / 第三話 case1:武田慎吾様*3  私たちは呆気にとられたまま、アツシに上手いこと誘導されてヨタヨタと歩く。  そして気が付いた時にはもう、職員室の目の前まで来ていた。 「しつれーしますっ!」  アツシが勢いよく挨拶したせいで、数人の先生がしかめっ面でこちらを見た。しかし、アツシはそんなコトなどお構いなしに、ズカズカと職員室の奥へと進む。そんなアツシの後を、彼はトボトボとついて行くのがやっとだった。  この急展開に疑問を投げかけることもなく、彼が大

      • re-move / 第二話【漫画原作部門応募作】

        re-move / 第二話 case1:武田慎吾様*2 「とりま、今の状況を教えて?」 (あの……今日、練習試合なんっすけど……今日の試合、来週から始まるインハイ予選のスタメン選考を兼ねてるらしいんっす。でも……なんか今、右足に違和感あって。あっ!でも、ウチめっちゃ練習多いから、違和感は良く感じるんです……ただ、今日は、嫌な?予感?みたいな?)  ふむふむ。自分でも嫌な予感はあったけど、不安に勝てなくて試合に出ちゃったのか。そんで、あの大怪我……か。  さっきの走馬灯の

        • このキスに意味はないからな /// 第三話【漫画原作部門応募作】

          このキスに意味はないからな / 第三話  加護の叫び声が遠き、静寂が漂う。須藤が気が付くとそこは、白い靄のかかった空間だった。 「ここは……?」  次第に意識がハッキリとしてきた焦点が定まると、そこが、壁も床も、全てが真っ白な室内であることがわかる。 「あっ!いらっしゃい」  まるで須藤を待っていたかのようなその声は、須藤にとって忘れられないあの声によく似ている気がした。須藤はその声の主を確認するため、辺りに漂う靄を手でかき分けるようにして進む。 「キミは……?」

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        re-move / 第一話【漫画原作部門応募作】

          このキスに意味はないからな // 第二話【漫画原作部門応募作】

          このキスに意味はないからな / 第二話 「現場100回っ!」  遺体発見現場が近づくにつれ、何故だか加護のテンションがあがる。 「はぁ。この場所、できたらあんまり近寄りたくないのに……それに何より、こいつがうぜぇ」  そんな加護と事件現場に来ることになってしまった須藤は、止まることのない溜息を吐き続けている。 「いいかい?キミ、事件とはね、現場に始まり現場に終わるんだよ」 「いちいちうるせーな。さっきまでコソコソしてたのに、誰も居ないってわかった途端にデカイ声だしや

          このキスに意味はないからな // 第二話【漫画原作部門応募作】

          このキスに意味はないからな / 第一話【漫画原作部門応募作】

          このキスに意味はないからな / 第一話 「揃いもそろって馬鹿ばっかだな……」  須藤 理人は座敷の端に陣取り、こうして一人、静かに悪態をつきながらウーロンハイを呑むということが習慣になりつつある。確かこのサークルは“薬草学研究部”とかいう名称だったはず。しかし、おそらくこの中の誰一人として本来の活動目的を実践したことはないだろう。というわけで、ここはいわゆる“飲みサー”というやつだ。実質はただ“飲みサー”活動しかしない薬草学研究部、しかし、愚かにも“薬草学”などという際ど

          このキスに意味はないからな / 第一話【漫画原作部門応募作】

          花のシキサイ:最終話【春】漂う桜の後悔[恋愛小説部門応募/連作短編]

          最終話:【春】 漂う桜の後悔   大きな公園の中にある坂道を登りきると、そこには四百メートルトラックを有したグラウンドが広がっている。  お正月に父と凧揚げをしたのはだいぶ前のことで、この三年間は父と一言も言葉を交わしていない。  中学のマラソン大会の日、全学年の生徒はわざわざここまで上ってきて、このグラウンドをスタートとゴールの両方として利用する。  だから大抵の生徒にとってみれば、ここはあまり良い思い出の場所でないはずだ。私は「嫌」なものに無理してでも参加するなんて、

          花のシキサイ:最終話【春】漂う桜の後悔[恋愛小説部門応募/連作短編]

          花のシキサイ:第三話【冬】その熱と後味と[恋愛小説部門応募/連作短編]

          第三話:【冬】 その熱と後味と  海の側の店は、もうとっくにやる気をなくして閉じている。  それなのに店の外で虚しく光っている自動販売機はというと、ご丁寧にちゃんと冬仕様になっていた。  俺は赤く縁どられた帯の上に飾られている、夏よりも甘ったるいミルクティーを選ぶと、出て来た缶はもう何年も温め続けられていたんじゃないかと思う程熱い。  指先にヒリッとした痛みを覚え、思わず放り投げたくなったそれをパーカーのポケットに押し込むと、一人でいるのに思わず吹き出しそうになる。  す

          花のシキサイ:第三話【冬】その熱と後味と[恋愛小説部門応募/連作短編]

          花のシキサイ:第二話【秋】空が落ちてくる瞬間[恋愛小説部門応募/連作短編]

          第二話:【秋】 空が落ちてくる瞬間 chapter:1『空が落ちてくる瞬間』  秋空が何処までも続いているように感じさせてくれるのは誰の為なんだろう?  隣にいるキミとの距離は、肘と肘の間、約三センチ。  捲りあげた袖から香る柔軟剤の香りと、校庭の砂っぽい空気をここで一緒に吸い込み始めたのは、いつからだったっけか…… * 「このさ、銀色の柵って何のためにあんの?」 「さぁ?落ちない様にじゃね?」 「誰か落ちたんかな?」 「二階だし、最悪落ちても大丈夫そうだけどな?お前

          花のシキサイ:第二話【秋】空が落ちてくる瞬間[恋愛小説部門応募/連作短編]

          花のシキサイ:第一話【夏】濃藍─koiai─[恋愛小説部門応募/連作短編]

          第一話:【夏】 濃藍 ─koiai─  少し外の空気でも吸おうかと、庭へ出て空を見上げた。  「今日ばかりは」と気を利かせてくれたのだろう。蝉は随分と遠くの方で鳴いている。  右手には夕焼け雲と太陽の端くれ。左手にはまだ薄い月。それから、黄昏に滲む星。薄明にあるべきものが、今日は全て揃っている。  そんな、夜の入口に立って途方に暮れた。  足首をブタクサにくすぐられながら改めてそこを見渡すと、やはり人の手が入らなくなった場所というものは、あっという間に廃れてゆくのだと

          花のシキサイ:第一話【夏】濃藍─koiai─[恋愛小説部門応募/連作短編]

          レイアウトPrequel:ガトーショコラ【恋愛小説部門応募/連作短編】《完結》

          レイアウトPrequel/ガトーショコラ *******  これは、美織と陸人が付き合う少し前のコト── 【ガトーショコラ:レシピ】  チョコ レシピ 簡単 Enter……チョコ 簡単 レシピ 材料少ない Enter 【みんなが作ってる】……嘘でしょ?こんなん私に作れるわけがない。  ああ、そうか。こんなところでも私は「みんな」っていう枠に入らせてはもらえないらしい。  オーブンを二百三十度に余熱……は、無理。ドライフルーツ……って固そうだし。洋酒?ダメでしょ。似合わ

          レイアウトPrequel:ガトーショコラ【恋愛小説部門応募/連作短編】《完結》

          レイアウト:最終話【恋愛小説部門応募/連作短編】

          【レイアウト】最終話 ******* [Prologue]  会場の扉を開けると、落ちかけの太陽と夜の混じった匂いがした。昼間の熱を冷ましていく青が、木漏れ日を湿らせ、足元の土が香り立つ。 「さっきね、ほら、あの絵のところで陸人が私に声をかける前……本当は、もう泣く寸前だった」 「知ってる」 「あの時は誤魔化すみたいになっちゃったけど……でも今は、ちゃんとわかるよ」 「うん。そっか。それ、聞かせてくれる?」 「ありがと。あのね、彼のサイン、漢字で書いてあったの。それも本名

          レイアウト:最終話【恋愛小説部門応募/連作短編】

          レイアウト:第二話【恋愛小説部門応募/連作短編】

          【レイアウト】第二話 *******  その部屋に入った途端、美織は味の無いバターを口の中に塗りたくられている様な感覚になった。  しばらく放置されたままだったキャンバスの側の床に座り、調色している瀬川の後ろ姿はいつになく明るい。同じ部屋に在るはずのその姿が、なんだか酷く遠くにあるような気がした。 「ゲン……?また、描けるの?」 「あっ、みお……実はそうなんだ」 「そっか」 「うん……もう、大丈夫」  久しく触れられていなかったキャンバスに、絵の具の溜まった平筆の先が

          レイアウト:第二話【恋愛小説部門応募/連作短編】

          レイアウト:第一話【恋愛小説部門応募/連作短編】

          【レイアウト】第一話 *******  もう何時間もその画面上の文字数は増えていない。  白井美織は、その明るくて白い画面を見限ると、ため息交じりに画面上のバツ印を押した。  昨日までは調子良く描けていた様な気がする。でも今日になってみたら、美織の頭の中で色鮮やかに上映されていたはずの物語が、急に展開しなくなった。すると途端にそもそもこの物語の全てが、最初からどうも ありきたりでつまらないものに思えてしまった。 「何も、今日じゃなくても」  一人きりの部屋で呟く声は、

          レイアウト:第一話【恋愛小説部門応募/連作短編】