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【中編】この感情に付ける、名前など(群像1次落ち作品)

達也さんが、死んだ。
その日は珍しく、同じ課の同僚や上司も休暇を取っていたので残業にはならずに大学を後にしたことを覚えている。
学校という空間は、都市、田舎に関わらず四季の移り変わりを顕著に感じさせる場所だ。つい先日まで桜色の絨毯が床一面に敷かれていたはずなのに、入学式を終えて学舎に馴染んだ学生を目で追い切れないうちに季節は巡っていたらしい。いま、この瞬間には顔を顰めたくなるような銀杏の香りと、すでに散ってしまい雨に打たれてぐずぐずになってしまった汚らしい金木犀の成れの果てがあちこちに散らばっていた。

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