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詩 『灰桜の沼地』

沼の色、沼の正体について考えたことなどなかった。
その沼のまわりにはおそらく雫のこぼれそうな葉をしなだらせた木々。粘性のある土、そこから生える草。呼吸するつもりもないけれど気づけば賢く生息しつづけている。

思うに、茶色と紫色は相性がよさそうに混ざりあう。奥行きよりも沸き上がって膨らもうという衝迫のほうが強くて、だから、桜色に引っ掻いた健気な痕でさえ見過ごす。

届かない程度の明るさならいらなかった。光を発するでもなく滲み出る水分。渇きはない。いつまでも。
風は吹くだろうか。込み上がる拍が一定だったためしはないのに、決まって顔の真横をぬるりと通り過ぎる。

だから沈んでいけるのでしょう、そして綺麗に消えることはないのでしょう、耳に響くように呼吸をとめてみる。とまらないのは左の涙。拭う動作もすでに面倒なほど。

愛をうたいます。

腰の小窓を開く。それはかなしみとも思う。からだに流れ込むのが怒りなら、どうして。



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