見出し画像

何かを習う時に大事なこと。講師業で出会った印象的な受講生さんのエピソード

■わたしが講師業をはじめるきっかけ


わたしの職業訓練校での講師経験から、あるエピソードを書いてみます。

わたしはフリーになってすぐの頃、日々のデザインや制作の仕事と並行して、週末だけパソコンスクールのインストラクターのアルバイトをしていました。

グラフィックデザイナー時代、自分が通ったWEBデザインスクールの職員の方に「フリーになりました!」と伝えたら、「イントラやらない?」と声をかけていただけたのです。

当時フリーとして駆け出しの頃、本当に食べていけなかったのでとてもありがたかったです。(感謝…!)

そこからのご縁でしばらくして職業訓練校の講師に声をかけていただき、現在でも年に数回、現場で講義をさせていただいています。

■スキルの差がはっきりと出てしまう、老若男女が集まる学舎


職業訓練校では、20代から60代までの男女が教室で肩を並べて学びます。

●ずっと専業主婦で長くお仕事ブランクがあるけど、お子さんの手が離れたので復帰のために通う方。

●仕事を辞めて転職先を探している方

●定年退職されて、その後のお仕事の準備のために通う方

など、本当に色んな方がいます。

年齢やこれまでの経歴、働いた経験やその内容も様々な人がひとつの教室で肩を並べて学ぶ場所です。

ただそのような環境でパソコンを学ぶ場合、多くの受講生さんは劣等感を感じやすいようです。

例えば「ゼロからみんな一斉にスタート!」だったらまた違いますが、ここには、"パソコン経験の長い方"と"ほとんどない方"が一様に集まっています。

そのためその個々のスキルは、当然最初からかなりの差がひらきます

極端なことを言うと、「経理職で20年やってきました」という人もいれば、「文字入力が苦手でマウスの操作も慣れない…」という方もいます。

そう言った最初の経験レベルも様々な方たちが同じ受講生として肩を並べる環境で、受講生さんには前の人のモニターが当然見えます。

そして、できない人ほど前の人の操作が目に入るたびに落ち込んでしまうわけです。

「自分にはとてもついていけない、文字入力すらままならないのに…。」

そう言って日に日に元気を無くしてしまうわけです。

***
かねてから、わたしはこれはとてももったいないことだと感じていました。

言ってみれば職訓校のようなところは期間限定の学舎で、3ヶ月〜長くても1年くらいの間のお付き合いです。
(もちろん、修了後ずっと友人でいる方も多くいますよ!)

ここで、たまたま"できる人"と一緒だったことで、自分の劣等感に苛まれてせっかくの学びの機会を失ってしまうなんて。

わたしは長くこの状況を目にしてきたので、そういった人たちが自分の目的にフォーカスして学べるよう、授業の初日に必ずお伝えしていることがあります。

上記で説明した内容を詳しく話した後で、

「この教室では周りの方と自分を比べないでください。比べるなら初日の今日の自分と最終日の自分です。初日に比べてどれだけの知識が身についたか、できるようになったか、そこを見る努力をしてください。」
と。

就職を決めることが目的の職訓校では、早ければ1ヶ月くらいで就職先を決めて退校していく方もいます。
受講生さんは講座で学ぶと同時に就職活動も並行していますので、希望の仕事が見つかればそこで退校になるわけですが、ここでも他の受講生さんにとっては、焦る原因となります。
「同期の仲間が先に就職を決めた。」

ただ、以前こんなことがありました。

■就職を決めて2ヶ月以内に仕事を辞めたAさん

パソコン操作が得意で講義もなんなくこなし、講座の半ばで就職を決めて退校した20代後半の女性Aさんがいました。

受講最終日に「就職が決まりました。お世話になりました。皆さん頑張ってください!」と挨拶をして退校していきましたが、次の日教室へ行ってみると、他の受講生さんから焦りと不安を感じたのが教室の空気ですぐに伝わりました。

ここで、一見「優秀なら当然だよね」と思いますよね。

でもAさんは、就職して2ヶ月も経たないうちにその会社を辞めてしまいました。

理由は「自分に合わない」でした。

ある日の夕方、授業を終えるとミーティングルームでAさんとキャリアカウンセラーのEさんが話をしていていました。

授業の片付けをしながら、少し耳を傾けていると、
Aさんは興奮して、Eさんに就職した会社がどんなに酷い対応だったかと言うのを息巻いて話していました。

その後、Aさんが帰って行った後に事務所でEさんの話を聞くと、

「Aさんはもともと思い込みが激しくて相手の話をあまりよく聞かないところがあるんです。昨日、就職先の人事の方と連絡をとったら、
そう言った面を上司に指摘されて、納得がいかないと言っている、と。
この会社は自分に合わないと言っているんです。」

とのことでした。

このあとAさんは、しばらく就職先を決めるのに苦労されたようでした。

その間も6ヶ月間の講座は進み、他の受講生さんは最終日まで受講して無事に就職を決めていかれました。

このエピソードから言えるのは、一見その時は劣等感や焦りを感じるような出来事も、"長い目で考えるとそれだけではない"ということです。

つまり、目の前の事象に一喜一憂していることにはあまり意味がないと思うわけです。
先に就職を決めた時、他の受講生さんからしたら、このような結末を予想していなかったわけですから。

「人間万事塞翁が馬」という言葉がありますよね。

人間万事塞翁が馬…一見、不運に思えたことが幸運につながったり、その逆だったりすることのたとえ。
幸運か不運かは容易に判断しがたい、ということ。

コトバンク

「今目の前の事象」だけを見ていたら焦ったり不安になったりするようなことも、長い目で見ると本当にそうかな?ということはいくらでもあります。

■PCスキルも学歴もなし、ゼロからのスタートでWEBデザイナーになったBさん


もうひとつ印象深いエピソードがあります。

フリーになって2年目くらいに、職業訓練校の半年コースでWEBデザインの講義を担当しました。

その中に、パソコン操作がそんなに得意ではないBさんがいました。

Bさんは地方からひとり東京に出てきてワンルームの部屋で一人暮らしをしながら講座に通っていましたが、当然自分のパソコンも持っていなく、操作も不慣れで文字入力の段階ですでに追いつかないというような方でした。

そんなBさんがデザイン&プログラムを学ぶというのですから、当然時間はかかります。
講義でも誰からも遅れをとっていて、とても手のかかる受講生さんではありました。
他の受講生さんと自分を比べていたら途中で挫折していたかもしれません。

そんなBさんが、ある日講座終了後にわたしのところに来て言いました。

「先生、わたし、WEBデザイナーになりたいです。
でも今はお金も全くないしパソコンを買うお金もありません。
なので週に2回、漫画喫茶でコーディング(HTMLのプログラミング)の復習をすることにしました。」

それを聞いた時、わたしは驚いたと同時にとても感動しました。

授業では人一倍遅れていて、誰よりも足手まといになっている雰囲気は否めませんでした。

でも、他の受講生さんから面倒をみてもらっているような彼女が、目をキラキラさせてまっすぐな目でわたしにそう言ったのです。

30名ほどいたそのクラスでBさんは誰よりも遅れていましたが、彼女は他の受講生さんにとても愛されていました。

できない自分を認めて愚痴や不満を言わず、そして必ず朝は一番に教室に入っていました。
当然遅刻や欠席は一度もありません。
少しでもパソコンに触れようと、毎日、予習復習を自らして努力していました。

こちらが提示した課題はきちんと全てこなし、授業後に必ず教室が利用できる最終時間まで残って自分なりに復習し、わからないところがあると質問に来ました。

そしてBさんは、講座期間中も含めて就職活動にとても苦労されましたが、半年の講座終了後、アルバイトでWEB制作会社のコーディングエンジニアの職に就きました。

さらにその後、Bさんはそこでも実力をつけて、とうとう数年後に正社員に。

もうだいぶ前になりますが、当時の知り合いからご結婚されたと聞きました。
おそらく、エンジニアとしてのキャリアで、お子さんを育てながらでもお仕事されているんじゃないかと思います。

もう10年以上前の話ですが、とても印象に残っている受講生さんです。

■何かを習う時に大事なこと=人と比べないこと


わたしはこれまで10年以上の間に、パソコンスクール時代からも考えると、数百名の受講生さんと出会ってきたと思います。

パソコンって得意不得意が顕著に現れる分野でもあるのですが、自分自身を受容して、誰とも比較せずにやるべきことをコツコツ積み上げ、その自分を楽しんでいると何歳からでもやりたいことへの道が開かれてくると思います。

人と比べそうになる自分を思い出した時、この受講生さんのことをいつも思い出します。

初心忘るるべからず。

自分への戒めと同時に、常に剣を磨く自分でありたいと思った日曜日の朝に書いてみました。

最後まで読んでくださりありがとうございます^^


最後までお読みいただきありがとうございます!フリーランスのお仕事のこと、デザイン、創作、映像表現や日々の暮らし、考えたことなど何でも発信しています。コツコツ更新していきますので、良かったらフォローお願いします☆