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葉巻と、それを吸う愛しい人 episode-1

「あっ… おじさま!こんばんは。ジェシーはいる?」
「あれ?約束してたのかい?ジェシーはロージーと一緒に親戚の家に泊まりがけで出掛けてるよ」
「本当に?!知らなかった。あーあやっぱり電話してから来ればよかったわ。怖いビデオを借りたから一緒に観ようと思ったんだけど…」
とマリアが言って困っているとフランクが、
「まあとりあえず入んなさいよ」
と笑顔で招き入れてくれた。

思いがけずおじさまと2人きりになってしまった…!

 マリアはもう数年の間、この親友の父親である、20才歳の離れたフランクに恋をしている。マリアとジェシーは大学時代からの友人なので、初めてフランクに会ってからはもう7年になるが、本気で恋をし始めたのは3年ほど前からだった。今では苦しいぐらいの片想い中である。

 フランクはロス市警の警部なのだが、外見を気にしないタイプで、大体いつも髪はボサボサだし、服に気を払っている様子も全く無い。だから一見冴えないように見えるが、少し話すと頭が明晰なのがよくわかる。だいぶ若くして警部になったというのもよくわかる。マリアは初対面の時からフランクの顔や雰囲気を素敵だなと思ったが、今やもう、声も喋り方も、身振りや手振りも、真面目な顔で冗談を言うところも、ふざけているように見えて冷静で優しいところも、何もかもが好きになってしまった。とりわけ時折見せる笑顔、困ったような照れているような笑顔が大好きで、その顔を見せられるたびに切ないような気持ちが湧いて、胸の中が乱れる。

 そしてフランクはヘビースモーカーで太い葉巻をいつでも吸っている。吸っていない時も火の消えた葉巻を指に挟んでいる。吸いたくなったらまたその葉巻に火をつけたりする。マリアの中ではフランクと葉巻は切り離せない。フランクが葉巻に火をつける仕草も、吸っている姿も、葉巻を咥えたまま喋る姿も、葉巻を挟んでいる指の形すらも大好きだ。ずっと見ていたくなる。

「チョコレート!久しぶり!元気にしてた?」
この家で飼っている雄のアイリッシュセッターがマリアの所へ駆けて来て尻尾を振った。マリアはチョコレート(名前がチョコレートなのだ)が大好きで、会うといつも抱きしめる。チョコレートも、しゃがんだマリアの肩に両手を掛けて、顔を舐めて歓迎してくれる。
「んー!ありがとありがと、歓迎してくれてありがと」
その様子をフランクは笑顔で見ていたが、
「ワインでも飲むかい?」
と言って1人で飲んでいたらしいソファテーブルの上のワインをマリアにも注いでくれた。
「…ありがとう」
 陽が落ちたばかりの気持ちのいい夏の夜である。2人はリビングの広くて長い大人数用のソファに並んで座ってグラスを合わせた。正面のブラウン管のテレビがついている。
「怖いビデオってどんなのだい?」
「知らないの。怖すぎて超話題!って書いてあったのを適当に選んじゃって」
「超話題ね」とフランクは笑って、
「ちょっと興味あるな」
「本当?!おじさま一緒に観てくれる?」
マリアはフランクと2人きりでワインを飲んでいるだけでも幸せだったが、ビデオを観るということは少なくともあと2時間は一緒にいられるということである。
こんな最高の晩ある?

 そして2人でワインを飲みながらビデオを観始めたのだが、その惹句の通り、実際序盤から立て続けにゾッとするような恐ろしい展開が続く。マリアは自分で借りておきながら、本気で怖すぎて呼吸が苦しくなってきた。フランクはと見ると落ち着いた顔で葉巻を吸っているので、
「…おじさま怖くない?」
「いいや、実際の事件の方が怖いね」
「そっか。…私怖いわ」
 物語が進行するに連れて更に恐怖が高まって来る。観客を驚かせるためによくある、大きな効果音とともに急にドアが開くシーンでは、マリアは思わず声を上げてしまった。
 その後も物語は恐怖と張り詰めた緊張感の中続いたが、最終盤にようやく状況が解決するかに見えた瞬間、突如観客の安堵をどん底に叩き落とすように最悪の事態を迎えた。あっと思う間もなくエンドロールが流れてきた。
「…こんなラストなの?」
「らしいね」
「いやだわ、怖すぎる」
マリアは本当に全身が寒くなるほど、何も考えられなくなるほど怖くなってしまい、
「怖い、おじさま、ぎゅってハグして」
とフランクの顔を見て言った。フランクは笑いながら
「大丈夫だよ。現実の話じゃない」
と言い、座ったままマリアをハグしてやろうと腕を広げた時、マリアがフランクの膝の上にまたがるように乗って、首に抱きついて来た。
フランクは思いがけない大胆な行動に驚いたが、可愛らしくも思い、もう一度
「大丈夫だよ」
と優しく言って笑いながら、マリアを強く抱きしめて頭と背中を撫でてやった。
 暑い夜なので、キャミソールタイプの薄手のワンピースを着ていたマリアの背中にフランクの手の感触がダイレクトに伝わってきた。マリアは怖い気持ちがだんだん落ち着いてくる代わりに、フランクへの思いが募ってきてしまった。

 これまでマリアは挨拶の時にもハグしてもらった事は無かった。握手すらしたことが無い。それが今その腕の中にいる…と、自分の状況を思ったら急に身体が熱くなってきた。
 そして、既にワインで気持ちよく酔っていることも手伝って、ついに本当の自分の気持ちが溢れ出してきてしまった。ずっとずっと隠していた本当の気持ちである。
 マリアは抱きついていた身体を離して、フランクの目を見つめると、
「おじさま、…あのね、私……おじさまのことが好きなの」
と言った。
フランクは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐにいつもの調子で、
「あたしだってお前さんのことが好きだよ。ロージーだっていつもお前さんのことを…」
マリアは首を振って、
「違うの。私だってローズおばさまもジェシーも大好きよ。でもおじさまのことは……男の人として好きなの」
「…………」
「おじさま…キスして」
マリアが大きな目でフランクの目を見つめながら言う。
「また明日からちゃんと、ただのジェシーの友達に戻るから、……お願い…一度だけでいいの」
そう言いながら顔を近づけて、熱い潤んだ目でフランクの目と唇を交互に見つめて来る。
フランクは逡巡したが、ついに、火のついていない葉巻を挟んだ右手でマリアの頭を抱き寄せてキスをした。その瞬間マリアの口から、
「んっ…」
と声が漏れた。フランクが舌を絡ませると、
「あ…んっ……ぁ…!」
と切なげな声が高まってくる。フランクは堪らず、
「ちょ…ちょっと待ってよ」
と言って唇を離した。
「…そんな可愛い声出さないどくれよ。…自信が無くなっちまう」
そう言って、手を広げて肩をすくめてみせた。
「自信が無くなる」という「キス以上のことをしてしまいそうだ」とほとんど同義の台詞を言われ、堪えられなくなったのはむしろマリアの方だった。フランクの首に手を回し、今度は自分から激しく舌を絡ませる。フランクも思わずそれに応じながら、マリアの頭と背中を強く抱くと、もう完全に理性が飛んでしまった。
 自分の呼吸が上がってくるままに、マリアの背中に回した手でワンピースのジッパーに指をかけ、下ろした。そして、身体を離してマリアの顔を見ながら両肩の肩紐を外すと、ブラをしていない胸が直接現れた。
マリアは胸を隠すこともなく、フランクの目を見つめて、
「私…胸が小さいの。ジェシーと違って」
と言うと、フランクは首を振りながら、これ以上ない程マリアの好きな笑顔で、
「きれいだよ」
と言った。それを聞いてマリアは胸がキュンとしてしまい、また思わず首に抱きつくと、フランクはマリアの耳にキスをしながら裸の胸を揉んだ。
「あっ…!ん…っあ…あ」
そして、マリアをソファに倒して上から跨がった。

 その時、リビングの入り口のところに座っているチョコレートが小さい声で「ワフッ」と吠えてこっちを睨むような目で見ているのと目が合った。しかしフランクはもう欲情が高まり過ぎて自分を止められない。片目をつぶって見せて「内緒な」と目で言った。

 それからまたマリアの耳にキスをし、首すじに舌を這わせて鎖骨から肩と下がっていったが、どこを舐めても可愛い喘ぎ声を上げるので愛しくなる。だから体勢を変えてマリアの顔がよく見えるように片手で頭を抱き寄せ、その切なげな表情を眺めながら、片方の手で胸から下を撫でていくことにした。
「…んっ…!あ…っ…ああん…はぁ…あっ」
マリアの声と表情が可愛すぎて、愛撫している途中思わず何度もキスしてしまう。
 その指がクリトリスに達した瞬間、
「あ…!あんんっ…!!…っ…だ…だめ…!」
マリアの声が一際高くなった。脚を開かせて更に膣の周りを撫でると、驚くほどトロトロに濡れている。
フランクはそのまま指を入れて中を刺激し、濡れた指でクリトリスを更に優しく撫でた。
「んんっ!!いや……!だ…だめ…!おじさま…だめ…あ…イッちゃう…イッちゃう!ああん!いやああ…っっ!!」
想像以上のマリアの感じ方と、喘ぎ声を上げる可愛い顔を見せられて、フランクは激しく欲情をかき立てられてしまう。今度は舌でマリアの感じるところを上からなぞっていった。
「ああんっ…!あ…!いや……あんっ…!」
下の方まで来てクリトリスを舌で覆って吸った時、またマリアが大きな喘ぎ声を上げた。
「やっ…だめ…!だめ!!またイッちゃう!…や…!!いやああぁっ!!」
再び可愛い声でイッたマリアを見てフランクもさすがに我慢ができなくなり、もう一刻も早くマリアの中に入って自分もイキたくなった。マリアの脚を大きく拡げ、濡れすぎなぐらい濡れた膣に自分の固くなったものを挿れた。
「あ…っ!!ああん…っ!」
マリアがまた可愛い喘ぎ声をあげる。濡れた膣の中で締め付けられ、あまりの気持ち良さにフランクも思わず声が出てしまう。
「…すごいな。信じられないぐらい気持ちいいよ。すぐイッちまいそうだ」
マリアの顔を見ながらフランクが言う。
自分の中に入った状態で、フランクが本当に気持ち良さそうな顔で言ってくれる台詞を聞いて、マリアは胸がキュンとなり、同時に膣がきゅうっと締まる。するとフランクがまた思わず声をあげて息を吐き、それからゆっくりと腰を動かし始めた。その時マリアが、
「ああんっ…!お…おじさま…中でイッて…?」
と言った。驚くフランクに、
「んっ…私…手術したでしょ?だから…大丈夫なの…あっ…んんっ…!」
その手術というのは良性の筋腫のため子宮を全て取り出したというもので、確かにフランクも数年前の当時聞いていた話であった。
フランクは頭では理解できたし、本能的にもマリアの中でイキたいのはもちろんであったが、しかし本当にそうしたらマリアの心は傷つくのではないかと思い、一瞬返答に窮したが、
「あっ…んん…お願いおじさま…!最後まで離れないで…!」
そう言われてフランクも堪らなくなり、また強く腰を動かし始めると、
「あぁっ…ん!…気持ちいい…おじさま…!またイッちゃいそう…!あ…だめ!イッちゃう!イッちゃうっ…!!」
高まったマリアの喘ぎ声を聞いて、フランクももう堪えられなくなった。腰を動かすスピードが早くなり、マリアの願い通り彼女の中でイッた。

 フランクはマリアから体を離さないままで、上がった呼吸を静めていた。そして息が落ち着いてからマリアにキスをし、
「最高だったよ」
とマリアの目を見ながら、あの笑顔で言った。
「おじさま…」
マリアはフランクに優しく囁かれ、また胸がキュンとすると同時に、膣が締まってしまうのが自分でもわかった。
「……っ!…そんな締められるとまた気持ち良くなっちまう」
マリアもそんな台詞を言われると更にキュンとして余計膣が締まってしまう。
「おじさま…キスして」
フランクが髪を撫でながらキスをするとマリアが舌を絡めてきた。それに応じている内にマリアの中でフランクのものがまた固くなってくる。マリアはその感触を感じ、フランクがまた欲情してくれていると思うとそれだけで濡れてきてしまう。
フランクがマリアの耳に舌を這わせると、
「んっ…ぁ…ん…おじさま…!だめ…また感じちゃう…あぁん…っ!」
と、泣きそうな可愛い喘ぎ声を出されてフランクもまた完全に固くなり、そのまま再び腰を動かし始めた。しかしもっとマリアの身体を愛撫したくなり、一旦離しがたい身体を離して今度はマリアを裏返すと、うなじから背中に舌を這わせた。マリアは感じすぎて喘ぎ声が止まらない。
「ああんっ…!おじさま…あ…あん…っ!!んんっ!………もう…だめ…!」
マリアの息が苦しげに絶え絶えになった頃、フランクはマリアを四つん這いにさせ、後ろから挿れて腰を動かした。マリアはまた膣の違うところにフランクの固いものがあたり、驚くほど感じてしまう。
「ん…ああっっ!!だめ…おじさま…気持ちいい……!」
フランクはマリアの奥を突きながら指で優しくクリトリスを撫でる。
「あっ…!!だめ…だめ…!!感じすぎちゃう…!!おじさま…!!あああん!!!イッちゃう!!だめ…!!またイッちゃう…ああぁんっ!!」
マリアがイクのと同時に、フランクも2度目の絶頂に達した。

 その後2人はソファに横たわったまま呼吸を鎮めていたが、ようやくフランクは片肘をついて自分の頭を支え、片方の手でさっき消した葉巻を咥えて火を付けた。マリアはフランクの胸のあたりに顔をうずめて幸せな気持ちでいる。フランクは肘を付いている方の手に葉巻を持ち変え、空いた方の手でマリアの髪を撫でた。
そして頭の中で、この状況について思いをめぐらせた。
やがて葉巻を吸い終え、ひとつ息を吐くと、
「さあ、服を着なさい。送って行こう」
と言ってマリアの頭をポンポンと叩いた。

 フランクが上着を取りに寝室に行こうとすると、廊下の隅にチョコレートが寝そべっていて、片方のまぶたを持ち上げるようにしてフランクを睨んでいる。
フランクは「わかってるわかってる」というように頷き、
「あの状況で止められる男がいたらお目にかかりたいよ」
と言って肩をすくめて見せた。

 フランクが送ってくれる車の中で、マリアは自分の横の窓越しに流れる夜の街をぼうっと見ていたが、だんだん現実的な淋しさが押し寄せてきた。
(明日からまた、ただのジェシーの友達に戻らないといけないんだ…)
今度ジェシーに会いにフランクの家に行っても、今夜のことは何も無かったかのように振る舞わなければいけないのだ。その場面を想像するだけで涙が出そうになって来た。
 しかしその約束は絶対に守らなくてはいけないと思った。ローズのためにもジェシーのためにも、そして自分が巻き込んでしまったフランクのためにも。
(泣かないで頑張らないといけない)
とマリアは自分に言い聞かせた。
フランクも車の中では葉巻を吸うだけで一言も喋らなかった。

 やがてマリアのマンションの前で車が止まった。
マリアが助手席のドアを開けて外に出ると、フランクもブレーキハンドルを引いて車を降りた。そして運転席のドアに身体をもたせかけて、腕を組んだ格好で葉巻を吸いながらマリアがマンションの玄関のあるこちら側に回ってくるのを待っている。
マリアはフランクの前に立って目を見つめると、
「…おじさま、今日はどうもありがとう。明日からまたちゃんとジェシーの友達に戻るわ」
と言って笑顔を作った。
フランクは葉巻を吸いながら目を細めてマリアの顔をじっと見ていたが、やがて
「ああ」
と頷いて、例のマリアの大好きな笑顔を見せた。
マリアはこれ以上この場にいると自分で何を言い出すかわからないと思い、
「じゃあおやすみなさい、おじさま。送ってくれてありがとう」
と言って、くるりと背を向けてマンションの玄関の中に入った。



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