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映画「ライフ・オブ・パイ」の「虎」とは何なのか

寅年なので、私の中の大切な虎にまつわる話をしようと思う。
映画「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日(原題:Life of Pi)」に出てくる虎の話だ。


※ネタバレしまくってしまうのでご了承下さい。

※同じような解釈をしている方もきっといらっしゃるだろうとは思いますが、とりあえず私なりに思ったことを書きます。

※あくまでも私の思いを全開に書いたものですので、これが正解だとかいうことじゃ全然ないです。





この映画の大きなあらすじは、貨物船で航海中、嵐による海難事故に遭いながらも生き残った16歳の少年と虎が、ひとつの救命ボートで227日間漂流するというものだ。
最後にちょっと「あっ」と言わせられるようなことが提示される。
公開当時(日本では2013年)は、それをどう解釈するかということで世界中のレビュー欄が賑わっていた。
それは、

・パイが虎と漂流したのは本当の話だ
・パイと虎の漂流は、パイの作り話だ

という全く逆の2通りの解釈だ。
映画自体が、どちらとも解釈できるように構成されているのだが、どうやら「作り話だった」という解釈の方が人気を集めているように見えた。


ちなみに私は、パイは本当に虎と漂流したと解釈している。
理由は、映画の中で「信じるかどうかは君が判断したらいい」という台詞が出て来るから。
信じられないことが実際に起こり得る、実際に起こった、ということを信じられるかどうかを問われていると思ったからだ。


しかし。
実は私にとって、そこの解釈は全然重要ではないのだ。
この映画はもっともっと面白くて素敵な話なのだと、一緒に観に行ったおじさんが気づかせてくれたのだ。


私はこの映画が公開されてすぐに、心から尊敬している知性的で優しいおじさんと2人で映画館に観に行った。(ここでも登場したおじさん)
観終わったあと、「ああ面白かった」と思いながらおじさんと食事に行った。
全体的に考えさせられる所がたくさんある映画だったので、私はあれも話そうこれも話そうと思っていた。
ところが最初のお酒がきて乾杯したあと、おじさんが開口一番、
「まず、虎が何なのかという話だと思うんですが。‥‥どうもあれは神なんじゃないか」
と言った。


たしかに最初から最後まで、神や信仰について考えずにはいられないような内容の映画ではあったが、
虎 = 神
という解釈は思いもよらなかった。
でも、そう言われた瞬間に、
「それだ」
と思った。
途端に、今観たばかりの映画のさまざまな場面の虎のことが次から次に思い浮かんできた。
虎の行動が、確かに神のようであったことに気づいた。
私は信仰を持っていない人間だけれど、あの虎は、私の神に対するイメージの通りだった。


例えば、その恐ろしさ。
パイは狭いボートの上で何度も虎に襲われかかる。
気を許すことができそうで、決してできないのだ。


例えば、ふと気づくとパイを見ているところ。
家族を失い泣いているパイを、海の上を漂流し続けて飢えと孤独で疲れ切ったパイを、虎は少し離れたところからじっと見ている。


例えば、何も教えてくれない感じ。
ボートは途中、ある島に漂着する。
そこには食べ物も水もあるが、実は人間を飲み込んでしまう巨大な浮島であることが後にわかる。
何も知らないパイはそこで夜を明かそうとするが、虎は一人でボートへ戻ってしまう。
ボートから遠くにいるパイを見ているだけだ。


例えば、決して距離が縮まらない感じ。
パイは227日間の漂流の末、ついに陸にたどり着く。
浜辺に倒れ込み、かすむ意識の中で、同じように衰弱した虎が歩いて行く後ろ姿が見える。
パイは、自分と苦しみを共にしてきた虎が、きっと振り返って自分のことを見てくれるだろうと思った。しかし、虎は最後までたったの一度も振り返らずにジャングルの中に入って行ってしまう。


自分を見ていてくれるけど、永久に近づけない恐ろしい感じ。
近づけないし恐ろしいけど、見ていてくれる感じ。
すべて、私の想像する神そのもののようだと思った。


だから、おじさんとずっとそんな話をした。
そのおじさんはとても頭の中が深くて広い人なのでもっともっと色んなことを考えていたが、私はもう、その解釈について考えるだけで十分満たされた。
おじさんのおかげでこの映画の面白さに気づき、迷わず原作も買って読んだ。
上下巻で500ページ超の長編なのだが、原作の方がより重厚に多層的にその解釈を補強しているように思った。
人生の10冊に挙げたいぐらいの宝物になった。

 


便宜的に「虎」と呼んでしまったが彼には「リチャード・パーカー」という名前が付いている。
今でも動物園などで虎を見ると「あ、リチャード・パーカーだ!」と思いながら、その度にちょっと暖かい気持ちになって、神について考えたりしている。


 ◇



‥‥これってもっと繊細に語らなきゃいけない話かな?
不勉強な身で語っちゃって大丈夫かな?
とも思ったのですが、折に触れ自分を励ます物語として心の片隅にあるので、今回思い切って書いちゃいました。




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