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彼の噛みあと 第13話

その数日後のことである。
夕食を済ませた後、園子と祖母がバーで飲んでいると、先日のフォーマルパーティーの時にちょっと話をした日本人の老夫婦が偶然やってきたので、同じテーブルで飲むことになった。
よくよく話を聞くと、婦人の姉が祖母と同世代で、しかも同じく医者をしていたということがわかり、二人の間で話が盛り上がった。
「あら!それじゃ大学も同じですよ」
「まあ!そうでしたの。私と2歳しか違わないということは、お顔ぐらい存じてるかもしれませんわね」
「本当に。姉も来ていたらさぞ喜んだと思いますわ」
祖母たちの世代では今ほど女医がいなかったので、たまにそういう仲間に会うと嬉しい、というのを知っている園子は2人の会話を微笑みながら聴いていた。
その時、テーブルの上に出してあったiPhoneにメールの着信があった。
彼からだ。
園子は化粧室でメールを開こうと思い、挨拶をして席を立った。


【園子、どうしてる?とてもあなたに会いたいけど、今夜は終わらせなきゃいけない仕事があって抜け出せないんだ。あなたのこと抱いてる気分になれるようなメールちょうだい。】
と書いてある。
園子はこんなことを言われると、それだけで胸が甘く溶けそうになる。
【今、祖母とバーで飲んでいます。おじさまにされたことを思い出すだけで濡れちゃいます。】
と書いて送信すると、すぐに返信が来た。
【苛めて欲しい?】
【すごく苛めて欲しいです。】
【会いたいな。】
【園子もとてもおじさまにお会いしたいです。】
園子は甘くうっとりした気持ちになり本当に濡れてしまっていたのだが、次に来た彼からの返信を見てビクッとした。

【園子、アナルに挿れられたことある?】

園子は、本当に心から彼のセックスに感じていた。
こんなに感じさせてくれる人がいるなんて思いもよらなかったぐらいだ。
いつも鏡を見ては、彼に噛まれてアザだらけになっている自分の身体をを愛しく眺めているし、彼に頬を叩かれるのも泣きたくなるぐらい大好きなのだ。
手首を縛られたことも、ローターで焦らされたことも、もう、もう、思い出すだけで濡れてしまうし、既にまたして欲しいと思ってしまっている。


でも   その単語を聞いた途端、急に気持ちが怯んでしまった。
園子はそういうことをしたことが一度も無く、また、したいと思ったこともなかった。
その単語が園子にとっては強烈すぎて、急に彼のことを怖く感じてしまった。
でも返信しないわけにもいかない。
【一度もないです。】
【じゃあ今度挿れてあげる。園子にとって僕が初めてすることがあるなんて嬉しいな。】
彼は無邪気そうに明るく言うが、園子は暗い気持ちになってしまう。
【園子はおじさまに初めてされることばっかりです。でも‥‥アナルはちょっと怖いです。】
【大丈夫。優しくしてあげるから楽しみにしてて。】
園子は不安になりすぎて、これ以上返信できなかった。
腕時計を見ると、化粧室に来てから既に15分ぐらい経ってしまっていたので、とりあえず席に戻ることにした。


園子は、彼が普通の会話の時にとても優しくしてくれて、それがとても嬉しいのであるが、こういうことを言われると急に複雑な気持ちになってしまう。
(こうやって私が怖く思うことを、この先もどんどんされるのかな‥‥)
もし自分が彼のすることを受け入れられなかったら、彼に嫌われてしまうのだろうか?
もし園子が受け入れられないことがあった時、彼はそれでも園子を可愛がってくれるのだろうか?




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