いびつな愛情

いびつな愛情 第14章 ~最後の片思い~

 私は反抗期の夫を受け入れながら、ただ愛するという作戦を「最後の片思い」と名付けました。(この名前には「それでも私はあなたの母ではない」という最後の抵抗もありました。飽くまで私とあなたとは恋愛でつながる関係なのだ、親子愛ではなくて、プラトンの『饗宴』で言及されているエロスで、飽くまでも恋愛の欲求なのだというこだわりがありました。)

 それまでに夫が何度かキレている姿を見て、きっと何かあるのだろうと思っていました。セックスしたくない心、洗濯物があるだけで鬼切れする心、私にお金を渡したくないという心、そこには何か彼が奥底に持っている、寂しさがあるのではないか、そう思ったのです。怒りという殻を破れば、その中に彼の柔らかい部分があり、それは優しさに満ちた素直な心で、そこに触れることができたなら、私たちはきっとどこかでわかり合えるのではないか、と。そうすればセックスするとか、しないとか、即物的な行為の向こうに、ソクラテスが言うところの、プラトニックラブがあるのかも知れないから、そんなイデアを見付けてみたいと、そんな希望を持ったのです。

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