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マリみてワンドロSS集

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「マリみて版深夜のお絵描き60分一本勝負」で書いた、過去のSSをまとめました
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記事一覧

マリみてSS「Special Occasion」

マリみてSS「Special Occasion」

お題:休日(2023/05/03)

―リリアンの生徒はいつでもどこでもリリアンらしくあれ
曰く、マリア様がみていらっしゃるから。
ああ、今日ほどこの言葉が骨身に染みたことはない。
願わくば、時を戻したい。
もし、こうなることが分かっていたのなら。
少し外に出るだけだからと、決まらないヘアスタイルのまま出かけたりしなかったのに。適当に見繕った服のまま出かけたりしなかったのに。
少し喉が渇いたからと

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マリみてSS「君のせい」

お題:有馬菜々(2023/04/12)

【1】

「ごきげんよう」
「ごきげんよう。ところで菜々さん、なにか嬉しいことでもあった?」
「…ないってば。それより、もう先生来るわよ」
私はそう言って、口元を抑えながら席についた。

軽い茶色い三つ編みの髪。
大きな瞳と濃い眉。
私達姉妹は背丈が変わらないから。
隣に立つと。
妙に近くに感じて。
「…なによ、菜々」
訝しむ、というよりも。
「…何でもあ

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マリみてSS「Walking With You」

お題:佐藤聖(2023/03/08)

三月。
春を前にしても、まだ冷たい風が頬を撫でる。
(こことも本当にお別れ、か…)
聖は目を伏せた。
幼稚舎からこの四年間の大学生活まで。
随分と長い間ここには世話になった。
葉が落ち去った銀杏並木も、もう見ることはないだろう。
悔いはない。
良い思いも悪い思いも。
好きなことも嫌なことも。
喜怒哀楽のありとあらゆる感情をここで過ごしてきた。

「卒業して四

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マリみてSS「Be Free」

お題:武嶋蔦子(2023/01/25)

ここ、リリアン女学園では、噂の回るのは早いもので。
いや、もしかしたら、女子の間ではそうなのかもしれないが。
兎にも角にも。
噂話は、聞く分には楽しいのだが。
自分がされる側になると、結構辟易するものだ。
と、蔦子は思うのだった。
笙子ちゃんが写真部に入ってからというもの、どうも二人セットで扱われているらしい。
蔦子にその気はないのだが、この学園で先輩後輩

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マリみてSS「Tell Your World」

お題:藤堂志摩子(2023/01/18)

「泣くのはいい傾向かもしれないね」
お姉さまの言葉が志摩子の頭に残っていた。
これが静さまの望んだ展開かどうかはわからない。
ただ、もう孤独はなかった。
お姉さまが受け止めてくれたから。
人前で泣いたのなんて、いつ以来だろうか。
そんな記憶が浮かばないほどに、私は感情を殺していたのだろうか。
片付けを終え、二人並んで薔薇の館を後にする。
ふと、同じ日を過

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マリみてSS「Impulse」

お題:島津由乃(2023/01/11)

「由乃は、菜々を応援していたね」
先刻かけられた言葉がこだまする。
「それでいいんだよ」
先刻かけられた言葉が残っている。
先刻行われた令ちゃんと菜々の手合わせは、勝敗もなく終わった。
引き上げた令ちゃんについていくことも、身支度を終え帰る菜々のどちらにもついていけなかった私は一人、剣道場に佇んでいた。
この手合わせは、菜々から言い出したことだ。帰り際の心

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マリみてSS「If I Fell」

お題:福沢祐巳(2023/01/04)

季節は秋。
リリアン女学園は、もっぱら来月に迫った学園祭の話題でもちきりだ。
「もし、もしもよ?」
休み時間。
祐巳の前の席にいる、桂さんが話しかけてきた。
もしも。
つまりは仮定の話であって。
If+主語+動詞の過去形…って、さっきの英語の授業が頭に残ってる。
「もし、祐巳さんにお姉さまがいたらよ?」
仮定の話だから。
だから、私にお姉さまがいないから成

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マリみてSS「かつて神童だったあなたへ」

お題:フリー(2022/12/28)

世の中は自分を中心に回っているわけではない。
だから、世の中のあらゆるものが私にとって面白くないのも。
だから、熊男が私をクリスマスも、元旦も私呼ばないのも。
全部仕方のないことなのだ。
あの人には娘さんもいるし。
そこに自分から行きたいと言い出せないのも。
そんな私の気持ちを察することができないほど不器用なあの人の性格も。
知っていて。
分かっていて。

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マリみてSS「Soulmate」

お題:卒業前小景(2022/09/21)

「ここにいらっしゃいましたか」
薔薇の館にいたその人は、夕日に照らされて、これいじょうないほどにこの空間に似合っていた。
長く美しい黒髪。凛々しいお顔。上品な佇まい。その全てが、この洋館に調和していた。
小笠原祥子さま。
私のお祖母ちゃんで。
私のお姉さまの大切な人で。
明日、このリリアンを巣立つお方。
「ごきげんよう、瞳子ちゃん」
本当は私ではなく、お

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マリみてSS「多重露光」

お題:キラキラまわる(2022/07/13)

簡単に手を繋げるような、関係じゃないのは分かってるけど―

「けど…?」
大きくて丸い瞳が、私の顔を覗き込む。
「なにが『けど』なんですか?」
いけないいけない。つい考え事が口に出てしまったようだ。
「なんでもないよ」
笙子ちゃんにそう言って苦笑いをする。
なんだか、今日の私は落ち着いていない。
カメラを持たない武嶋蔦子という存在は。
志摩子さんと由

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マリみてSS「前章「さん」付け問題」

お題:「マーガレットにリボン」より「『さん』付け問題」(2022/08/10)

「面白くないですな、江利子さん」
「面白くないですわよ、聖さん」
リリアンに入学して一ヶ月が経った。聖は白薔薇さまのつぼみの妹に。江利子は黄薔薇さまのつぼみの妹に。
そして、目の前にいる水野蓉子は、紅薔薇さまのつぼみの妹に。
それぞれ所属となった。
唯一の外部受験組でありながら、水野蓉子は優秀だった。
生徒会の業務を

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マリみてSS「Bit Per Day」

お題:手紙(2022/11/23)

いつの時代だろう、と思った。
深緑色をしたワンピースのセーラー服。
スカートは膝下丈で。
三つ折りの白ソックス。
茶色いローファー。
「これ…読んでください!」
女の子が差し出したのは、手紙だった。
バスの扉が開く音に重なるように声を出したその子は、そのまま走り去ってしまった。
(なんっだったんだろう…)
その子の事は知らないけれど、その子が着ていた制服の事は

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マリみてSS「Ready made」

お題:「フレームオブマインド」より「不器用姫」(2022/06/01)

「本当に、いいの?」
後悔。
後悔?
やめて。
黙っていて。
塞ぎ込んだ黒い感情が爆発しそうで。
私はそれを押し留めるのに必死で。
「いいのよ」
ほら、無理矢理にでも笑えば、感情は後からついてくる。
「私が望んだんだから」
今は、なんてことないふりをしていることが大事なのだから。

それならいいけど。
そう言って、蔦子さんは

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マリみてSS「Semperflorens」

マリみてSS「Semperflorens」

お題:秋(2022/10/19)

「秋といえば、バラが見たいわね」
なんてことを水野蓉子さまが仰ったとか。
祐巳は「それは面白そうですね」なんて社交辞令的に返事をしたら、すぐさま日程調整の話になって。
そんな事がきっかけで、実現した紅薔薇姉妹のバラ園探訪。
祐巳は率直に聞いてみた。
「なんで秋なのにバラなんですか?」
西洋風の庭園は、色とりどりのバラが咲き誇っていた。
「祐巳、バラは秋も見頃なの

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