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なぜ人は駅のエスカレーターを歩くのか

エスカレーターの歩行は非推奨というのが今や共通認識であると思うのですが、現実問題として歩く人はなかなか減りません。

そこで視点を変えて「なぜ人は駅のエスカレーターを歩くのか」

駅のバリアフリーという概念があまり明確でなかった頃からの鉄道利用体験を踏まえて、ちょっと推察してみたいと思います。

理由1 元はそこに階段があった


小駅によくあるパターンですが、通路からホームに降りる階段が元々ハの字に2か所あったところ、片方をすべてつぶしてエスカレーター上下に置き換えてしまった場合です。

階段がない

「お急ぎの方は階段で…」と言われても、その階段がつぶされてしまっては…というところでしょうか。

もちろん毎日使う駅なら階段に近い車両を利用する習慣をつければいいだけの話ですが、乗車駅と降車駅で階段の位置が一致するとも限らず、さりとて目の前にエスカレーターがあるのにわざわざ階段を目指す人が増えると、ホーム上の人の流れが交錯してかえって混乱のもとを作ってしまいかねません。(階段脇の狭いスペースを歩く人が増えますし)

元の階段はつぶさずにエスカレーターを別の場所に置く(そういう駅もあります)のがベストですが、上の図でいえば左右とも「階段+エスカレーター1基」の組み合わせにして、片方のエスカレーターが上り、もう片方が下りというように使い分ける方法も考えられます。

理由2 駅がどんどん大きく深くなる


こればかりは輸送力増強と裏表の宿命と言わざるを得ないでしょう。

ラッシュ緩和のために線路やホームを増やしたくても、既存の駅にスペースがなければ、地下にもぐったり更に高い高架にしたりと、どうしても地上から遠いところに作らざるを得ません。

昔の横須賀線は東海道線と同じ線路を走っていたので東京駅も地上ホームでしたが、1980年に両者を分離するときに横須賀線は総武快速線と直通することにしたため、御存じのように丸の内側の地下5階にもぐることになってしまいました。

しかも線路を分離したと同時に横須賀線は遠回り(新川崎経由)することになったため、遠回り+深いホームの合わせ技で、所要時間がだいぶ伸びてしまったのです。このため、東京駅地下ホームから地上へ出る長いエスカレーターは「歩くのが当たり前」という状態を呈するようになったのです。

私は東京駅で横須賀線~中央線乗り換えを利用していた時期がありました。当時の中央線はまだ京浜東北線の並びにホームがありましたが、今それをやろうとすると、横須賀線の地下ホームから中央線のあの高い高架ホームまで延々と上らなければならないんですよね…

理由3 乗り換える電車が向かい側にいない


複数の路線が集まる駅の場合、一般的にはその駅で乗降する人のほかに乗り換え客も階段・エスカレーターを利用することになります。
乗り換えるべき列車が見えるところにいない、通路を渡って乗り換えてるうちに乗り遅れてしまうのではないか、などと気持ちが焦るとついつい速足になってしまう気持ちもわかります。
最近は乗り換え検索アプリが充実しているので、そこまで焦ることは少ないかもしれませんが…

また、快速と普通の走る線路を分離したときに、ホームを快速用・普通用という分け方にすると、それまで簡単だった両者の乗り換えにホームの移動=階段の昇降が必要となってしまいます。

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しかし、乗り換える電車同士が同じホームに着けば、階段・エスカレーターを使わなくても乗り換えが出来ます。つまり、階段・エスカレーターを使う人そのものを減らすことが出来るのです。

これは駅によってまちまちですが、JRより民鉄、さらに同じJRでも関西のほうに一日の長があります。
高度成長期の東京圏の国電(今のJR)は、爆発的に増える需要に合わせ工期を優先して設備を作っていたので概して配慮に欠けていましたが、近年はずいぶんと良くなりました。
例えば池袋駅など、湘南新宿ラインの運転に合わせてわざわざ設備を改良しています。また、品川駅では現在、京浜東北線北行から山手線外回りに同じホームで乗り換えできるようにする工事が進められています。

理由4 同じ幅なら階段よりエスカレーターのほうが処理能力は劣る


これは簡単な理屈で、エスカレーターはベルトの幅の分だけデッドスペースが出来てしまうからです。
理由1で書いた階段をエスカレーターで置き換えるケースですが、大概の駅では階段の幅というのはぎりぎり広くとってありますから、そこにエスカレーターを置くからといってさらに広げることはできません。よって階段の時よりも人を捌く能力は低下してしまうのです。

結局、既存の駅にエスカレーターを新設するときは、なるべく既存の階段をつぶさずに設置するのが望ましい、ということになります。
それが簡単にできれば苦労しないんですけどね…

例えば根岸線の洋光台駅が理由1のようなケースですが、ここは線路が掘割にあって駅舎が道路に挟まれており、エスカレーターのために駅舎を広げるということが出来ません。打つ手なしです。

まとめ

まずは階段・エスカレーターを含めた広義の「通路」をケチらずに整備する心構えが必要です。テレワークが浸透してきたとはいえ都市部の駅利用者はまだまだ盛況ですから、少なくとも処理能力を下げてしまうことのないよう、設計段階での配慮が求められます。
そして乗り換え需要のある中・大規模駅では、なるべく多くの利用者が階段・エスカレーターを使わずに済むような配慮が必要です。これは駅の新設・改良といったある程度大きな工事の際に配慮が求められます。

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